目次

  1. 1. 相続放棄のメリット
    1. 1-1. 借金などの負債を相続せずに済む
    2. 1-2. 相続トラブルに巻き込まれずに済む
    3. 1-3. 面倒な遺産分割の手間が省ける
    4. 1-4. 「家」や事業を一人に承継する際に便利
    5. 1-5. 相続税の基礎控除額は変わらない
  2. 2. 相続放棄のデメリット
    1. 2-1. 資産を相続できない
    2. 2-2. 全員が相続放棄をすると、先祖代々の資産が失われる
    3. 2-3. 後順位の相続人に迷惑がかかることがある
    4. 2-4. 相続財産の管理義務が残る場合もある
    5. 2-5. 相続放棄は原則として撤回できない
    6. 2-6. 死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない
  3. 3. 相続放棄をするかどうかの判断基準
    1. 3-1. プラスの財産を処分して債務を支払えるかどうか
    2. 3-2. 限定承認という選択肢も
  4. 4. 相続放棄の申述手続き
    1. 4-1. 相続放棄の申述先・必要書類・費用
    2. 4-2. 相続放棄の申述手続きの流れ
    3. 4-3. 相続放棄の期限に要注意
  5. 5. 相続放棄について、よくある質問
  6. 6. まとめ|相続放棄の判断や手続きは弁護士に相談を

「相続放棄」とは、被相続人(以下「亡くなった人」)の資産と負債を一切相続しない旨の意思表示です。相続放棄を行うと、初めから相続人とならなかったものと見なされ(民法939条)、亡くなった人の資産も負債も一切承継しないことになります。なお、相続放棄は原則として、相続の開始を知ったときから3カ月以内に行わなければなりません。

相続放棄のメリットの主なメリットは次のとおりです。

  • 借金などの負債を相続せずに済む
  • 相続トラブルに巻き込まれずに済む
  • 面倒な遺産分割の手間が省ける
  • 「家」や事業を一人に承継する際に便利
  • 相続税の基礎控除額は変わらない
  • 死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない

相続放棄は、特に亡くなった人が多額の借金を負っていた場合に効果的です。借金などの負債を一切相続せずに済むため、マイナスの財産を引き継ぐ事態を回避できます。

遺産をめぐる親族間の争い、いわゆる「争族」に巻き込まれたくない場合にも、相続放棄が有力な選択肢となるでしょう。遺産の相続を諦める代わりに、ストレスの大きな相続トラブルに関わることを避けられます。

親族同士が揉めていないとしても、遺産分割を行う際には、協議・合意書面の作成・名義変更手続きなどに多くの手間がかかります。面倒な遺産分割手続きに煩わされるのが嫌だという場合には、相続放棄をするのも一つの選択肢でしょう。

「家」や事業を承継するため、一人の相続人に資産と負債を集中させたい場合は、ほかの相続人が相続放棄をする方法が便利です。遺留分問題の禍根を絶ちながら、円滑に「家」や事業の承継を実現できます。

なお、生前贈与や特定遺贈を活用すれば、相続放棄をした相続人にも何らかの財産を残すことができます。

相続税の基礎控除額は、以下の式によって計算されます。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

相続人の人数ごとの基礎控除額は下記の図表を参考にしてみてください。

相続人の人数ごとの基礎控除額
相続人の人数ごとの基礎控除額。相続人が増えるほど、基礎控除額は大きくなります。

相続放棄をすると、法的には相続人でなくなりますが、基礎控除額の計算上は引き続き法定相続人として取り扱われます。したがって、一部の相続人が相続放棄をしたとしても、(ほかの相続人が支払う)相続税の総額が増えるわけではないのでご安心ください。

相続放棄には次のようなデメリットがあります。

  • 資産を相続できない
  • 全員が相続放棄をすると、先祖代々の資産が失われる
  • 後順位の相続人に迷惑がかかることがある
  • 相続財産の管理義務が残る場合もある
  • 相続放棄は原則として撤回できない
  • 死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない

実際に相続放棄をするかどうかは、相続財産や家庭の状況によって慎重に検討しなければなりません。

相続放棄をした場合、亡くなった人の負債とともに、資産も相続できなくなります。欲しいと思っていた財産をもらえなくなるほか、資産額が負債額を上回っている資産超過の場合、経済的な損失となってしまう点には注意が必要です。

