目次

  1. 1. 母親のための「相続放棄」が母親を苦しめることに!
  2. 2. 父親の借金をおじさんや従兄弟が返すことに??
  3. 3. 借金があっても相続放棄できない??
  4. 4. 借金については、事前にしっかり話しておこう

「母親に父の財産をすべて相続させたいので、子どもたちは相続放棄をしようと思っています。」――ご相談者の佐藤和美さん(仮名)は、2カ月前にお父様を亡くされました。

和美さんには弟が二人いますが、二人とも海外に勤務しており、和美さんも実家から遠く離れたところに嫁いでいるといいます。相続放棄をすれば、お母さんの相続分が増えるし、自分たちも相続の面倒な手続きから解放されるし、一石二鳥だと考えたといいます。

でも、ちょっと待ってください。相続放棄をすると、大変なことが起こる可能性があるのです!

相続放棄とは、相続で財産をもらうことを放棄する手続きのことです。相続放棄というと、借金を相続したくない場合に行う手続き、というイメージがありますが、佐藤さんのように「財産がいらない」「相続人になりたくない」という理由で相続放棄をする人もいます。

相続放棄をした人は、もともと相続人ではなかったことになります。佐藤さんの場合でいえば、子ども全員が相続放棄の手続きをすると、亡くなったお父さんには、相続人としての「子」がいなかったことになるのです。「子」がいない場合は、第二順位の「親」が相続になります。「親」もいない場合は、第三順位の「兄弟姉妹」が相続人となるのです。

「母に全財産を相続させたい」と思ってした相続放棄のせいで、父親の両親や兄弟姉妹といった人たちが財産を相続できる権利を持つことになるというわけです。

和美さんのお父さんのご両親は既に他界していましすが、父のお兄さんは健在とのこと。子供全員が相続放棄をしたら、父親の兄に「財産をよこせ!」といわれる可能性が出てくるのです。そんなことになれば、お母さんは相続できる財産が減るだけではなく、精神的にもとてもツライ思いをすることになります。

「もらってもいいけど、もらわない」というような場合は、相続人同志の話し合いの中で「母親が全部相続する」と決めればいいだけのこと。
相続放棄の手続きなど不要なのです。

相続放棄が必要なのは、相続財産の中に多額の借入金や保証債務などがある時です。

「親父が借りた金は、私が責任を持って返します!」という方はさておき、借金を相続したくないなら、「相続放棄」をすれば「相続しない」という選択をすることができます。

ただ、その場合、気をつけたいのが、先ほどのケースと同じく、自分が相続人でなくなることにより、他の人が相続人となってしまい、その人が借金を背負うハメになる可能性があるということ。

仮に子どもたち全員が借金がある父親の財産の相続放棄をした場合、第二順位の父親の両親、もしくは第三順位の父親の兄弟姉妹やその子である従兄弟たちに相続権が移り、その人たちが父親の借金を背負うことになるのです。そうならないためには、相続放棄をする場合に次の順位の人にも事情を説明し、一緒に相続放棄をする等の対策が必要です。

「借金があったら相続放棄すればいいんでしょ」とはいっても、相続放棄できない人もいるのです。

ご主人が仕事場で突然倒れ亡くなってしまったという田中のり子さん(50歳 仮名)。工場を経営していたご主人はワンマンな性格で、工場の経営も家計もすべて1人で管理していたとのこと。夫が亡くなって初めて、どんな財産があるのかを知ったといいます。ですから、夫が工場の機械を入れ替えるために1億円もの借金をしていたことも、相続後初めて知ったのです。1億円の借金なんて、専業主婦だったのり子さんに返せるはずもありません。

友達は「相続放棄しちゃえばいいじゃない」というけれど、家も預金も何もかも夫の名義。相続放棄をすれば、何も相続できなくなって、無一文で家を出ることになってしまうのです。

結局、のり子さんは、相続放棄をせず金融機関にお願いして、少しずつ借金を返していくことにしたといいます。

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相続の対象となる借金には、亡くなった方本人の借入金のほかに、他人の借金の保証人になっている「連帯保証」も含まれます。
亡くなった方に借入金があるかどうかは、返済表や銀行預金などの履歴を調べれば、発見するのはさほどむずかしくないかもしれません。しかし、連帯保証は現在発生していない債務である分、見つけるのがむずかしいといえます。

不動産の登記を確認したところ、亡くなった母親が友人の連帯保証人として不動産を担保提供していたことが判明した、という方がいました。そこから、その友人の連絡先を調べ、債務の額、返済の見込みなどを確認し、相続放棄をする必要があるかないかを調べるのはなかなか骨の折れる作業だったとのこと。

家族が亡くなった後に、借金や連帯保証があるかどうかを心配するのは、つらいことです。「借金はないのか?」「連帯保証人になっていないか?」なんて聞きにくいし、当の本人も言い出しにくいことだとは思いますが、事前にしっかり家族で確認しておく必要 があると思います。

また、上述ののり子さんのように、多額の借金を残されて生活が立ち行かなくなるような場合は、生命保険が有効です。生命保険は、相続放棄をしても受け取ることができます。事業などで多額の借金があるような場合は、是非生命保険を活用していただきたいと思います。

(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)

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