隠したいデータが入ったPCは壊せ? みうらじゅんが語る「マイ遺品」と相続・2
イラストレーターのみうらじゅんさんに、コレクションの「マイ遺品」をからめて、終活や相続について聴く連載の後編です。
イラストレーターのみうらじゅんさんに、コレクションの「マイ遺品」をからめて、終活や相続について聴く連載の後編です。
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Q みうらさんが亡くなったあと、「マイ遺品」は処分されても構わないのですか。
A はい(笑)。ま、それを燃やす焼却費ぐらいは遺しておきますが。誰だって、自分のものは気になるじゃないですか。気にならないようでは、そんなに好きじゃないんですから。(マイ遺品の)数は、ちょっと半端じゃないんです。万単位ですから。
いま借りている倉庫から出してね。一気に焼けば終わりですから。
そもそも自分が死んだ後のことを考えるのなんて、つまらないですよ。そんな分からないことを考えても結論なんて出ないんだから。「過去は終わったことで未来は分からないこと」と自分を納得させないと。自分で作ったスクラップとか、「死んだら半分あげるから」って、同い年の友達に言っても仕方ありませんしね(笑)。
だから、本当は若い人をうまく洗脳して「いいに違いない」と思わせるしかないわけです、「マイ遺品」は。ものすごい資産家だと尚更いいですがね。
でも、そうでもない限り、やっぱ一気にね(笑)。
ある人から、「俺の部屋の机にパソコンがあるから、葬式に来たらとりあえず、それをハンマーでたたき割ってくれないか?」と頼まれたことがあるんです。たぶん、付き合った女性たちの写真やらなにやらのデータがパソコンに残っているんでしょう(笑)。
「死後にデータを消して欲しい」なんて、結局、みんな「いい人だった」って言われたいんでしょう。死んだ後、パソコンに恥ずかしい写真データが見つかっちゃって、家族からの評価が下がったら台無しだ、なんてね(笑)。でも、死んだ後も、自分に都合のいいように価値は操作できませんから。
そんなきれいに、聖人みたいなフィニッシュ決められると思っていることが、痛いですよね。「終わりよければ全てよし」なんて思っていると、その先に地獄が待っていますから(笑)。
生々しいものって、あとあと、機械化されたものよりおかしく思える。僕はそれを「マイナス盛り造」って、呼んでるんですけど、やることはできる限り、まわりから「まだ、そんなことやってんの?」と言われるマイナスなことをモットーにしています。
だから、つい書く原稿も、デジタルじゃなくて手書きにこだわっちゃうんですよね。大事なのは生前整理じゃなくて、「生前推敲」じゃないかな、と思っていて。
やっぱり、最後は良い人で終わりたいんですよね。だから結局、自分のためなんじゃないですかね。
金を遺す人も、本当は金が好きで自分のために貯めたんだけど、途中で「孫のために」とか”いい人”に変えていくわけで。
本当は、「使い切れない金は稼ぐなよ」ってことじゃないですか?(笑)
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相続の相談が出来る税理士を探す使い切れなかった金は、国が徴集すれば、国もずいぶん、助かるんじゃないでしょうかねえ。土地が好きな人なんて、そもそもいないでしょ、それ神様ぐらいの発想じゃないですか(笑)。
やっぱり、金が好きなだけの人間だと思われて死ぬのはイヤなんでしょう。
Q 人は誰しも死んだ後は、手を合わせてほしいんでしょうね。
A そうですよね、なんだかんだ言っても。良い人だったね、って(笑)。その一言が欲しいんですよ。
Q 最近、相続を巡っては「争族」という言葉が生まれるように揉めることがあるようです。もはや、仏教で言う「煩悩」の一つにも思えます。
A 人は、より濃く血が繫がっているものにこだわっているんですよね。「あそこの墓には入りたくない」とか言う人までいるでしょ。死んだらどこに入れられたか自分じゃ分からないくせにね。やっぱり煩悩の塊が人間ですから、今後も遺産相続のトラブルとかなくならないんでしょうね。
Q みうらさんは、色即是空という仏教の価値観が根本にあったからこそ、早めに死後を考えられたんですか?
A 若い頃は、つい「永遠」とか口にしがちじゃないですか。そんなものあるわけないし、人間の希望に過ぎませんよね。仏教的なことって、仏教に触れていなくても、いずれ死ぬ間際に気がつくんじゃないですかね、誰しも。その気づきが悟りでしょ。
「ない」と思った方が楽でしょ。仏教は哲学だから。形があると思うから、「永遠に維持したい」「つないでおきたい」ってなる。でも、本当は「ない」。ないものを望むと悩みが出るに決まってますからね。
でも、そんな難しいことをかんがえると頭が痛くなったり、急に眠くなったりする。防衛本能が人間にはついていて、気がついたら寝ちゃっていたのは、これ以上考えてもしょうがないってことですよね。
教典「箭喩経」(せんゆきょう)に書かれているらしいですが、ある時、弟子に「死後や未来、将来ってどう思いますか」とお釈迦さんが問われた。でも、釈迦は何も答えなかったって。答えがないのも解答だってことなんでしょうね。きっと釈迦は、「死ぬことは怖くない」と説いたのでしょう。タイの涅槃仏も笑ってますからね。無から生まれて無に帰っていくだけなんですよ、って。でも、若い時にそんなことを言ってもモテないでしょ。間違ったことしないと、人間、もてないんだもん(笑)。
(記事は2020年9月1日現在の情報に基づきます)
みうらじゅんプロフィール
1958年生まれ、京都府出身。イラストレーター、小説家、コラムニストなど幅広く活躍。97年「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。著作に『色即ぜねれいしょん』(光文社)『マイ仏教』(新潮社)『マイ遺品セレクション』(文藝春秋)など多数。
(聞き手:「相続会議」編集部・渡辺朔)
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