目次

  1. 1. 相続土地国庫帰属法とは
    1. 1-1. 相続土地国庫帰属制度の概要
    2. 1-2. 相続土地国庫帰属法が制定された背景
  2. 2. 相続土地の国庫帰属の申請権者と対象土地
    1. 2-1. 相続土地の国庫帰属を申請できる人(申請権者)
    2. 2-2. 国庫帰属の対象となる相続土地の範囲
  3. 3. 相続土地の国庫帰属の申請先や申請手続き
    1. 3-1. 相続土地の国庫帰属の申請先
    2. 3-2. 相続土地の国庫帰属の申請手続き
  4. 4. 相続土地の国庫帰属を申請する場合の負担金はいくら?
  5. 5. 相続する土地を手放すためのそのほかの手続き
    1. 5-1. 遺産分割でほかの人に相続してもらう
    2. 5-2. 第三者に売却する
    3. 5-3. 相続放棄をする
  6. 6. 土地の相続に関する主な相談先
    1. 6-1. 弁護士
    2. 6-2. 司法書士
  7. 7. まとめ

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2023年4月27日より、相続した土地を国が財産権の主体となる国庫に帰属させるルールを定めた「相続土地国庫帰属法」が施行される予定です。まずは新たに導入される制度の概要と、相続土地国庫帰属法が制定された背景を解説します。

<凡例>記事の中では以下のように略して書いています。
相続土地国庫帰属法 または 法:相続などにより取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律
令:相続などにより取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令

相続土地国庫帰属法によって新たに導入されるのは、相続または遺言によって財産を相続人以外に贈与する遺贈によって土地を取得した人が、一定の負担金を納付することを条件に、土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度です。簡潔に言えば、土地を国に引き渡せるという内容で、「相続土地国庫帰属制度」と呼ばれています。

所有者の申請に基づき、法務大臣を含む法務局による一定の審査を経て、要件を満たしていると判断された土地は国庫に帰属することになります。

相続土地国庫帰属法が制定されたのは、土地利用ニーズの低下などにより、相続した土地を手放したいと考える人が増加しているためです。特に過疎地域の土地や農地や森林などでは、その傾向が顕著に見られます。

<例>

  • 遠くに住んでいるため、土地を利用する予定がない
  • 近隣被害を防ぐために土地を管理しなければならないが、費用や労力の負担が大きい など

土地を望まずに相続した所有者は、負担感の大きさから管理を怠ることが多く、荒廃したり危険な状態となったりする相続土地が少なくありません。相続土地国庫帰属法が制定されたのは、相続土地を国が所有したり管理したりする手続きを定めることで、このような状況を改善するためです。

また、相続土地国庫帰属法には、所有者不明土地の発生を予防する目的もあります。

適切に管理されていない土地の多くは、数回にわたる相続を経て所有者不明となり、周辺地域を含めた土地の利活用に大きな支障を生じさせている状況です。相続土地国庫帰属制度により、管理困難な土地を国に引き取ってもらえるようになれば、所有者不明となる土地はある程度減ることが期待されます。

相続土地の国庫帰属を申請するには、一定の申請要件を満たさなければなりません。また、土地の状態などに応じた却下事由や不承認事由が定められている点にも注意が必要です。

相続土地の国庫帰属を申請できるのは、原則として、以下の要件をいずれも満たす人です(法1条、2条1項)。

  • 相続人であること
  • 相続または遺贈(遺言による贈与)により、土地または土地の共有持分を取得したこと

土地または土地の共有持分の遺贈を受けた人でも、相続人でなければ相続土地の国庫帰属は申請できません。

ただし例外的に、相続人が相続または遺贈により土地の共有持分を取得した場合、その相続人と共同であれば、ほかの共有者も土地の国庫帰属を申請できます(法2条2項)。

相続土地国庫帰属制度の開始前に相続などによって取得された土地についても、国庫帰属の対象となります。

ただし、相続土地国庫帰属法に基づく却下事由と不承認事由に該当する土地については、国庫への帰属が認められません。

①却下事由(法2条3項)
以下に該当する土地は、国庫帰属の申請自体が認められません。

  • 建物が建っている土地
  • 担保権または使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
  • 通路用地、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池が含まれる土地(令2条)
  • 特定有害物質により汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地など、所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地

②不承認事由(法5条1項)
以下に該当する土地は、国庫帰属の申請が不承認となります。

  1. 勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用・労力を要するもの(令3条1項)
  2. 土地の通常の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木そのほかの有体物が地上に存する土地
  3. 除去しなければ土地の通常の管理・処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  4. 以下の土地であって、現にほかの土地の通行が妨げられているもの(令3条2項1号)
    a.・公道へ通じない土地
    b.・池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に至ることができない土地
    c.・崖があって公道と著しい高低差がある土地
  5. 隣接する土地の所有者そのほかの者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
  6. 4.のほか、所有権に基づく使用・収益が現に妨害されている土地(軽微と認められるものを除く)
  7. 1.~5.のほか、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として、令3条3項で定めるもの

