目次

  1. 1. 相続放棄とは
    1. 1-1. 相続放棄すべき場合の例
    2. 1-2. 相続放棄の手続き
    3. 1-3. 相続放棄の期限は3カ月以内
  2. 2. 相続放棄についてよくあるトラブル事例と対処法
    1. 2-1. ほかの相続人から相続放棄を迫られる
    2. 2-2. 黙って相続放棄をした結果、次の相続人に迷惑がかかる
    3. 2-3. 相続放棄をしたあとも、しつこく債務の弁済を求められる
    4. 2-4. 相続放棄をしたあと、不動産の管理不備で近隣被害が生じた
    5. 2-5. 財産調査に時間がかかり、相続放棄の期限に間に合わない
    6. 2-6. 相続財産を処分してしまい、相続放棄が無効になった
    7. 2-7. 相続放棄をしたものと誤解していた
  3. 3. まとめ|相続放棄のトラブルは弁護士に相談を

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相続放棄とは、被相続人(以下「亡くなった人」)の権利や義務を一切相続しない制度です。預貯金などのプラスの財産と借金などのマイナスの財産のいずれも一切相続しません。

民法では、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」(民法939条)と規定されています。

亡くなった人の債務が資産を上回っている場合や地方の不動産など管理困難な遺産がある場合、または亡くなった人やほかの相続人と疎遠であるなど遺産分割に関わりたくない場合などに相続放棄を検討すべきです。

相続放棄をする場合、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出しなければなりません。亡くなった人の配偶者や子が相続放棄をする場合に必要な書類は下記のとおりです。父母や兄弟姉妹が相続放棄をする場合には、追加で書類が必要ですので注意してください。

配偶者や子が相続放棄をする場合に必要な書類

  • 相続放棄の申述書
  • 亡くなった人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
  • 亡くなった人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

必要書類一式を提出したあと、家庭裁判所から照会書が届くことがあるため、回答して返送します。その後、問題がなければ申述が受理され、家庭裁判所から「相続放棄受理通知書」という書面が届きますので、これをもって手続き完了です。

相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」(主に相続される人の死亡を知ったとき)から3カ月以内にしなければなりません。相続に関する期限の中でも特に短いので、期限を過ぎてしまわないように注意が必要です。

相続財産の調査に時間を要するなど、この期限内に相続放棄するかどうかを決定できない事情がある場合には、家庭裁判所に申し立てることで(相続の承認または放棄の期間の伸長の申立て)、期間を延ばしてもらえる可能性があります。この申立ては、上記3カ月の期限内に行う必要がありますので注意してください。

また、亡くなった人に財産が一切ないと思い相続放棄をしなかったところ、後に借金があることが判明した場合など、上記の期限後であっても相続放棄をすることが可能な場合もあります。

相続放棄の流れ
相続放棄の流れを図解。相続放棄は、原則として相続される人の死亡を知ったときから3カ月以内にしなければなりません

【関連】相続放棄のメリットとデメリット 借金を相続せず済むが、欲しい財産を手放す必要も​​

相続放棄を巡り、次のようなトラブルが生じる恐れがあるので注意しましょう。

  • ほかの相続人から相続放棄を迫られる
  • 黙って相続放棄をした結果、次の相続人に迷惑がかかる
  • 相続放棄をしたあとも、しつこく債務の弁済を求められる
  • 相続放棄をしたあと、不動産の管理不備で近隣被害が生じた
  • 財産調査に時間がかかり、相続放棄の期限に間に合わない
  • 相続財産を処分してしまい、相続放棄が無効になった
  • 相続放棄をしたものと誤解していた

それぞれの事例と対処法について、詳しく解説します。

被相続人(亡くなった人)の生前か死後かを問わず、ほかの相続人から相続放棄を迫られるケースがあります。相続放棄すべきか否かは、あくまでも本人の自由な意思で判断すべき事項です。また、そもそも相続放棄は被相続人の死後にしか手続きができません。ストレスを感じるレベルなら弁護士に相談しましょう。

相続人には順位があり、子が第1順位、親や祖父母などの直系尊属が第2順位、兄弟姉妹が第3順位です(民法887条・889条)。

相続順位の家系図
相続順位の家系図。配偶者は常に相続人となります

先順位の相続人がいる場合、後順位の相続人には相続権はありません。他方、先順位の相続人全員が相続放棄をすると、後順位の相続人に相続権が移ることになります。たとえば、子が全員相続放棄をすれば親や祖父母などの直系尊属に、直系尊属が全員相続放棄をすれば兄弟姉妹に相続権が移ります。相続権が移ると、借金などのマイナスの財産​​も得るケースがあります。