相続人全員が相続放棄をした場合、被相続人の資産を相続する人がいなくなり、最終的に、資産は国庫に帰属します(民法959条)。

土地や家など、先祖代々の資産がある場合には、相続放棄によって家族の元から失われてしまうのでご注意ください。ただし、系譜、祭具、墳墓といった祭祀財産は相続財産に含まれないため、相続人全員が相続放棄をしたとしても、家族の元へ残しておけます。

先順位の相続人全員が相続放棄をした場合には、後順位の相続人へ相続権が移ります。

<相続権の順位>
第1順位:亡くなった人の子
第2順位:亡くなった人の直系尊属(両親や祖父母など)
第3順位:亡くなった人の兄弟姉妹

たとえば、亡くなった人の子全員が相続放棄をすると、亡くなった人の直系尊属や兄弟姉妹に対して、相続債権者による借金の請求が行われるかもしれません。相続放棄について事前に知らされていなかった場合、「債権者からの連絡によって自分が相続人になっていることを知った。いきなり借金を背負わせられるなんて」となり、その後の不仲の原因になりかねません。

相続放棄をするかどうかは、相続人が自由に判断できます。相続放棄したことを他の相続人に伝える義務もありません。しかし、迷惑が及ぶことも想定して、相続放棄をする旨をあらかじめ後順位の相続人に伝えておくのがよいでしょう。

相続順の第1順位は亡くなった人の子、第2順位は両親や祖父母などとなります。

相続放棄の時点において相続財産を「現に占有している者」は、引き続きその財産を「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって保存しなければなりません(民法940条1項)。相続財産の保存義務を免れるには、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てる必要があります。
参考:相続財産清算人の選任|裁判所

たとえば相続した家に住んでいた相続人は、相続放棄をした後でも、相続財産清算人にその家を引き渡すまでの間、保存義務があります。この保存義務を怠り、第三者に大きな迷惑をかけた場合は、損害賠償責任等を問われるおそれがあるので注意が必要です。

なお、相続放棄の時点において相続財産を「現に占有していない」相続人には、相続財産の保存義務は課されません。たとえば、誰も居住・管理していなかった空き家や、他の相続人が住んでいた家などについては、相続放棄をすれば保存義務を免れます。

相続放棄は、一度裁判所に申述書などを提出すると、原則として撤回できません。もしも、相続放棄をした後に多額の財産が見つかったとしても、あとになってから撤回はできないため、慎重に手続きを進める必要があります。

ただし例外的に、錯誤・詐欺・強迫によって相続放棄をした場合などには、相続放棄の申述を取り消すことが可能です(民法95条、96条)。

相続人が受け取った死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」という相続税の非課税枠が設定されています。受け取った金額が上記の金額に達するまで、死亡保険金にも死亡退職金にも相続税がかかりません。

死亡保険金や死亡退職金は受取人固有の権利であるため、たとえ相続放棄をしていたとしても受け取ることができます。ただし、上記の非課税枠は相続人に限って適用され、相続放棄をした者には適用されません。結果的に、相続放棄によって死亡保険金や死亡退職金に課される相続税が増えてしまう可能性があります。

相続放棄をするかどうかを判断する上でもっとも重要な観点は、「マイナスの財産を相続しないようにする」ということです。単純化して言えば、「プラスの財産を処分して債務を支払えるかどうか」がポイントになります。

また、「マイナスの財産を相続しない」ためには、相続放棄に限らず、限定承認の選択肢もあることを覚えておきましょう。

相続放棄をすると、プラスの財産だけでなくマイナスの財産もすべて相続しないことになるため、プラスマイナス0の状態になります。

もしも、相続した財産で債務(借金など)を全額支払える場合であれば、相続放棄をせずに相続することを検討すべきでしょう。

ただし、相続財産に不動産や未公開株式などが含まれている場合には、価値評価を適切に行わなければ、相続放棄をすべきかどうかの正しい判断ができません。これらの相続財産がある状況で相続放棄を検討する場合には、適切に価値評価を行うため、相続に詳しい専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。

限定承認とは、プラスの財産を相続しつつ、マイナスの財産はプラスの財産の価格の限度でのみ相続するという意思表示です。つまり限定承認をすれば、トータルではマイナスの財産を相続せずに済みます。限定承認は、プラスの財産、マイナス財産のどちらが多いのかわからないときに有効な手続きです。

ただし、限定承認は手続きが複雑で、かつ相続人全員が共同して行う必要があります。相続人の中に限定承認に反対する人がいる場合や、長い間連絡が取れていない相続人がいる場合などには、限定承認の手続きをとることが困難になる点にご注意ください。

