相続放棄のメリット・デメリット

メリット1 負債を相続しなくて済む

法定相続人は、亡くなった方(被相続人)の一切の権利義務を承継します(民法896条)。被相続人が借金等の負債を残して亡くなった場合、相続人は負債も含め相続します。 

しかし、相続放棄の手続きをとれば、負債を相続することはありません。相続放棄の効果について、民法では、「初めから相続人とならなかったものとみなす」としています(民法939条)。相続放棄すれば相続人ではなくなり、被相続人の負債を相続せずに済みます。 

メリット2 親族間の遺産争いから離脱できる

相続放棄のメリットには、「遺産争いから離脱できる」という点が挙げられます。相続人の間で、遺産の分け方を巡って争いになるのはよくあることです。相続放棄すれば相続人ではなくなり、こうした親族間の遺産争いから離れることができるでしょう。

デメリット1 放棄の撤回はできない

相続放棄の手続きを行うと、期間内であっても撤回できません(民法919条)。相続放棄後にプラスの遺産があることが判明しても、相続放棄の撤回はできないことになっています。 

デメリット2 自宅等の相続したいものも相続できなくなる

相続放棄すると一切の相続権を失います。遺産のうち自宅だけは相続したいと思っても、相続放棄すれば相続はできません。同様に、宝飾品等の動産で、いわゆる「形見」であっても、相続できなくなります。形見分けしてほしいものがある場合は、他の相続人の承諾を得て譲ってもらうしかありません。

デメリット3 親族に迷惑がかかる可能性がある

同順位にある相続人全員が相続放棄すると、相続権は次順位の相続人に移ります。例えば、被相続人に子が3人いる場合、子の1人だけが相続放棄すれば子2人で相続することになりますが、子3人全員が相続放棄すると、次の順位である被相続人の両親、兄弟姉妹に相続権が移ることになります。

相続放棄により相続権が次順位の相続人に移ったことは、家庭裁判所から通知されないため、次順位の相続人は知らぬ間に相続権を引き継ぐことになります。

被相続人の債権者が負債の支払いを請求したりすることで、初めて相続権を引き継いだことを知るケースもよくあります。次順位の相続人からすると、突然、債権者から支払いを求められて困惑したり、慌てて支払ってしまったりするということも起こりえます。

このように、相続放棄すると、次順位の相続人(祖父母、叔父・叔母ら)に迷惑がかかってしまうかもしれません。親族には予め相続放棄することを伝えておいたほうが良いでしょう。

相続放棄の手続き

期間は3か月以内

相続放棄の手続きは家庭裁判所で行います。相続放棄の手続きができるのは「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」です(民法915条)。基本的には、この3か月を経過してしまうと、相続を承認したものとみなされ(民法921条2号)、以後の相続放棄は認められません。

遺産の調査ができておらず、3か月以内に相続放棄するかどうか決められないという場合には、「期間伸長の申立て」を行いましょう。期間伸長の申立てをすれば、更に3か月程度の猶予期間を決定してもらえます。

相続放棄を検討している場合には、少なくとも3か月以内に期間伸長の申立てを行いましょう。

被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に書類を提出

相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。郵送で書類を提出することもできます。

申立てに必要な書類は、「相続放棄の申述書」と「添付書類(戸籍、住民票除票等)」です。相続放棄の申述書は、家庭裁判所に書式があり、家庭裁判所のホームページからもダウンロードできます。申述書に必要事項を記載し、添付書類と併せて家庭裁判所に提出しましょう。

参照:相続の放棄の申述 | 裁判所
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html

提出後の手続き

家庭裁判所に相続放棄の申立てを行うと、10日程度で照会書が届きます。照会書は、相続放棄を行う意思があることを確認するための書類です。相続放棄を行う旨を記入し、家庭裁判所に返送しましょう。

照会書を返送すると、10日程度で家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これで相続放棄の手続きは完了です。

