このサイトで「終活弁護士が教える相続対策」を連載している伊勢田篤史弁護士と、「知って備えるデジタル相続」を担当する私、古田雄介がデジタル終活について対談しました。

ちなみに、伊勢田さんと私は「デジタル遺品を考える会」の運営に関わり、毎年シンポジウムを開くなど、これまでも協業してデジタル終活の普及に取り組んできた間柄です。

(トップの対談写真は、右が伊勢田さん、左が私、古田です。)

年初は「相続の話ができなかった」後悔があふれる?

古田:あけましておめでとうございます。

伊勢田:あけましておめでとうございます。

古田:対談に先だって編集部からこんなデータをもらいまして(図1)。これ、なかなか興味深いんですよ。国内で過去5年間、Googleを使って「相続」というワードが検索された数量をまとめたグラフですが、年末年始はいつも数値がガクンと下がっているんですよ。そして、仕事始めの頃になると毎年グッと回復している。

伊勢田:へー、面白いですね。

国内で過去5年間、Googleを使って「相続」というワードが検索された数量をまとめたグラフ。
年末年始はいつも数値がガクンと下がっている。そして、仕事始めの頃になると毎年グッと回復している。
図1:過去5年間の「相続」検索ボリューム

古田:休みの日で検索機会が減っているのも要因の一つとは思いますが、背景には「本当は帰省したときに腹を割って相続の話をしたかったんだけど、結局できなかった」みたいな思いもあるんじゃないかなと。これ、どうやったらうまく切り出せると思います?

伊勢田:うーん、ひと筋縄ではいかないですよね。親を前にして話しにくいのはもちろん、兄弟姉妹との兼ね合いもありますから。一人だけ出し抜いたと思われたり、親の不興を買ったりするのも割に合わないけれど、きょうだいで共同戦線を張るのも親子の対立を生みそうですしね。

深刻化する相続の問題

古田:「元気なうちからそんな(相続の)話は縁起が悪い」という考えも根強いですしね。一方で、2010年代の10年間で終活の必要性はかなり広い世代で叫ばれるようになったと思います。縁起が悪いでは済ませなくなってきたといいますか。

伊勢田:長男が一族を束ねていたかつての日本の風景と比べると、やはり核家族化が進んで、親子や兄弟姉妹間のコミュニケーションが減ってきたところが大きいですよね。加えて、長男が家督(財産)を継ぐべきという旧来的な意識の希薄化と個々人の権利意識の高まりもあって、誰かの一存で丸く収まるというのが難しくなっている側面もあるかもしれません。特にいまはインターネットで法的なことも簡単に調べられますから。

古田:そう、そこにデジタルデバイド(情報格差)も絡んできますよね。総務省の「通信利用動向調査」をみると、世代別のインターネット利用率は10代から50代は9割を超えていて、70代は5割、8代は2割程度となっています(図2)。ちょうどいま終活を考える親と子の世代で、インターネットとの距離感に大きな隔たりがある。それが親子間で相続観や終活観のズレを生んでいるのは、いろいろな取材現場で感じますね。

総務省の「通信利用動向調査」の2010~2018年データをもとに、筆者の古田雄介が作成したグラフでは、世代別のインターネット利用率は10代から50代は9割を超えていて、70代は5割、8代は2割程度となっています。ちょうどいま終活を考える親と子の世代で、インターネットとの距離感に大きな隔たりがある。
図2:総務省の「通信利用動向調査」をもとに筆者古田が作成した図

伊勢田:伊勢田:相続対策の現場でいうと、親世代の方が率先して動いているケースも一定数あります。ただ、「死んだ後のことは残された者がやってくれる」と動かない方々も少なくなくて…。そうなると子世代はいくら知識を持っていても動きようがないんですよね。

やはり、人間いつか死ぬというのは分かっていても「明日かも」「今年かも」とは考えづらくて。ずっと先のことだと思ってしまうと、相続の話し合いも「今度にしよう」の繰り返しになってしまうのかなというのは感じますね。