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相続放棄は、家庭裁判所への申述手続きによって行います。

相続放棄の申述先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

亡くなった人の配偶者または子が相続放棄をする場合、以下の書類を提出します。

・亡くなった人の住民票除票または戸籍附票
・申述人の戸籍謄本
・亡くなった人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

【関連】相続放棄は自分でできる? 手続きや注意点、専門家に依頼すべきケースを解説

一方、代襲相続人や直系尊属、兄弟姉妹が相続放棄をする場合、追加で書類が必要となります。必要書類の詳細については、裁判所のページ「相続の放棄の申述」を参照して下さい。

相続放棄の申述を行う場合、1人あたり収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手を裁判所に納付しなければなりません。また、弁護士に相続放棄の手続きを依頼する場合、1人あたり5万5000円~11万円程度(税込)の費用がかかります。

相続放棄の申述手続きは、おおむね以下の流れで進行します。

① 申述書等の提出 管轄の家庭裁判所に対して、申述書や戸籍書類などを提出します。
② 家庭裁判所による照会・回答 熟慮期間や法定単純承認(民法921条)との関係で、家庭裁判所が相続放棄を認めてよいかどうかを判断するため、申述人に対して照会書が発送されます。 不適切な回答をすると相続放棄が認められなくなるおそれがあるため、弁護士に相談しながら回答するのがよいでしょう。
③ 受理書の送付 相続放棄の申述が受理されたら、家庭裁判所から申述人に受理書が発送されます。

相続放棄は原則として、相続の開始から3カ月以内に行う必要がある点にご注意ください。どうしても熟慮期間中に手続きが間に合わない場合、家庭裁判所に請求すれば、期間の伸長が認められることがあります(民法915条1項但し書き)が、確実ではありません。

熟慮期間内に相続放棄を間に合わせるためには、弁護士に手続きを依頼することをお勧めします。

相続放棄の期限に間に合わない恐れがある場合には以下の記事も参考にしてください。
相続放棄の期間制限3カ月を知らなかった 期限後に認めてもらう方法

Q. 相続放棄をすると、生命保険や遺族年金も受け取れなくなりますか?

生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産と解されています。そのため、ご自身が受取人に指定されていれば、相続放棄をした場合でも受け取れます。

また、亡くなった人の死亡を機に受け取ることができる遺族年金や未受給年金も同様です。これらの年金は遺族固有の財産と解されているため、受給権者に該当すれば、相続放棄をした場合でも受給できます。

Q. 相続放棄が認められないケースはあるの?却下率は?

相続放棄の却下率は0.2%前後で推移しています。なお、相続放棄が認められないケースとしては以下のようなケースが考えられます。

・正当な理由なく熟慮期間である3ヶ月を経過した場合
・被相続人の財産を使い込んでしまった場合
・相続放棄の手続きに関する書類の不備の補正を、裁判所に命じられたにもかかわらず、一切対応しない場合

ただし、熟慮期間経過後の相続放棄については、裁判所に理由を説明すれば認められる余地がありますので、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

Q.相続放棄した場合、亡くなった人の借金は誰が払うの? 預金はどうなる?

相続放棄をすると、残りの相続人が亡くなった人の借金を支払うことになります。同順位の相続人全員が相続放棄をした場合は、次順位の相続人に相続権が移ります。

<相続順位>
第1順位:子(+代襲相続により孫、ひ孫……)
第2順位:直系尊属(両親など)
第3順位:兄弟姉妹(+代襲相続により甥・姪)

最終的に相続人全員が相続放棄をすると、亡くなった人の借金を支払う義務は消滅します。

預金についても同様に、上記のルールに従って相続されます。相続人全員が相続放棄をした場合、預金は亡くなった人の債務(借金など)の支払いや、特別縁故者に対する財産分与などに充てられ、最終的に残額があれば国庫に帰属することになります。

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相続放棄にはメリットとデメリットの両面があり、適切に判断するためには十分な検討が必要です。その一方で、相続放棄には3カ月間の期間制限があるため、迅速に検討を行わなければなりません。

弁護士に依頼すれば、相続放棄すべきかどうかの検討や、実際の申述手続きなどを迅速に行ってくれるでしょう。司法書士などとは異なり、弁護士には裁判所との関係での代理権限があるため、申述書の提出なども代わりに行ってくれます。

手間なくスムーズかつ確実に相続放棄を行いたい場合は、お早めに弁護士へご相談ください。

(記事は2023年5月1日時点の情報に基づいています)

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