目次

  1. 1. デジタル終活は「パスワードを残しましょう」
    1. オススメは「スマホのスペアキー」作り
  2. 2. デジタルとリアルの垣根が無くなる「遺品2.0」へ
  3. 3. 故人のSNSアカウントは、心のよりどころに
    1. デジタルが広げる「弔い」の形
  4. 4. 2020年、注目のデジタル終活の動き
    1. デジタル遺品のシンポ、今年も開催
  5. 5. 国内外で進む、個人情報保護
    1. ヤフーとLINE、「民間」が熱い
  6. 6. さいごに:すぐにできる「スペアキー」を是非!

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前回「新年こそ『デジタル終活』 家族でもめない相続のススメ 前編」に引き続き、「終活弁護士が教える相続対策」の伊勢田篤史弁護士と、「知って備えるデジタル相続」の私、古田雄介(筆者)によるデジタル終活対談をお届けします。

前編では家族で相続の話をするとき、これからはデジタル終活がいい入り口になるかもしれないと語り合いました。では具体的にどうすればいいのか。そのあたりも対談で盛り上がりました――。

古田:デジタル遺品はまだまだ正体不明な感じがあって、怖いと感じている人が多いと思います。どう向き合えばいいのか。伊勢田さんはどう伝えています?

伊勢田:最近は、セミナーなどではワンメッセージです。「パスワードを残しましょう」、と。それを何度も言って覚えてもらうように意識しています。気をつけなくてはならない問題は他にも色々ありますけど、よく分からないものに対して複雑な説明を重ねると、難しさが先に立って逆に引いてしまうんじゃないかというのがありまして。

とくにスマホのパスワードです。故人のスマホが残されても、遺族がログインできないとその先がないんですよね。ネット銀行やネット証券の口座も確認できないし、遺影写真や葬儀前に連絡を取りたい人も探せない。10秒足らずを使ってメモを残したらそれが防げる。だからそれだけはやりましょう、と。

古田:あー、そうですね。スマホってデジタル遺品だけでなく、直近の個人情報の要でもありますからね。そこにアクセスできるできないで遺族の苦労には雲泥の差が出ます。
 手帳などにメモしておくだけだと盗み見されるリスクがあるので、名刺大の厚紙に書いて、パスワード部分に修正テープを2回走らせておくのがいいですよね。いわば「スマホのスペアキー」。それで預金通帳や実印などと一緒に保管しておくという。

デジタル遺品に詳しいライターの古田雄介さん
筆者の古田雄介さん

伊勢田:そう、その古田さんの方法だと普段は安心できますし、いざというときには遺族等に伝わりやすいですよね。だから、やり方だけ家族みんなで共有して、パスワードの記入と修正テープ貼りは各自でやるのがいいかなと思います。

古田:それをやっておけば、隠したいものは普段からメインのスマホ以外のところに置くとか、自衛的な終活もやりやすくなりますしね(笑)

古田:あと思うのは、デジタル終活を進めていくと、だんだんデジタルの垣根というかベールみたいなものが取れていくじゃないですか。パスワードを紙に残せばデジタルからアナログになる、みたいな。逆に紙焼き写真をデジタル化して整理するといった変換もできる。

そうやって究極のところは、ことさらデジタルであることを意識しなくてもよくなる気がするんですよね。先日刊行した新書(『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門』)では「遺品2.0」という表現を使っているんですけど。

伊勢田:それは確かにありますね。先日知人のお母さんが亡くなって、Facebookで葬儀の告知がされていました。私もそこで葬儀を知って参列したんですが、この告知にはたくさんの方からコメントが付けられて。故人と親交のある方が若い頃の写真をアップしたりもしていました。

そうやって、告知投稿がもうそこで手を合わせられる場に変わっていったんですね。葬儀が終わった後でも、Facebookが続いている限り残る。デジタルの生かし方じゃないですけど、そういうのもありになりうるといいますか。

古田:そうですよね。SNSやブログなどの遺族による訃報投稿や故人が残した投稿は、追悼の場として公的な力を持ちうる、あるいはよりどころとして説得力を持ちうると思います。実際、お墓や葬儀の代替ではなく、故人と対話したり追憶追慕したりする新たな選択肢として機能している事例は数多くありますし。