反対に、却下事由と不承認事由のいずれにも該当しなければ、相続土地の国庫帰属が承認されます(法5条1項)。

国庫帰属が認められない相続土地

相続土地の国庫帰属の申請先と、申請手続きの概要を紹介します。

相続土地の国庫帰属の申請先は、土地の所在地を管轄する法務局または地方法務局となる予定です。

相続土地の国庫帰属の申請手続きは、以下の流れで進行します。

①承認申請
承認申請書を提出し、さらに所定の審査手数料を納付して承認申請を行います(法3条)。

②書面審査・実地調査
法務局担当官が、申請書類を審査します。また、必要に応じて対象土地の実地調査も行われます(法6条)。却下事由に該当する場合は申請が却下され、不承認事由に該当する場合は申請が不承認となります。

③承認
却下事由も不承認事由もない場合は、申請が承認されます(法5条)。承認された場合は、その旨と負担金額が申請者へ通知されます(法9条、10条2項)。

④負担金の納付
申請者は、負担金額の通知を受けた日から30日以内に所定の負担金を納付しなければなりません(法10条3項)。納付を怠った場合、承認決定が失効します。

⑤国庫帰属
負担金の納付時をもって、対象土地の所有権が国庫に帰属します(法11条1項)。

相続土地の国庫帰属の申請手続きの流れ

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相続土地の国庫帰属を申請する場合の負担金は、土地の種目に応じて、10年分の標準的な管理費用額を考慮して算定した額とされています(法10条1項)。

法務省の「相続土地国庫帰属制度の負担金」によると、具体的な負担金額は、以下のとおりです。

①宅地
原則として20万円
※市街化区域・用途地域が指定されている地域内の土地については、面積に応じて計算(たとえば200㎡の場合、79万3000円)

②田、畑
原則として20万円
※市街化区域・用途地域が指定されている地域、農用地区域、土地改良事業などの施工区域内の農地については、面積に応じて計算(たとえば1000㎡の場合、112万8000円)

③森林
面積に応じて算定(たとえば3000㎡の場合、29万9000円)

④その他(雑種地、原野など)
20万円

相続土地国庫帰属制度のほかにも、相続土地を手放す方法は存在します。しかし、各方法には長所と短所があるため、状況に応じて使い分けることが大切です。

相続土地の国庫帰属申請と比較しつつ、各方法概要や特徴を見ていきましょう。

土地を相続したいと進んで希望する相続人がいれば、遺産分割協議を通じてその人に相続させればよいでしょう。国庫帰属申請とは異なり負担金が発生せず、各相続人の意思を尊重した結果が得られます。

ただし、土地の維持管理に関するランニングコストが発生する点には注意が必要です。また、使い勝手が悪い土地については、誰も相続したがらない可能性があります。

【関連】遺産分割協議書の提出先や手続き一覧 期限やコピーの可否について弁護士が解説

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土地の買い手が見つかれば、売却代金を得られるうえに維持管理コストもかからなくなるので一石二鳥です。負担金の納付を要する国庫帰属に比べると、売却できれば経済的にはかなり有利でしょう。

ただし、使い勝手が悪い土地の場合は、買い手が見つからない可能性がある点にご注意ください。

相続放棄をすれば、負担金の支払いを要することなく土地を放棄できます。また、被相続人(以下「亡くなった人」)の債務を相続せずに済みます。

ただし相続放棄をすると、土地以外のほかの遺産も相続できなくなる点に要注意です。

また、相続土地を自ら管理している人が相続放棄をする場合は、ほかの相続人または相続財産管理人が管理を始めることができるまで、引き続き管理する必要があります(民法940条1項)。相続放棄後もほかの相続人の誰かが相続しない限り、その土地は亡くなった人の名義のままである点を認識しておきましょう。

相続土地国庫帰属法と相続放棄の違い

相続放棄に関しては、下記の記事が参考になります。

【関連】相続放棄しても管理義務が残る!?責任内容や免れるための方法を解説!

【関連】相続放棄のメリットとデメリット 借金を相続せず済むが、欲しい財産を手放す必要も

土地を含む遺産の相続に関する相談先としては、主に弁護士と司法書士が挙げられます。

弁護士には、相続手続き全般について相談できます。

特に、対立の生じた遺産分割協議の調整や遺産分割調停、審判についての対応を取り扱えるのは弁護士のみです。遺産相続に関する対応全般を一括して任せたい場合や、相続トラブルの可能性に備えたい場合は、弁護士に相談するのがよいでしょう。

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その反面、司法書士は登記手続きを得意としています。相続トラブルのリスクが一切ない場合や、登記手続きのみを依頼する場合は、司法書士への相談も選択肢になるでしょう。

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相続土地国庫帰属法が施行されれば、使い勝手の悪い土地、管理が難しい土地などを相続した場合に、その土地をスムーズに手放せるようになります。

相続手続きにおける選択肢が増えますが、どの選択肢を選ぶべきかについては、当事者の状況によりケースバイケースです。適切な選択を行うためには、多角的にご自身や家族の状況を分析する必要がありますので、早い段階で弁護士などへ相談することをお勧めします。

(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)

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