目次

  1. 1. 遺産分割の揉め事は、訴訟ではなく調停や審判で解決
    1. 1-1. 解決の流れ:まずは調停、不成立なら審判へ移行
    2. 1-2. 遺産分割調停と審判の違い
    3. 1-3. 審判と訴訟の違い
    4. 1-4. 遺産分割調停・審判の申し立て方法
  2. 2. 遺産相続に関して訴訟が行われるパターン
    1. 2-1. 遺産の範囲に争いがある場合|遺産確認訴訟
    2. 2-2. 相続人の範囲に争いがある場合|相続人の地位不存在確認訴訟
    3. 2-3. 遺言の有効性を争う場合|遺言無効確認訴訟
    4. 2-4. 遺産分割協議の取り消しや無効を主張する場合|遺産分割協議無効確認訴訟
    5. 2-5. 遺産が使い込まれた場合|損害賠償請求訴訟・不当利得返還請求訴訟
    6. 2-6. 遺留分が侵害された場合|遺留分侵害額請求訴訟
  3. 3. まとめ 遺産相続のトラブル対応は弁護士に相談を

遺産分割は、家事事件手続法別表第二に列挙されています(「別表第二事件」といいます)。

別表第二事件に関しては、訴訟の提起は認められていません。その代わりに「家事調停」および「家事審判」と呼ばれる手続きを利用します。

遺産分割協議が合意に至らない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。遺産分割調停では、調停委員が当事者の間に入り、遺産分割の方法についての合意を模索します。

当事者である相続人と包括受遺者の全員が、裁判官の提示する調停案に同意すれば、調停は成立です。この場合、調停内容のとおりに遺産分割が行われます。

一方、相続人と包括受遺者の全員による調停案への同意が得られない場合には、調停は不成立となり、自動的に「遺産分割審判」へと移行します。遺産分割審判では、裁判所が当事者の主張を公平に聞き取ったうえで、「審判」によって遺産分割の方法についての結論を示します。

即時抗告等の手続きを経て審判が確定すると、当事者は審判内容に拘束され、そのとおりに遺産分割を行わなければなりません。

遺産分割調停は、あくまでも当事者である相続人と包括受遺者の間で、遺産分割の方法に関する合意を形成することを目的とした手続きです。そのため、調停案に反対する当事者が一人でもいれば、調停が成立することはありません。

これに対して遺産分割審判は、裁判所が客観的な立場から、遺産分割問題の解決方法を示す手続きです。よって、反対している当事者がいる場合でも、最終的には審判の拘束力が強制的に当事者へと及ぶのが特徴です。

審判は、対立する当事者間の紛争を解決するという構図が訴訟に類似しています。

しかし、審判についてはきちんとした手続きの形式を確保しつつ、家庭内の実情に即応した柔軟な審理と判断を行うことが重視されます。そのため、審判には主に以下の点で訴訟とは異なる特徴が存在します。

  • 審判は非公開で行われる(訴訟は公開)
  • 審判には処分権主義や弁論主義が採用されていない(当事者が請求、主張していない事柄でも、審判の内容に含め、審判の基礎とすることができる)
  • 控訴はできず、即時抗告等のみが認められる

遺産分割調停の申し立ては、以下のいずれかの家庭裁判所に対して申立書を提出して行います。

<遺産分割調停の管轄裁判所>

  • 他の相続人と包括受遺者の一人の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法4条)
  • 当事者が合意で定める家庭裁判所(同法66条1項)

必要書類や費用については、以下の裁判所HPで確認できるほか、申し立ての際に弁護士や裁判所担当者と具体的に確認しましょう。

参考:遺産分割調停|裁判所

一方、遺産分割審判については、同法272条4項により、遺産分割調停が不成立になったことをもって自動的に移行します。そのため、あらためて申し立てを行う必要はありません。

なお、遺産分割調停を経ずに、いきなり遺産分割審判を申し立てることも、法律上は可能です。しかし、実務上は話し合いによって解決を目指すべきであるとして、事件が調停に付されるケースが多いと考えられます。これは同法274条1項に基づきます。

遺産分割の方法そのものを訴訟で争うことはできませんが、その前提となる法律問題や、遺産分割と関連性はあるものの別個の法律問題については、訴訟で解決すべき場合があります。

財産隠しが疑われる場合や、被相続人(亡くなった人)が別人の名義で財産を持っている可能性がある場合には、遺産分割を行う前に、遺産の範囲を確定する必要があります。

この場合、「遺産確認訴訟」を提起することができます。

相続欠格に該当することや、養子縁組が無効であることなどを理由として、特定の人について相続権の有無が争われるケースがあります。

この場合、「相続人の地位不存在確認訴訟」で相続権の有無が争われます。

形式不備や偽造、変造などを理由に、被相続人の作成した遺言書が無効ではないかと主張されるケースがあります。

この場合、「遺言無効確認訴訟」で遺言の有効性を争うことができます。

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すでに行われた遺産分割協議の取り消しや無効が認められると、遺産分割はやり直しとなります。

遺産分割協議の取り消しや無効は、「遺産分割協議無効確認訴訟」で争われます。

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一部の相続人によって遺産が使い込まれた場合、相続人は遺産を返還するか、失われた遺産の価値に相当する金銭の賠償を行う義務を負います。

遺産の返還や金銭賠償は、「不法行為に基づく損害賠償請求訴訟」または「不当利得返還請求訴訟」によって争われます。

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兄弟姉妹以外の法定相続人に対しては、民法1042条1項において、相続できる財産の最低保証額である「遺留分」が認められています。

遺留分に足りない財産しか承継できなかった相続人は、財産を多く承継した者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、不足分の金銭を補償してもらう権利を有します。これは民法1046条1項に準じます。

遺留分侵害額請求は、訴訟で争うことが可能です。

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遺産相続について揉めてしまった場合、遺産分割の方法については「審判」、それ以外の前提問題や関連事項については「訴訟」で争うことになります。

審判や訴訟は話し合いではなく、対立する当事者同士が主張を戦わせる手続きです。不十分で不適切な対応を行ってしまうと、ご自身にとって不利な審判や判決が確定し、想定外の損害を被ってしまうことになりかねません。

そのため、遺産相続に関するトラブルへの対応については、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

(記事は2021年9月1日時点の情報に基づいています)