目次

  1. 1. 相続財産清算人(相続財産管理人)とは
    1. 1-1. 相続財産清算人の役割と権限
    2. 1-2. 相続財産清算人の選任手続き
    3. 1-3. 相続財産清算人に誰がなる?
  2. 2. 相続財産清算人が選任される要件
  3. 3. 相続財産清算人が活用される具体的事例
    1. 3-1. 債権者として、債権を回収したい場合
    2. 3-2. 成年後見人であった人が財産を引き継ぎたい場合
    3. 3-3. 相続放棄をしたものの、占有者として保存義務を課せられている場合
    4. 3-4. 特別縁故者として財産分与を受けたい場合
    5. 3-5. 空き家による被害を防止したい場合
  4. 4. 相続財産清算人がつかないケース
  5. 5. 相続財産清算人の選任と相続財産管理人の違い|民法改正による変更点
  6. 6 相続財産清算人の選任申立てにかかる費用
    1. 6-1. 申立て費用
    2. 6-2. 予納金
  7. 7. 相続財産清算人選任後の手続きの流れ
    1. 7-1. ステップ1:家庭裁判所による公告
    2. 7-2. ステップ2:相続財産清算人による相続財産の管理開始|財産の引き継ぎや名義変更など
    3. 7-3. ステップ3:相続債権者や受遺者に対する請求申出の公告や弁済
    4. 7-4. ステップ4:特別縁故者への相続財産の分与
    5. 7-5. ステップ5:残余財産の国庫への帰属
  8. 8. 相続財産清算人に関してよくある質問
  9. 9. まとめ|わからないことがあれば、弁護士に相談を

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相続財産清算人(相続財産管理人)とは、被相続人(以下、亡くなった人)に相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合に、相続財産を管理したり清算したりして、最終的に残った財産を国庫に帰属させる職務を行う人のことです。

民法上、ある人が亡くなったものの、その人に相続人がいることが明らかでないときは、亡くなった人の財産は法人とみなされます(民法951条)。そのため、相続財産清算人は、その法人の代表者として、残った財産を国庫に帰属させるまでの職務を行うことになります。

相続財産清算人の主な役割は、相続財産を管理するとともに、これを清算して、相続債権者や受遺者に対して弁済したり、国庫に帰属させたりすることです。

相続財産清算人の権限は民法103条が定める範囲内(保存行為など)の行為に限られ、これらを超える権限外行為をするには家庭裁判所の許可が必要です(民法953条、28条)。保存行為や権限外行為の具体例は以下のとおりです。

保存行為の具体例
・預貯金口座の解約や払戻し
・不動産登記申請
・建物などの修繕

権限外行為の具体例
・不動産の処分(建物の取り壊しを含む)
・動産の売却、譲渡、贈与、廃棄(自動車の売却や廃車手続きを含む)
・ゴルフ会員権、株券などの売却
・永代供養料の支払い、墓地などの購入費用

利害関係人や検察官が亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に選任申立てをし、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。利害関係人とは、相続財産について法律上の利害関係を有する者を言います。利害関係人の代表例は以下のとおりです。

  • 事務管理者
  • 成年後見人であった者
  • 相続債権者、担保権者
  • 葬儀費用を立て替えた者
  • 相続債務者
  • 特別縁故者であると主張する者

上記の利害関係人に該当しなくても、国の行政機関の長または地方公共団体の長は、所有者不明土地について、その適切な管理のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所に対し、相続財産清算人の選任申立てが可能です(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法42条)。また、空き家などについて、その適切な管理のため特に必要があると認めるときも同様です(空家等対策の推進に関する特別措置法14条)。

そのため、亡くなった人の土地にごみの不法投棄がされていたり、建物が倒壊しそうになっていたり、周辺に悪影響を与えている場合には、地方公共団体の長などが相続財産清算人の選任を申し立てることが可能です。

相続財産清算人になるうえで、法律上の決まりはありません。しかし、相続財産清算人は、相続債権者や受遺者に対する弁済や財産の換価処分に加え、生計を共にしていた、または特別に親しい間柄にあったなどの理由で法定相続人がいない際に遺産を取得​​できる特別縁故者に対する相続財産分与の手続き、さらには国庫帰属手続きなど、多数の法的問題に対応しなければならないため、申立て先の家庭裁判所の地元の弁護士が選任されることが多いと言えます。

相続財産清算人が選任される要件は以下のとおりです。

  • 相続が開始したこと(亡くなった人の死亡日が相続開始日となる)
  • 相続財産が存在すること
  • 相続人の存否が不明であること(民法951条)

典型的には、戸籍上の相続人が見当たらない場合や、戸籍上の相続人は存在するものの全員が相続放棄をした場合に相続財産清算人が選任​​されます。なお、あとから相続人がいることが判明した場合は、相続財産清算人の職務は終了します。

