納得いかない遺言書が出てきたら 「遺言無効確認請求訴訟」に必要な準備や手続きを解説
亡父の遺言書を見たら、自分が相続すると言われていた田畑は、父と同居していた姉が相続する内容に……。「まさか、こんな遺言を作成するはずがない」と感じた際は、遺言無効確認請求訴訟を提起するという方法があります。弁護士が事例を交えながら解説します。
亡父の遺言書を見たら、自分が相続すると言われていた田畑は、父と同居していた姉が相続する内容に……。「まさか、こんな遺言を作成するはずがない」と感じた際は、遺言無効確認請求訴訟を提起するという方法があります。弁護士が事例を交えながら解説します。
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遺言無効確認請求訴訟とは、裁判所に対し、遺言が無効であることを認めてもらう訴訟です。残された遺言の無効性を認めてもらう要素を見つける必要があり、訴訟に至るまでには一定の時間と費用がかかります。
遺言がある場合、遺産は基本的に遺言通りに分けることになります。ですが、遺言が無効になる場合もあります。その原因には、以下のものがあります。
遺言の無効が争われる代表的なものは、遺言能力の欠如です。具体的には、相続人が、遺言を残した人が遺言書を作成したときに認知症であったなどの理由を主張するケースです。すでに遺言をまとめるだけの能力が失われていた可能性があるとして、他の相続人との間で争いになる事例があります。
遺言書がパソコンで作成されていたり、日付や押印がなかったりという「方式違背」、つまり法定の形式と違う形で残された遺言が無効になる例も少なくありません。ただし、この場合、無効になることは明らかですので、あまり争いにはなりません。
錯誤・詐欺・強迫による遺言は取り消すことが可能です(民法95条、96条)。ただ、遺言者本人が亡くなっている場合、相続人などの第三者がこれらの事実を立証することは通常困難です。そのため、これらを主たる主張として争うケースはあまりありません。
2人以上の人が同一の証書で遺言すること(共同遺言)はできません(民法975条)。例えば、夫婦が同じ用紙に遺言を書く場合です。共同遺言を許すと、一方の遺言者の意思が他方遺言者の意思によって制約されるおそれがあることなどが理由です。
公序良俗に反する遺言は無効です(民法90条)。代表的には不倫関係にある愛人に遺贈するケースです。ある裁判例(東京地裁昭和58年7月20日判決)では、妻居住の不動産を含む全財産を不倫相手に遺贈する内容の遺言について、長年連れ添い、夫の財産形成にも相当寄与し、経済的に夫に依存する妻の立場を無視するもので公序良俗に違反するとして無効と判断しています。
公正証書遺言の作成に際しては、「証人二人以上の立会い」が必要です(民法969条1号)。そして、民法は、未成年者や推定相続人などは証人になれないと規定しています(欠格者・民法974条)。欠格者は証人として認められませんので、その結果「証人二人以上」という要件を満たさなくなった場合、遺言は無効です。
遺言は撤回することができ、先になされた遺言は撤回した範囲で失効します。他方、撤回行為自体を撤回(=遺言の「撤回の撤回」)したとしても、失効した遺言の効力は復活しません(民法1025条)。ただ、遺言を撤回する行為が、錯誤や詐欺、強迫による場合は、例外的に遺言の効力が復活します(同条但書)。
遺言無効確認請求訴訟の手続きは、資料の収集から着手し、交渉、訴訟といった流れが一般的です。遺言能力の欠如を主張して遺言の無効を争う場合を例に説明していきます。方式違背などの他の無効原因を主張する場合でも、大きな流れは同じです。
なお、遺言無効確認請求訴訟には時効はありません。ただ、時間の経過とともに訴訟に必要な資料が散逸しがちだということは考慮に入れておいた方がいいでしょう。
遺言能力を争う場合、事前の準備が非常に重要です。遺言能力を否定するハードルは高いので、やみくもに訴訟を提起しても、敗訴してしまう可能性が高いです。
そこで、遺言者が遺言書を作成した当時やその前後の時期における遺言者の遺言能力を判断するために資料を収集することから始めます。例えば、病院のカルテや介護事業者のサービス提供記録などです。
これらの資料を収集・検討し、このまま無効主張をして交渉や訴訟を進めていくか、あるいは無効主張を断念して遺留分侵害額請求をするにとどめるかなどの方針を決定します。
遺言無効確認請求訴訟は、時間も費用もかかります(詳しくは後述します)。そのため、交渉で決着するに越したことはありません。負担を軽減するためも、いきなり訴訟を提起するのではなく、交渉から開始するのが一般的です。方式違背など誰にでも分かる形式的な不備がある場合には、交渉で決着することが想定されます。