もし遺産を管理している場合、他の相続人に管理を引き継ぐまでは、自己の財産と同一の注意をもって遺産管理を継続することになります(民法940条)。 

例外的に3か月経過後も相続放棄が認められるケースもある

基本的に相続放棄の期間は、被相続人が亡くなったことを知ったときから3か月を基準としますが、例外的に相続放棄が認められる場合もあります。

判例では、「被相続人に相続財産がないことを信じるに相当な理由があると認められるとき」は、期間経過後でも相続放棄が認められるとされています。相続開始後3か月以上経過してから債権者から支払い請求が届くということもあります。その場合はすぐに相続放棄の手続きをとりましょう。

ただし、期間経過後の相続放棄が認められるのは「相当な理由があるとき」ですので、被相続人が亡くなった時点で、ある程度の遺産調査を行っておく必要があります。

実際に、過去の裁判例では、生前から被相続人と付き合いがあり、生活状況からみて被相続人に負債があることが生前においても把握できる可能性があるにもかかわらず、死後に相続人が格別の調査を行わなかった事案で、相続放棄が否定されたことがあります。

相続放棄が認められないケースがある

相続放棄前に相続財産の一部を処分した場合

相続放棄の手続きをしたとしても、相続放棄が認めらない場合があります。法定単純承認(民法921条)にあたる場合です。相続放棄前に遺産を処分した場合、相続する意思があるものと推定され、相続放棄できなくなります(同条1号)。

遺産の処分とは、例えば被相続人の預金口座からお金を引き出したり、宝飾品を売却したりするケースが挙げられます。ただし、被相続人の葬儀費用に充てるために被相続人の預金口座から出金した場合等では、相続する意思が推定されるとは言えませんので、単純承認にあたらない可能性があります。

このほか、被相続人の負債への弁済も処分にあたる可能性があります。被相続人には多額の負債があり相続放棄を検討しているが、負債の中に恩人からの借金があり、恩人には義理があるので返済したいというご相談を受けたことがあります。

この場合、被相続人の遺産から返済してしまうと「処分」にあたり、相続放棄できなくなる危険があります。リスク回避のためには、相続人が自分の財産から弁済を行うほうが良いでしょう。
他方で、被相続人が有していた債権の回収は「処分」にあたります。例えば、被相続人が第三者に有していた売掛金について、第三者から返済を受けると、「処分」にあたり、その後に相続放棄をしても認められません。

また、遺産の保存行為は処分にはあたらないとされています。例えば、遺産である自宅の壁が壊れたために補修する行為は保存にあたります。ただし、自宅のリフォームを行うことは保存の範囲を超え、「処分」にあたるものと考えられます。

相続放棄後に相続財産の一部を消費した場合

相続放棄の手続きを行った後であっても、遺産の預金口座から出金して費消したり、宝飾品等を意図的に隠したりした場合では、単純承認したものとみなされ、相続放棄が否定されることになります(民法921条3号)。相続放棄した以上は、遺産には手を付けないようにしましょう。

相続放棄をする前に専門家に相談しましょう

放棄する前に遺産内容の調査を行っておくべき

相続放棄を行ってしまうと、後から財産があることが判明しても撤回できません。遺産の範囲について、金融機関に照会したりして調査してみてください。こうした遺産調査は、弁護士等の専門家に依頼することもできます。

限定承認等の相続放棄以外の方法も選択肢としてありうる

遺産の中に自宅や形見等、どうしても相続したいものがあるが、負債も大きいため相続放棄すべきか判断が付かないことがあります。また、プラスの財産とマイナスの財産が複雑で相続放棄すべきかどうか判断が付かないということもあるでしょう。

こうした場合には、限定承認という方法をとることで解決できることがあります。ただし、限定承認は手続きが複雑で、ご自身で実行するのはなかなか難しいので、弁護士等の専門家に相談してみてください。限定承認等の相続放棄以外の適切な方法をアドバイスしてもらえるでしょう。

相続放棄に必要な書類をすべて整えてもらえる

相続放棄をするために家庭裁判所に提出する必要がある戸籍等は、相続人の順位によって必要な範囲が異なり、遠方の役所から原戸籍を取り寄せなければならないケースもよくあります。弁護士等の専門家に依頼すれば、必要となる戸籍の選定、戸籍の取り寄せなどの手続きを任せることができます。相続放棄について悩まれている方は、弁護士への相談も検討してみてください。

(記事は2022年2月1日時点の情報に基づいています)