相続放棄すると家はどうなる? パターンごとの対処方法を解説
相続放棄をしたら家はどうなるのでしょうか? 他に相続人がいるかどうかで結論が変わってきます。全員が相続放棄をしても、家の管理義務は残るので注意しなければなりません。今回は相続放棄した場合に家がどうなるのか、パターンごとの対処方法を交えて弁護士が解説します。
相続放棄をしたら家はどうなるのでしょうか? 他に相続人がいるかどうかで結論が変わってきます。全員が相続放棄をしても、家の管理義務は残るので注意しなければなりません。今回は相続放棄した場合に家がどうなるのか、パターンごとの対処方法を交えて弁護士が解説します。
目次
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まず「相続放棄」をした場合、家がどうなるかを解説していきます。
相続放棄とは「すべての財産の承継を拒否すること」です。そのため相続放棄をした本人は何も相続できません。
他の相続人が相続を承認すれば、その相続人が家を相続します。たとえば、親の相続で自分が相続放棄しても、兄弟姉妹が相続を承認すれば、その兄弟姉妹が家を相続します。
同順位の相続人がいない場合でも、後順位の相続人がいれば、その相続人が家を相続します。相続人の順位は、子が第1順位、直系尊属(親や祖父母)が第2順位、兄弟姉妹が第3順位です(民法887条・889条1項)。先順位の相続人がいれば、後順位の相続人は相続人になりません。
たとえば、親の相続で唯一の子である自分が相続放棄をしても、祖父母やおじ・おばがいれば、上記の相続人の順位に従って家を相続します。
相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要なうえ、3か月という期限もあります。重要な手続きだからこそ、間違えたくない人は多いのではないでしょうか。正確に終えようとする場合、一度、弁護士に相談してみるのも有効な手立てです。
では、相続人全員が相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか。
相続放棄をすると、相続に関する一切の責任から解放されるように思うかもしれませんが、そうではありません。
相続放棄をしたとしても、「現に占有」している相続財産に関しては、他の相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまではその財産を保存する必要があります(民法940条1項)。
例えば、親の死後に相続放棄をしたとしても、相続放棄時に親名義の家に暮らしている場合は「現に占有」していると言えるため、親名義の家を保存する義務があります。
なお、「現に占有」の解釈は明確になっていないため、「自分は占有していなかったから相続放棄しても管理責任は負わない」と自己判断するのではなく、弁護士に事前に相談することをお勧めします。
また「現に占有」する家を相続放棄した人は、前記の保存義務と別で、家の「占有者」として土地工作物責任(民法717条1項)を問われる可能性がありますので注意してください。
「現に占有」する家を相続放棄したとしても、その家の「占有者」としての管理責任はあります。従って、空き家が倒壊するなどして第三者に損害を与えた場合にその損害を賠償する責任を負う可能性があります(民法717条1項)。
また、木の枝が越境して隣家にまで伸びてしまうなどして、隣家から苦情が入るおそれもあります。ほかにも、管理がずさんなために家が滅失・毀損した場合には、他の相続人から賠償請求されてしまうこともあります(民法940条1項)。
では「現に占有」していた家を相続放棄した人が「永遠に家を管理し続けなければならないか」というと、そうではありません。家庭裁判所に相続財産清算人選任の申し立てをし、選任された相続財産清算人に管理を引き継ぐことで、保存義務を免れることができます。相続財産清算人とは、相続財産の管理・精算手続きを行うため、家庭裁判所によって選任される人です。
ただし、相続財産の管理に要する経費や相続財産清算人の報酬などが相続財産から支払えないと見込まれる場合は、申立人が経費や報酬の相当額を予納金として家裁判所に納めなければなりません。
予納金は個別の事情によるものの、概ね20万円~100万円程度です。最終的に相続財産から経費や報酬が支払えなければ、これらは予納金から支払われ、その分は申立人には返ってこないため、注意が必要です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す次に、家を相続放棄する場合の対処方法を、パターン別に解説します。
家を残したい場合は「他の相続人に相続してもらう」のはひとつの方法です。ただし、負債が多額であることを理由に相続放棄をする場合、他の相続人も「相続放棄をしたい」と考えるのが通常でしょう。そうなると、他の相続人に相続してもらうのは難しいといえます。
負債が多額であるものの、どうしても家を残したい場合には『限定承認』をし、その手続きの中で『先買権を行使する』という方法が考えられます。
【限定承認とは】
「限定承認」とは、相続によって得た積極財産の範囲内でのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するという留保付きで相続を承認することです(民法922条)。
もう少しわかりやすく説明します。預貯金などのプラスの財産から借金などのマイナスの財産を弁済して、余りが出た場合はそれをもらうことができるため、借金などのマイナスの財産が残ってしまった場合には相続人自身の財産から弁済しなくても良いということです。
限定承認をしたい場合は、原則として被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に、相続人全員で家庭裁判所に限定承認をする旨の申し述べをしなければなりません。その後、相続人の中から選任された相続財産清算人が清算手続きを行います。
【先買権の行使とは】
その精算手続きの中で、家などの相続財産は競売で売却するなどして換価されます。もっとも、限定承認をした人は、家庭裁判所が選任した鑑定人の鑑定価格以上の金額を支払うことで、その財産を取得することができます(民法932条ただし書)。これを「先買権の行使」といい、これによって家を残すことができます。
ただし、抵当権などの優先権に基づいて競売がなされている場合、その競売を止めるには抵当権者等の同意が必要です。
【手続きが複雑なので注意】
上記のとおり、限定承認をして先買権を行使すれば、単に相続するよりも支出を抑えつつ家を残すことができます。ただし、手続きが複雑で、『みなし譲渡所得課税』などの税務知識も要求されるため、弁護士などの専門家に相談して進めるほうが確実です。
先順位の相続人全員が相続放棄をすると、後順位の相続人に相続権が移ることになります。しかし、先順位の相続人が相続放棄をしても、裁判所から次順位の相続人には連絡されません。そのため、相続放棄をする際には、次順位の相続人に事情説明をしておくことが望ましいでしょう。具体的には、相続放棄をしたことや相続財産の内容、相続放棄をした理由などです。
そうしないと、次順位の相続人が被相続人の債権者から思いもよらぬ請求を受けるなどして、「なぜ事前に説明してくれなかったのか」と親族間でのもめ事になりかねません。
「現に占有」していた人が相続放棄し、そのほかの相続人もすべて相続放棄した場合は、速やかに家庭裁判所に相続財産清算人選任の申し立てをしましょう。
いったん相続放棄をしてしまうと、あとから撤回することはできません。そのため、相続放棄する前に、以下のようなことを検討しておくべきです。
相続放棄した場合に家がどうなるのかは、他の相続人の有無や意向によって異なります。迷ったときは自己判断せずに、弁護士や不動産活用の専門家に相談しながら方針を検討することをおすすめします。
(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています。)
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