しかし、遺言能力の有無が争われる場合、判断が微妙となる事案が少なくありません。また、感情的な対立もあることから、相続人同士で「遺言能力に問題はない」「いや、認知症で遺言能力はなかった」などお互い譲らず、交渉で決着しない事例が多いです。その場合は、遺言無効確認請求訴訟を提起して解決を図るしかありません。
なお、遺言によって遺留分が侵害されている場合は、早いうちに、予備的に、内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが大切です。遺留分侵害額請求権の時効は1年間とされているためです。
遺言無効確認請求訴訟では、遺言が有効だと主張する相続人や受遺者(相続人以外で遺言によって遺産を受け取る人)、遺言執行者などを被告として提起します。必ずしも他のすべての相続人を被告とする必要はありませんが、判決の効力は訴訟の当事者にしか及びません。そのため、誰を被告とするかは慎重に検討すべきです。
管轄裁判所は、被告の住所地や相続開始時における被相続人(亡くなった人)の住所地を管轄する裁判所に訴訟を提起します。
訴訟を提起した後は、おおむね1カ月のペースで、原告と被告がお互いに主張や立証を重ねていき、これらが出揃った段階で、判決が出されることになります。遺言が有効と判断された場合には、控訴や上告をするかどうかを検討します。
また、訴訟の中で、お互いに譲歩し、和解という形で終了することもあります。ただ、遺言無効確認請求訴訟は、当事者間で感情的な対立が激しいことが多く、また、遺言が有効か無効かによって取得額に大きな差が出ることから、和解が困難なことが多いです。他方で、徹底的に争うと、訴訟が終了した後の遺産分割も含め、解決までに相当な時間や労力、費用を要することから、早期解決のメリットも小さくありません。これらの兼ね合いの中で、和解の可能性を探っていくかどうかも検討すべきでしょう。
遺言が無効という判決が確定した後は、遺言書が存在しなかったものとして、相続人同士による遺産分割協議が必要となります。また、遺言が有効と判断された場合であっても、遺言の対象が限定されているなど、遺言書の内容によっては遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議が調わなかった場合には、遺産分割調停を申し立て、調停不成立の場合は、遺産分割審判に移行し、審判が出されます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺言無効確認請求訴訟は、通常、時間がかかることが多く、訴訟を提起するまでの準備におおよそ数カ月、第一審で1~2年程度、控訴審で半年~1年程度、上告審で半年程度かかります。
また、遺言が無効と判断された場合には、それから、遺産分割協議を行う必要があります。協議が調わなければ、調停・審判に移行することになり、さらに1~2年程度かかります。そのため、遺言の効力を争う場合、解決に至るまでに数年を要することがほとんどです。
遺言無効確認請求訴訟にかかる費用は法律事務所によって異なります。ただし、「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」に従い、遺言が無効と判断された場合に得られる経済的利益(遺産)を基準に計算するケースが多いといえます。
例えば同基準に従うと、経済的利益(遺産)が1500万円の場合、着手金は84万円、報酬金は168万円になります。その他に、控訴審や上告審、遺産分割調停や審判と、手続きが移行した場合には、その都度、追加で費用が発生します。そうした想定外の支出を避けるためにも、依頼する前に、費用の見積もりをお願いすることをおすすめします。
遺言の無効を主張するためには、まず、無効であることを立証するための証拠を収集することが不可欠です。証拠の収集や検討にあたっては、これまでの裁判例の傾向などの専門的知識を要しますので、相続問題に強い弁護士に相談するほうが良いでしょう。遺留分侵害額請求権の時効や相続税申告の期限もありますので、できる限り、早めに相談することをおすすめします。
遺言無効確認請求訴訟を提起する場合、訴訟のみならず、その後の遺産分割や遺留分侵害額請求が必要となります。繰り返し述べたとおり、解決までには相当な時間や労力と費用を要しますので、こうした負担を考慮して、弁護士とも相談しつつ、慎重に方針を決定することが大切です。
(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)
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