デジタル終活を相続の切り口に

古田:思うんですけど、防災の日に災害に備える習慣はわりと定着しているじゃないですか。災害もいつくるか分からない。なのに定着している。なら終活や相続の話し合いもできるんじゃないかと思うんですよね。

伊勢田:あー、そうですね。確かに。「終活の日」「相続の日」みたいな。

古田:それで、親の終活ということではなくて、皆で自分の終活をやる習慣が定着したらいいなと。年末年始やお彼岸、お盆などで一族が集まる日に。

伊勢田:いいですね。皆で集まってやる。「自分達も必要だから、お父さんお母さんもどう?」というふうに勧めるなら角が立ちにくいですし。そういう意味で、デジタル終活というのはいい入り口になりそうですね。

古田:デジタルに詳しい世代が自然と場を引っ張っることになりますもんね。「自分はスマホ2台とパソコン3台持っているから大変だよ。お父さんはシンプルでいいよね。手伝おうか」みたいな(笑)

伊勢田:逆にいらっとされたり。「俺だっていろいろあるんだ」って(笑)

古田:(笑)。そうやってやりとりしながら、無理のない感じで病気になったときのことや、相続のことなどに話が広げていければいいですよね。1度に済ませるのではなくて、毎年の「終活の日」にちょっとずつ詰めていく感じで。

デジタルなら気軽に始められる

伊勢田:あともうひとつ、デジタル終活の利点と思うのは死に対してワンクッション置きやすいところです。皆で話し合うにしても、死ぬことをあんまり前面に出すのは抵抗があると思うんですよ。
そこでたとえば、一緒にスマホのフォトライブラリーを見ながら、「最近撮った写真で気に入った写真ある?」「風景じゃなくて顔が写ってるやつで」と遺影候補の写真をそれとなく聞き出したり、友達との旅行写真を見せてもらいながら、緊急時に連絡すべきキーパーソンをそれとなく掴んだり。スマホやパソコンを介すと、そういうことが自然にやりやすいですから。

古田:「Googleアカウントのプロフィールページ用に顔写真を設定しよう」とか、「スマホの緊急連絡先設定をやっていない? なら一緒に設定しよう」とか、いろいろやれますもんね。家族それぞれがバラバラに暮らしていることが多いから、そういう人生のすり合わせみたいなものは今後より重要になってくるのかもしれませんね。その道具としては世代を問わずスマホやネットが主役になっていく気もします。

終活、相続は「みんなで」共有しながら進めよう

古田:ただちょっと厄介なのは、デジタル終活はある程度のところまで一人でやれてしまうんですよね。というより、内緒にしておきたいデータや履歴があるなら、むしろ一人で黙々とやりたくなる。

伊勢田:確かにそうですね。基本的に一人で使うものですから。

古田:けれど一人で完結してしまうと、いざというときに本当に生きる終活にはならない。2019年に取材させてもらった墓じまいの話が印象でした。退職後に一族の墓を継承した人が、家族親族誰にも相談せずに勝手に墓じまいしてしまって、大もめになるということがしばしば起こっているそうです。そういう独りよがりの終活になってしまうと、かえってトラブルの種になる。

終活って所有が自分から誰かに移る場合の備えという側面があります。家族がいる場合はやっぱり合意形成は欠かせないと思うんですよね。一人暮らしの場合でも、相続人や友人など関係する人とのやりとりは必須かなと。

伊勢田:そうですね。一人でやる局面と、家族や周囲の人とやる局面、両方考えて取り組むのがよいと思います。前日までに向けて少し一人で準備して、「終活の日」を迎える、みたいな。

古田:そうですね。そういう感じで2020年中に定着したら最高ですねー。

伊勢田:本当に。


後編では具体的なデジタル終活の方法と、2020年に注目したいデジタル終活界隈の動きについて語り合います。乞うご期待。


(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)