相続財産清算人が活用される具体的事例は主に以下の5つです。

  • 債権者として、債権を回収したい場合
  • 成年後見人であった人が財産を引き継ぎたい場合
  • 相続放棄をしたものの、占有者として保存義務を課せられている場合
  • 特別縁故者として財産分与を受けたい場合
  • 空き家による被害を防止したい場合

亡くなった人に対してお金を貸していた債権者が、相続財産から当該貸金を回収する目的で相続財産清算人の選任申立てをするケースは少なくありません。近年は、マンションの管理組合が、滞納された管理費や修繕積立金などの回収を目的として相続財産清算人を頼ることも多くなっています。

具体的には、相続財産清算人に相続財産を調査してもらったり、不動産を売却してもらったりして、相続財産から貸金や管理費を回収します。相続財産が見つかる可能性や不動産を売却できる可能性を十分に検討したうえで申し立てることが大切です。

認知症や知的障害など​精神上の障害によって判断能力が低下し、成年後見制度を利用して保護や支援を受けていた成年被後見人が死亡した場合、同人に相続人がいれば相続財産を相続人に引き継げます。しかし、相続人がいなければ引き継ぐことはできません。

そこで、成年後見制度​​のもと、亡くなった人をサポートしていた成年後見人が、相続財産を引き継ぐ目的で相続財産清算人を必要とする場合があります。

相続放棄をしても「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」(民法940条1項)とされています。

たとえば、親名義の実家に暮らしている人が親が亡くなったあとに相続放棄したとしても、その人には実家の保存義務があります。

そこで、相続放棄をした人が、現に占有している財産を相続財産清算人に引き渡し、その保存義務を免れる目的で活用します。

【関連】相続放棄しても空き家の管理義務は残る?【2023年ルール変更】免れるための対処法も紹介

民法958条の2第1項は、家庭裁判所は、亡くなった人と生計を同じくしていた者、亡くなった人の療養看護に努めた者その他亡くなった人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができると規定しています。

この条件で財産を受ける人を「特別縁故者​​」と呼び、亡くなった人と生計を同じくしていた内縁の配偶者(事実上の配偶者)や事実上の養子、亡くなった人の療養看護に努めていた親族などが、相続財産から財産分与を得る目的で相続財産清算人を活用します。

具体的には、相続財産清算人に相続財産の管理、清算をしてもらったあと、あらためて裁判所に財産分与の申立てをし、分与の審判を受けることで、相続財産清算人から財産の分与を受けます。自らが特別縁故者に該当すると裁判所に認めてもらえるかどうかを十分に検討したうえで申し立てることが大切です。

空き家の倒壊によって被害を受ける可能性のある近隣住民や空き家対策を担う自治体が、空き家の管理や処分をしてもらう目的で相続財産清算人を頼りにするケースもあります。

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そもそも相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄した場合でも、自動的に相続財産清算人が選任されるわけではありません。事務管理者や成年後見人だった人といった利害関係者などが申立てをしなければ、相続財産清算人は選任されません。

たとえば、亡くなった人に不動産や預貯金などの財産があれば、債権者はお金を回収できる可能性があるため、申立てをすることもあるでしょう。他方、亡くなった人が賃貸の部屋に暮らしており、しかも返済が滞っていた場合などは、お金を回収できる可能性は低いため、誰も申立てをしないこともあり得ます。

2023年4月1日施行の法改正によって、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました。また、名称の変更だけではなく、下記のとおり、公告手続が合理化(短縮)されました。

なお、改正後も「相続財産管理人」という名称は残っていますが、これは相続財産の清算を目的としない場合の名称であり、相続財産の清算を目的とする「相続財産清算人」とは異なりますので、注意してください。

旧法では、①家庭裁判所による相続財産管理人選任の公告(民法952条2項)を2カ月間行い、②その後にすべての相続債権者及び受遺者に対する請求申出を求める公告(民法957条1項)を最低2カ月間行い、さらにその後に、③相続人捜索の公告(民法958条)を最低6カ月間行うこととされていました。そのため、最短でも権利関係の確定に合計10カ月超を要していました。

しかし、改正によって、①と③を同時に行うこととし(民法952条2項)、さらに②の公告の期間は他の公告の期間が満了するまでに満了することとされました(民法957条1項)。その結果、権利関係の確定に要する期間が10カ月超から6カ月に短縮されることになりました。

相続財産清算人の選任申立てについては、主に申立て費用と予納金が必要となります。

・収入印紙800円分
・連絡用の郵便切手
・官報公告料5075円

相続財産の内容からして、相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用(相続財産清算人に対する報酬を含む)に不足が出る可能性がある場合、裁判所が申立人に対して事前に予納金の納付を求めることがあります。

