遺留分侵害額請求に審判はある? 調停が不成立なら審判ではなく裁判に
遺言書や生前贈与があったことで自分の相続分が少なくなってしまった場合、ほかの相続人などに対して「遺留分侵害額請求」ができる可能性があります。遺留分侵害額請求は協議や調停のあと、裁判所による審判を経ることはなく、最終的には裁判所が公開法廷で審理を行い、結論を示す訴訟によって決着します。弁護士が、遺留分侵害額請求に関する法的手続きの種類や流れなどを解説します。
遺言書や生前贈与があったことで自分の相続分が少なくなってしまった場合、ほかの相続人などに対して「遺留分侵害額請求」ができる可能性があります。遺留分侵害額請求は協議や調停のあと、裁判所による審判を経ることはなく、最終的には裁判所が公開法廷で審理を行い、結論を示す訴訟によって決着します。弁護士が、遺留分侵害額請求に関する法的手続きの種類や流れなどを解説します。
目次
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「遺留分侵害額請求」とは、実際の相続分が遺留分に満たない場合に、遺産を多く取得した人に対して行う不足額の支払い請求です(民法1046条1項)。被相続人(以下「亡くなった人」)の兄弟姉妹以外の相続人には、相続できる遺産の最低保障額である「遺留分」が認められています(民法1042条1項)。
遺言書や生前贈与の結果、実際の相続分が遺留分を下回った場合には、遺産を多く取得した人に対して、不足額に相当する金銭の支払いを請求できます。これが「遺留分侵害額請求」です。
なお、遺留分侵害額請求は、2019年7月1日に施行された新しい制度で、それより前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていました。遺留分減殺請求は、遺留分を侵害する遺贈や贈与の目的物につき、現物返還を求める請求です。
これに対して、現在の制度である遺留分侵害額請求は、現物返還ではなく金銭の支払いを求める請求に変更されています。
遺留分侵害額請求は、協議、調停、訴訟の各手続きを通じて行います。遺産分割とは異なり、審判で結論が示されることはありません。
協議、調停、審判、訴訟の各手続きの概要は、以下のとおりです。
協議
当事者が直接話し合って紛争を解決する手続きです。
調停
有識者の中から選任される調停委員による仲介の下、当事者が話し合って紛争を解決する手続きです。民事調停は原則として簡易裁判所、家事調停は家庭裁判所で行われます。
審判
裁判所が非公開の手続きによって審理を行い、紛争について「審判」により結論を示す手続きです。家事調停が不成立となった場合などに行われます。当事者が主張していない事実も審判の基礎とすることができるなど、訴訟に比べて審理の柔軟性が高いのが特徴です。審判に対する控訴・上告は認められておらず、即時抗告などによる異議申立てができるにとどまります。
訴訟
裁判所が公開法廷において審理を行い、紛争について「判決」により結論を示す手続きです。訴訟の判決に対しては、控訴・上告が認められています。法律トラブルを解決する手続きとしては、最終段階に位置づけられます。
遺留分侵害額請求は、「協議→調停→訴訟」の順に進行します。遺留分侵害額の請求調停が不成立となった場合、あらためて裁判所に訴訟を提起することになります。調停から審判へ移行することはありません。
これに対して、遺産分割方法に関する手続きは「協議→調停→審判」の順に進行します。遺産分割調停の不成立時には自動的に審判へ移行します。このように、遺留分侵害額請求と遺産分割では、紛争解決手続きの種類が異なる点に注意しましょう。
前述のとおり、遺留分侵害額請求の手続きは「協議→調停→訴訟」の順に進行します。各手続きについて、順を追ってもう少し細かく見ていきましょう。
正式に遺留分侵害額請求を行う場合、まずは相手方に対して内容証明郵便を送付するのが一般的です。
内容証明郵便を送付することで、本腰を入れて遺留分侵害額請求を行うという態度を、相手方に対して明確に示すことができます。また、内容証明郵便の送付には、遺留分侵害額請求権の消滅時効完成を6カ月間猶予する効果もあります(150条1項)。
内容証明郵便による請求に対して、相手方から返信があれば協議を行います。協議の末、合意に至れば書面を締結して、遺留分侵害額の精算を行いましょう。
相手方との協議がまとまらない場合には、遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。遺留分侵害額請求は「調停前置」とされており、原則として訴訟よりも先に調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。
遺留分侵害額の請求調停の申立て先、申立て費用、必要書類は、それぞれ以下のとおりです。