伊勢田:選択肢が増えるのはいいことですよね。

古田:ええ。数ヶ月前、プラモデルの箱のイラストを描いていた方が亡くなって、その遺族がTwitterでいくつかの作品をアップしたら大反響を呼んだということがありました。それがきっかけで個展を開くことになったそうです。これもデジタルによって弔いの可能性を広がった好例だと思うんですよね。

伊勢田:あー、それは興味深いですね。ネットによって世界との距離が近くなるというところがありますもんね。使いようですけど、その事例はすごく素敵な使い方だと思います。

終活弁護士の伊勢田篤史弁護士
終活弁護士の伊勢田篤史弁護士

古田:最後に2020年のデジタル終活の動きについてですが、伊勢田さんはどんなところに注目していますか?

伊勢田:2019年に様々なデジタル終活サービスが登場しました。「Secbo」や「デジタルキーパー」、「まもーれe」、「CUall」、あとは年末にリリースした三井住友信託銀行の「おひとりさま信託」もデジタル遺品の消去といったメニューがありましたよね。これらのサービスが本格始動するので、どう発展していくのか非常に興味があります。

古田:毎年3月に我々で主催する「デジタル遺品を考えるシンポジウム」も、今回のテーマは「デジタル終活サービスから見るデジタル遺品との向き合い方」。実際にサービスを提供する側からしか見えないことやノウハウがあると思うので、そこを運営元の方々とがっちりディスカッションできたらと思っています。ケンカはしてほしくないですけど(笑)

伊勢田:そうですね。狭い業界なので、皆で仲良く情報交換していけたら(笑)。古田さんはどうですか?

古田:私は個人情報保護に関連するSNSやブログサービスの動きが気になっています。2020年1月に施行されるカリフォルニア州 消費者プライバシー法(CCPA)によって、IT企業による個人情報の取り扱いがさらに一段慎重になると思われます。国内でも個人情報保護法が改正されますし、結構多くのサービスが影響を受けそうですが、その一方で衰退気味のサービスの撤退が進むんじゃないかと思うんですね。
2019年もブログ大手の「Yahoo!ブログ」が終了しましたし、2020年1月には「ヤプログ!」も終わります。そのとき、故人のブログはサービスとともに消滅してしまう。そういう動きがどれくらい進むのかなと。

伊勢田:2019年末にはTwitterの休眠アカウント削除騒動もありましたよね。故人のアカウントもろとも休眠アカウントを削除するよう規約を変更しようとして世界中からバッシングされて、踏みとどまったという。

古田:ありましたよね。変動は仕方ないと思うんですけど、故人がネットに残した痕跡は家族だけじゃなくて、読者やフォロワーの人達のものでもあります。そうしたつながりに目を向ける取り組みが増えればいいなと思いますね。

伊勢田:ネット業界は変動が激しいですもんね。そういう意味では、サービスの動きは注視しなければいけないのかなと思いますね。ネットサービスは外資が多いですが、日本のネットサービスがどうなっていくのかも興味ありますよね。

古田:あー、ヤフー(ZHD)とLINEの動きは気になりますね。

伊勢田:あとはデジタル終活をとりまく環境をみると、ツールはできてきたという感があって。そこにノウハウがどれだけたまっていくのか。あとは2020年内に関連する何かが起きたりして議論が加速するかもしれませんし。

古田:法的な動きはありそうですか?

伊勢田:まだちょっとなさそうかなあと思います。法律改正の機運が高まるとすれば、社会問題が発生すること等が考えられますが、デジタル遺品が社会問題化しているかといったら、まだ早いんですよね。

古田:まずは民間。それこそ、前述のデジタル終活サービスの動きに期待したいところですね。

伊勢田:そうなんですよね。期待したいです。

スマホのパスワードを記し、修訂テープで隠した「スペアキー」のカード
スマホのパスワードを記し、修正テープで隠した「スペアキー」のカード

対談の終わりに、編集部の担当者から「2020年の終活として、まずコレをやってください、というオススメはありますか」というお題を投げかけられ、私たち2人の答えをフリップボードに書き出しました。
それは、対談でも触れていたスマホの「スペアキー」カード作りです。紙切れとペン、修正テープがあれば数分でできます。ぜひカードを作っておきましょう!

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)

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