そのため、後順位の相続人に連絡せずに相続放棄をすると、債権者から後順位の相続人に対して突然請求がなされるなど迷惑をかけてしまう可能性があります。したがって、相続放棄をする場合は、後順位の相続人に対し、事前に相続放棄をする旨などを伝えておくことが望ましいと言えます。

相続放棄をすれば、相続債務を弁済する義務はなくなります。そのため、裁判所に発行してもらえる「相続放棄申述受理通知書」や「相続放棄申述受理証明書」を債権者に提示して、弁済義務がない旨を伝えましょう。債権者からの請求がしつこい場合は弁護士に相談し、弁護士から通知してもらうと良いでしょう。

相続放棄をすると、相続に関する一切の責任から解放されるように思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。民法は「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(940条1項)として、相続放棄をした者の管理義務を定めているためです。

この管理義務に関してよく問題となるのが、相続放棄をした者が管理していない空き家などの不動産の管理義務です。上記の民法の規定からすると、せっかく相続放棄をしても、老朽化によって建物が倒壊するなど近隣被害が生じた場合、管理義務を負う相続人は損害賠償を強いられる可能性が否定できません。損害賠償を避けるためには、ほかの相続人や相続財産管理人に管理を引き継ぐことを検討しましょう。

他方、上記の民法の規定からは、管理義務を負う要件や内容は必ずしも明らかではありません。たとえば、相続放棄をした者がもともと管理していない不動産の管理義務を負うのかどうか判然としません。もっとも、2023年4月1日施行の民法改正によって、相続放棄をした者の管理義務が明確化されることになりました。

相続放棄をした者の管理義務の明確化
改正後民法940条1項の内容は下記のとおりです。

「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

改正後民法では、管理義務を負うのは「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限られるようになりました。そのため、相続財産をした者がもともと管理していない不動産の管理義務を負うことはありません。相続放棄をする場合は、相続財産を現に占有していない場合が多いと思われますので、この改正によって管理義務で悩むケースは少なくなるでしょう。

相続土地国庫帰属制度の新設
なお、管理困難な土地の相続について、相続放棄以外の選択肢が加わります。2023年7月より始まる相続土地国庫帰属制度です。

これは、相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度です。

そのため、相続財産に管理困難な土地が含まれていたとしても、相続放棄をするのではなく、相続した上で同制度を利用することができます。ただし、どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではなく、さまざまな要件があるため注意が必要です。

【関連】相続土地国庫帰属法とは  相続した土地を国に引き取ってもらう条件や手続きを解説

相続財産の種類が多い場合や、複数の債権者から借金をしていた場合などには、財産調査に時間がかかることが多いです。期限に間に合いそうにない場合は、家庭裁判所に期間を延ばしてもらいたい旨の申立て(相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て)をすることを検討しましょう。

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相続人は通常、相続を承認するか、あるいは相続放棄をするかを自由に選ぶことができます。しかし、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」すると、相続することを承認したとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます(民法921条1号・法定単純承認)。すでに家庭裁判所で手続きを完了していたとしても相続放棄は無効になってしまいます。

そのため、相続放棄をする場合には、相続財産の「処分」に該当しないように、原則として相続財産に一切手をつけるべきではありません。ただし、葬儀費用など、裁判例で相続財産の「処分」に該当しないと判断される傾向にある支出もあります。支出したい費用や支出してしまった必要がある場合は、早めに弁護士に相談しましょう。

【関連】相続放棄の前後にしてはいけないこと 遺品整理はダメ?葬式代は? 注意点を解説

前述のとおり、相続放棄をするには、家庭裁判所での手続きが必要です。そのため、単に相続人間で相続放棄をする合意をしたとしても、それは民法上の相続放棄(939条)ではありません。たとえば、ほかの相続人と合意して「私は被相続人の財産を一切相続しない」という書面を取り交わしていたとしても、それは相続放棄ではないということです。

家庭裁判所での手続きがなされていない場合、債権者は相続人間の合意に拘束されないため、債権者から支払いを求められれば、支払いをしなければなりません。また、そのような合意は遺産分割協議と言えることから、前項の相続財産の処分に該当し、相続放棄ができなくなるおそれすらあります。相続放棄をしたい場合には、家庭裁判所で手続きをするようにしましょう。

相続放棄に関する不安や疑問は、相続される人の生前であっても弁護士に相談することができます。早めに相談することで、トラブルを避けられる可能性が高くなりますし、安心感も得られるでしょう。亡くなった人の死後、相続放棄の手続きを弁護士に依頼することも可能です。実際にトラブルが発生している場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。相続放棄については予期せぬトラブルが発生するケースも多く、円滑に相続放棄を行うために一度弁護士に相談することをお勧めします。

(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)

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