<申立て先>
相手方の住所地の家庭裁判所(または当事者が合意で定める家庭裁判所)
<申立て費用>
<主な必要書類>
調停では、調停委員が請求者と相手方と個別に面談を行い、遺留分額や精算方法などに関する合意の成立を図ります。当事者間で合意が成立すれば、その内容を記載した調停調書が作成されます。
これに対して、当事者間で合意が得られなければ調停不成立となり、調停手続きは終了します。
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遺留分に強い弁護士を探す遺留分侵害額請求調停が不成立となった場合、あらためて裁判所に訴訟を提起することになります。自動的に審判手続きへ移行する遺産分割の場合とは異なり、別途裁判所に訴状などを提出する必要がある点に注意しましょう。
訴状の提出先は家庭裁判所ではなく、以下のいずれかの地を管轄する地方裁判所、または簡易裁判所です(請求額が140万円を超える場合は、地方裁判所のみ)。
(1)被告の普通裁判籍の所在地(原則として住所地、民事訴訟法4条1項)
(2)原告の所在地(原則として住所地、同法5条1号)
(3)相続開始時における亡くなった人の普通裁判籍の所在地(原則として住所地、同条14号)
遺留分侵害額請求訴訟では、原告(請求者)が遺留分侵害額について主張や立証を行います。具体的には、遺留分の基礎となる財産の内容や金額と、自らの遺留分割合に関する主張や立証をしなければなりません。
<遺留分の基礎となる財産>
遺留分の基礎となる財産について立証するためには、一例として以下の証拠の提出が必要になります。
不動産
→登記事項証明書、固定資産評価証明書など
預貯金
→預貯金通帳の写しまたは残高証明書など
株式などの有価証券
→有価証券の写し、証券口座の残高証明書など
借金
→金銭消費貸借契約書など
また、遺留分割合は亡くなった人との続柄に応じて決まるため、原告は戸籍謄本などを提出して、自らの遺留分割合を立証しなければなりません。
これに対して被告(請求を受ける人)は、原告の主張する遺留分侵害額が多すぎる、あるいは消滅時効が完成しているなどと反論することが考えられます。
裁判所は、原告と被告双方の主張と立証内容を総合的に比較検討して、判決に向けて心証を固めていきます。
訴訟の途中では、裁判所が和解を提案することがあります(民事訴訟法第89条)。原告と被告の双方が和解提案を受け入れれば、和解調書が作成されて訴訟は終了します。
和解に至らなければ、最終的に裁判所が判決を言い渡します(同法第250条)。
判決に対しては、判決書の送達から2週間以内に、上級裁判所に対して控訴をすることができます(民事訴訟法第285条)。また、控訴審判決に対しては上告が認められる場合があり、最大3回の審理を受けることが可能です。
上告審判決が言い渡された場合、または期間内に適法な控訴や上告がなされなかった場合には、判決が確定します。原告の請求の全部または一部が認められた場合、原告は確定判決を債務名義として、裁判所に強制執行を申し立てることができます(民事執行法22条)。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年で時効消滅します(民法1048条)。
時効完成を避けるためには、以下のいずれかの対応が必要になるため、早期に対応しなければなりません。
<時効の完成猶予>※継続中は消滅時効が完成しない
<時効の更新>※時効期間がリセットされる
(1)以下のいずれかの手続きにかかる権利が、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定したこと
(2)以下のいずれかの手続きが終了したこと
(3)権利の承認
遺留分問題は、相続人同士の深刻な対立に発展するケースが多いです。また、消滅時効との関係を考慮すると、速やかに対応へ着手することが重要になります。
弁護士に依頼すれば、遺留分問題の解決方法についてアドバイスを受けられます。また、実際の遺留分侵害額請求の手続きについても、弁護士に一任することができます。
遺言書や生前贈与の内容に納得できない場合は、早めに弁護士に相談するのが賢明です。
遺留分侵害額請求は、協議、調停、訴訟の各手続きを通じて行います。調停が不成立となった場合には、審判へ移行せず訴訟を提起する部分が、遺産分割とは異なる点です。
遺留分問題は、相続人間で大きなトラブルに発展しやすい傾向にあります。適切な形で早期にトラブルを解決するためにも、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)
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