目次

  1. 1. 亡くなった後「マイ遺品」はどうなる?
  2. 2. 「パソコンをハンマーでたたき割ってくれ」と頼まれて
  3. 3. 生前整理ならぬ、「生前推敲」を
    1. 3-1. 遺産は自分のため?孫のため?
  4. 4. 「土地が好き」って、神様か!
  5. 5. 人生、いいことばかりはありゃしない
    1. 5-1. 自分の死後は分からない

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Q みうらさんが亡くなったあと、「マイ遺品」は処分されても構わないのですか。

 はい(笑)。ま、それを燃やす焼却費ぐらいは遺しておきますが。誰だって、自分のものは気になるじゃないですか。気にならないようでは、そんなに好きじゃないんですから。(マイ遺品の)数は、ちょっと半端じゃないんです。万単位ですから。

いま借りている倉庫から出してね。一気に焼けば終わりですから。

そもそも自分が死んだ後のことを考えるのなんて、つまらないですよ。そんな分からないことを考えても結論なんて出ないんだから。「過去は終わったことで未来は分からないこと」と自分を納得させないと。自分で作ったスクラップとか、「死んだら半分あげるから」って、同い年の友達に言っても仕方ありませんしね(笑)。

だから、本当は若い人をうまく洗脳して「いいに違いない」と思わせるしかないわけです、「マイ遺品」は。ものすごい資産家だと尚更いいですがね。

でも、そうでもない限り、やっぱ一気にね(笑)。

展覧会で公開された、みうらじゅんさんが収集した「うし」。(本人提供)
展覧会で公開された、みうらじゅんさんが収集した「うし」。(本人提供)

ある人から、「俺の部屋の机にパソコンがあるから、葬式に来たらとりあえず、それをハンマーでたたき割ってくれないか?」と頼まれたことがあるんです。たぶん、付き合った女性たちの写真やらなにやらのデータがパソコンに残っているんでしょう(笑)。

「死後にデータを消して欲しい」なんて、結局、みんな「いい人だった」って言われたいんでしょう。死んだ後、パソコンに恥ずかしい写真データが見つかっちゃって、家族からの評価が下がったら台無しだ、なんてね(笑)。でも、死んだ後も、自分に都合のいいように価値は操作できませんから。

そんなきれいに、聖人みたいなフィニッシュ決められると思っていることが、痛いですよね。「終わりよければ全てよし」なんて思っていると、その先に地獄が待っていますから(笑)。

インタビューに応えるみうらじゅんさん。(撮影:伊ケ崎忍)
インタビューに応えるみうらじゅんさん。(撮影:伊ケ崎忍)

生々しいものって、あとあと、機械化されたものよりおかしく思える。僕はそれを「マイナス盛り造」って、呼んでるんですけど、やることはできる限り、まわりから「まだ、そんなことやってんの?」と言われるマイナスなことをモットーにしています。

だから、つい書く原稿も、デジタルじゃなくて手書きにこだわっちゃうんですよね。大事なのは生前整理じゃなくて、「生前推敲」じゃないかな、と思っていて。

やっぱり、最後は良い人で終わりたいんですよね。だから結局、自分のためなんじゃないですかね。

金を遺す人も、本当は金が好きで自分のために貯めたんだけど、途中で「孫のために」とか”いい人”に変えていくわけで。

本当は、「使い切れない金は稼ぐなよ」ってことじゃないですか?(笑)

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使い切れなかった金は、国が徴集すれば、国もずいぶん、助かるんじゃないでしょうかねえ。土地が好きな人なんて、そもそもいないでしょ、それ神様ぐらいの発想じゃないですか(笑)。

やっぱり、金が好きなだけの人間だと思われて死ぬのはイヤなんでしょう。

みうらじゅんさんが大切にしてきた「ゴムへび」。(本人提供)
みうらじゅんさんが大切にしてきた「ゴムへび」。(本人提供)

Q 人は誰しも死んだ後は、手を合わせてほしいんでしょうね。

A そうですよね、なんだかんだ言っても。良い人だったね、って(笑)。その一言が欲しいんですよ。

Q 最近、相続を巡っては「争族」という言葉が生まれるように揉めることがあるようです。もはや、仏教で言う「煩悩」の一つにも思えます。

A 人は、より濃く血が繫がっているものにこだわっているんですよね。「あそこの墓には入りたくない」とか言う人までいるでしょ。死んだらどこに入れられたか自分じゃ分からないくせにね。やっぱり煩悩の塊が人間ですから、今後も遺産相続のトラブルとかなくならないんでしょうね。

インタビューに応えるみうらじゅんさん。(撮影:伊ケ崎忍)
インタビューに応えるみうらじゅんさん。(撮影:伊ケ崎忍)

Q みうらさんは、色即是空という仏教の価値観が根本にあったからこそ、早めに死後を考えられたんですか?

A 若い頃は、つい「永遠」とか口にしがちじゃないですか。そんなものあるわけないし、人間の希望に過ぎませんよね。仏教的なことって、仏教に触れていなくても、いずれ死ぬ間際に気がつくんじゃないですかね、誰しも。その気づきが悟りでしょ。

「ない」と思った方が楽でしょ。仏教は哲学だから。形があると思うから、「永遠に維持したい」「つないでおきたい」ってなる。でも、本当は「ない」。ないものを望むと悩みが出るに決まってますからね。

でも、そんな難しいことをかんがえると頭が痛くなったり、急に眠くなったりする。防衛本能が人間にはついていて、気がついたら寝ちゃっていたのは、これ以上考えてもしょうがないってことですよね。

阿修羅(中央奥)や釈迦ら、みうらじゅんさんが収集した「仏像」。(本人提供)
阿修羅(中央奥)や釈迦ら、みうらじゅんさんが収集した「仏像」。(本人提供)

教典「箭喩経」(せんゆきょう)に書かれているらしいですが、ある時、弟子に「死後や未来、将来ってどう思いますか」とお釈迦さんが問われた。でも、釈迦は何も答えなかったって。答えがないのも解答だってことなんでしょうね。きっと釈迦は、「死ぬことは怖くない」と説いたのでしょう。タイの涅槃仏も笑ってますからね。無から生まれて無に帰っていくだけなんですよ、って。でも、若い時にそんなことを言ってもモテないでしょ。間違ったことしないと、人間、もてないんだもん(笑)。

インタビュー中に笑顔を見せるみうらじゅんさん。(撮影:伊ケ崎忍)
インタビュー中に笑顔を見せるみうらじゅんさん。(撮影:伊ケ崎忍)

(完。前編もあわせてお読み頂くとよりお楽しみいただけます

(記事は2020年9月1日現在の情報に基づきます)

みうらじゅんプロフィール
1958年生まれ、京都府出身。イラストレーター、小説家、コラムニストなど幅広く活躍。97年「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。著作に『色即ぜねれいしょん』(光文社)『マイ仏教』(新潮社)『マイ遺品セレクション』(文藝春秋)など多数。

(聞き手:「相続会議」編集部・渡辺朔)

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