予納金の金額は100万円前後になることが一般的です。たとえば東京家庭裁判所では、原則として100万円の予納を依頼しているようです。

ただし、相続財産の内容や管理状況によって増減します。仮に相続財産清算人が処理すべき業務量や範囲が限定的である場合は、100万円を下回ることもあるでしょう。また、相続財産を管理するために必要な費用を上回る多額の預貯金がある場合は、予納金の納付を求められないこともあります。

なお、不動産の売却などによって相続財産から管理費用を支払えた場合、残っている予納金は申立人に還付されます。また、予納金では必要な費用に不足するとしてさらに追加の納付を求めることは基本的にありません。

相続財産清算人選任後は図表「相続財産清算人選任後の手続きの流れ」のとおりです。

相続財産清算人選任後の手続きの流れを図解。相続財産清算人は、申立人と連携して財産の引き継ぎなどを行います
相続財産清算人選任後の手続きの流れを図解。相続財産清算人は、申立人と連携して財産の引き継ぎなどを行います

家庭裁判所は、遅滞なく、相続財産清算人を選任したこと及び相続人があるならば一定の期間内(6カ月以上)にその権利を主張すべき旨を公告します(民法952条2項)。

相続財産清算人は、申立人と面談するなどして、申立人などが所持する亡くなった人の現金や預貯金通帳、鍵などを引き継ぎます。この引継ぎによって、前記の相続放棄後の保存義務(民法940条1項)を免れることができます。

また、不動産については、相続財産法人が成立したことを公示するため、原則として、相続財産法人名義への登記名義人の表示変更登記を行います。

その他、相続財産の内容や方針に応じて、相続財産を管理、処分します。たとえば、不動産や株式などは換価することが多いです。

相続財産清算人は、すべての相続債権者や受遺者に対し、一定期間内(2カ月以上)にその請求の申出をすべき旨を公告します(民法957条1項)。また、公告と並行して、把握している債権者や受遺者に対して各別に申出の催告をします(同条2項・927条3項)。請求申出の期間満了後には、一定の順位、手続きに従って弁済をします。

特別縁故者は、相続人捜索の公告期間満了後の3カ月以内に、家庭裁判所に対して財産分与の申立てをすることが可能です(民法958条の3)。家庭裁判所によって分与の審判がなされた場合、相続財産清算人は、その内容に従い、特別縁故者に相続財産を分与します。

特別縁故者への相続財産の分与後に残った財産は、国庫に帰属します(民法959条)。そのため、相続財産清算人は、財産の内容に応じて、国庫に帰属させるための手続きをします。なお、不動産の共有持分やその他の財産権の共有持分権は、国庫ではなく、ほかの共有者に帰属します(民法255条)。

残余財産がすべて国庫に帰属すると、管理すべき相続財産がなくなりますので、相続財産清算人の職務は終了です。

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Q. 相続財産清算人の選任申立てが却下されることはある?

申立人が利害関係人に該当しない場合や相続人がいることが明らかな場合など選任の要件を欠く場合には却下されてしまいます。他方、相続財産の管理が難しいからという理由で却下されることはありません。

Q. 相続財産清算人への報酬は誰が払う?

相続財産清算人への報酬は、亡くなった人の相続財産から支払われるのが原則です。ただし、相続財産から支払えない場合、申立人の予納金から支払われます。

Q. 相続財産清算人が引き継いだ不動産が売れないとどうなる?

相続財産清算人が引き継いだ不動産が売れない場合、最終的には不動産のまま国庫に帰属します。具体的には、相続財産清算人において、所轄の財務局長に引き渡します。なお、引き継いだのが不動産の共有持分権である場合は、国庫ではなく、ほかの共有者に帰属します(民法255条)。

Q. 相続財産清算人の選任を誰も申し立てなかったらどうなる?

誰も家庭裁判所に申立てをしなければ、相続財産清算人は選任されません。そのため、亡くなった人の相続財産は放置されることになります。放置された結果、相続財産である土地にごみの不法投棄がなされていたり、建物が倒壊しそうになったりして問題が生じた場合には、近隣住民や自治体などが申立てを検討することになるでしょう。

亡くなった人の相続財産に利害関係があるものの、そもそも相続人がいなかったり、相続人全員に相続放棄をされたりした場合には、相続財産清算人選任の申立てを検討しましょう。相続財産清算人が、相続財産を管理したり、清算したりする複雑な対応を引き受けてくれます。​​相続財産清算人を選任してもらうことによるメリットやデメリットなどわからないことがあれば、たとえば​​相続財産清算人の経験がある弁護士に相談することをお勧めします。

(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています)

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