目次

  1. 1. 遺留分を獲得した場合、相続税申告が必要になることがある
  2. 2. 相続税申告前に、遺留分侵害額を受け取った場合
  3. 3. 相続税申告後に、遺留分侵害額を受け取った場合
    1. 3-1. 遺留分義務者が「更正の請求」をした場合
    2. 3-2. 遺留分義務者が「更正の請求」をしなかった場合
  4. 4. 相続税の申告期限までに、遺留分の争いが決着しない場合
    1. 4-1. 相続税申告の期限は10カ月以内 延長は原則不可
    2. 4-2. 遺留分をもらう前の内容で、暫定的に相続税申告をする
  5. 5. 遺留分侵害額を受け取って修正申告をした場合、ペナルティはあるのか?
  6. 6. 遺留分を支払った側の相続税申告はどうなる?
  7. 7. まとめ|遺留分問題は弁護士に相談を

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遺留分は、被相続人(亡くなった人)のきょうだい以外の法定相続人に最低限保障される遺産取得分です。この権利は遺言によっても奪うことはできません。遺留分は「権利」なので、請求するかどうかはその相続人の判断次第ですが、遺留分を侵害されていたら、遺留分義務者(遺留分を侵害し、遺産をもらいすぎている相続人)に「遺留分侵害額請求」を行うことができます。

「遺留分侵害額請求」とは「遺留分をお金で返してもらう手続き」を指します。遺留分侵害額請求を行って遺留分侵害額を受け取った場合、相続税にはどのように影響するのでしょうか?

まず遺留分侵害額には相続税が課税されます。よって遺留分侵害額を受け取ったら、遺留分権利者(遺留分が認められた相続人)には相続税がかかる可能性があります。以前に相続税を払っている場合、遺留分侵害額の分、相続税額が増える可能性もあります。

ただし、遺留分の精算が完了したタイミングや、遺留分義務者が「更正の請求」を行うか否かによって、遺留分権利者が相続税申告(修正申告)を要するかどうかが異なってきます。

なお、更正の請求とは、税金を払いすぎた人などが還付を受けるために行う税額訂正の請求です。遺留分義務者は遺留分の支払いによって税額が低くなるので、更正の請求ができます。ただし、請求するかどうかは遺留分義務者の自由なので、更正の請求が行われない場合も考えられます。

相続人ごとの遺留分の割合の一覧表。遺留分を侵害されていたら、侵害した相手に「遺留分侵害額請求」を行うことができます
相続人ごとの遺留分の割合の一覧表

【関連】遺留分侵害額請求 弁護士に依頼すると費用はいくら? 弁護士の選び方やメリットも解説

以下では相続税申告前に遺留分の清算が完了したのか、相続税申告後になってしまったのか、場合分けして相続税申告に対する影響を解説します。

相続税申告前に遺留分の精算が完了した場合、遺留分精算後の遺産受け取り分に応じて、遺留分権利者と遺留分義務者がそれぞれ相続税申告を行う必要があります。

相続税申告後に遺留分の精算が完了した場合、遺留分義務者が「更正の請求」を行うか否かによって遺留分権利者が修正申告(または期限後申告)すべきかどうかが異なってきます。

すでに述べたとおり、更正の請求とは、税金を払いすぎた人などが還付を受けるために行う税額訂正の請求を指します。遺留分義務者は遺留分の支払いによって税額が低くなるので、更正の請求が可能となります。請求するかどうかは遺留分義務者の判断に委ねられるので、更正の請求が行われないケースも考えられます。

遺留分義務者によって更正の請求が行われた場合、遺留分権利者は修正申告または期限後申告をしなければなりません。遺留分権利者がもともと申告していた場合には修正申告、もともと申告していなかった場合には期限後申告が必要となります。

一方、遺留分義務者によって更正の請求が行われない場合、遺留分権利者が修正申告や期限後申告を行う必要はありません。更正の請求が行われない場合、遺留分義務者によって相続税の全額が払われている状態だからです。相続税を負担すべき人は違っても、相続税の総額は変わらないので税務署側としては問題になりません。

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遺留分侵害額請求の争いが長引き、相続税申告の期限を過ぎてしまったら各当事者による相続税申告はどのように行えば良いのでしょうか? 以下で対処法をご説明します。

相続税申告の期限は「自己のために相続の開始を知った時から10カ月以内」です。災害時などの例外的な場合を除き、期限の延長は認められません。「遺留分侵害額の問題が片づいていない」という理由による延長もできません。よって遺留分侵害額請求が起こっていて解決していなくても、10カ月以内に相続税の申告を行う必要があります。

【関連】相続税の申告期限は10カ月 過ぎた場合のペナルティと対処法とは

それでは遺留分侵害額請求の決着がついていない状態で期限が来たら、相続税申告はどのような方法で行えば良いのでしょうか?

この場合、遺留分精算前の遺産相続内容に従って暫定的に相続税申告を行います。たとえば遺言書で遺産が分配された場合、遺言書の内容に応じて各相続人や受遺者が相続税申告をします。

後に遺留分侵害額が精算された場合には、遺留分義務者による更正の請求や遺留分権利者による修正申告などによって対応することになります。

遺留分侵害額を受け取った場合、以前に申告したより高額な相続税がかかったり以前申告していなかったのに相続税がかかったりしてしまう可能性があります。その場合、修正申告や期限後申告をすると、延滞税や加算税などのペナルティが発生するのでしょうか?

結論的に「遺留分額が確定した日の翌日から4カ月以内」に修正申告や期限後申告を行えば、延滞税や加算税は免除されます。税金の申告が遅れたり数字が違っていたりしたことについて、後発的事由にもとづく正当な理由があるためです。

その期限を過ぎると、延滞税、過少申告加算税、無申告加算税が課される可能性があるので、遺留分侵害額を受け取ったら早めに修正申告や期限後申告の準備をしましょう。

遺留分を支払うと、当初に申告したより遺産の受け取り分が減ってしまいます。すると相続税の払いすぎになる可能性がありますが、更正の請求を行って払いすぎた相続税を還付してもらうことができます。更生の請求にも和解成立の翌日から4カ月以内という期限があるので、遺留分を払った場合には早めに更正請求の準備をしましょう。

相続税の更正の請求の手続きは複雑で専門知識がないとスムーズにできないケースも少なくありません。遺留分侵害額を払って相続税額が変わる場合などには、相続税関係に力を入れている税理士に相談すると良いでしょう。

遺留分侵害額請求が行われると、遺留分侵害者と遺留分権利者それぞれにかかる相続税額が変わってくる可能性があります。そうなったら遺留分権利者は修正申告や期限後申告、遺留分義務者は更正の請求をしなければなりません。相続税の申告についてわからないことがあれば、税理士へ相談しましょう。

一方、遺留分侵害額請求のトラブル対応については税理士では対応できません。トラブル解決ができるのは弁護士のみです。弁護士には代理交渉や調停と訴訟の代理などを依頼できます。遺留分侵害額請求が起こると、お互いに感情的になりやすくトラブルが長期化するケースも多々あります。スムーズな解決を図るためは弁護士に相談するのが良いでしょう。相続税申告が心配な場合は、弁護士から税理士を紹介してもらえるケースもよくあります。

遺留分や相続税について心配ごとがある場合、まずは相続関係に積極的に取り組んでいる弁護士や税理士に相談してみてください。

(記事は2023年3月1日時点の情報に基づいています)

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