相続放棄の却下率はごくわずか 却下されるパターンや受理の可能性を高める方法を解説
相続放棄の却下率は毎年0.2%前後と、非常に低くなっています。とはいえ、却下の典型的なパターンに陥ると、相続放棄が認められない可能性も生じてしまいます。適宜弁護士や司法書士に相談のうえ、相続放棄の確実性を高めましょう。今回は、相続放棄の申述が却下される場合のパターンや、受理の可能性を高める方法について弁護士が解説します。
相続放棄の却下率は毎年0.2%前後と、非常に低くなっています。とはいえ、却下の典型的なパターンに陥ると、相続放棄が認められない可能性も生じてしまいます。適宜弁護士や司法書士に相談のうえ、相続放棄の確実性を高めましょう。今回は、相続放棄の申述が却下される場合のパターンや、受理の可能性を高める方法について弁護士が解説します。
目次
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裁判所が公表している司法統計によると、相続放棄の「却下率(※)」は以下のとおり、毎年0.2%前後で推移しています。
※却下率=既済事件の総数に対する、却下件数の割合
出典:司法統計 家事平成30年度 3 家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数 全家庭裁判所|裁判所
司法統計 家事令和元年度 3 家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数 全家庭裁判所|裁判所
司法統計 家事令和2年度 3 家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数 全家庭裁判所|裁判所
相続放棄の却下率が非常に低いのは、明らかに却下すべき理由がない限り、相続放棄の申述を受理する運用がなされているためです。
相続放棄が認められるための要件は、以下の2つです。
①熟慮期間内に、家庭裁判所で申述を行うこと
相続放棄は原則として、自己のために相続が開始したことを知った時から3カ月以内に行う必要があります(民法915条1項)。
②法定単純承認が成立していないこと
以下のいずれかに該当する場合には、相続の単純承認をしたものとみなされるため、相続放棄が認められません(民法921条1号、3号)。
相続放棄の申述については、家庭裁判所が事実関係に深く立ち入った調査・検討を行うことは予定されていません(東京高裁平成22年8月10日決定参照)。
そのため、要件を欠いていることが明らかな場合以外は、相続放棄の申述は受理される運用となっています。
上記の取り扱いの裏返しとして、相続放棄の申述が受理されても、相続放棄が実体要件を備えていることが確定されるわけではありません。
したがって、被相続人の債権者は、法定単純承認の成立などを理由として、相続放棄の効力を訴訟などで争うこともできます。
相続放棄の要件を踏まえると、相続放棄の申述が却下される場合は、おおむね以下の3つのパターンに分類されます。
相続放棄の熟慮期間(期間制限)は、「自己のために相続が開始したことを知った時から3カ月以内」です。
「自己のために相続が開始したことを知った時」とは、以下の時期を意味します。
①最初から相続人だった場合
被相続人の死亡を知った時
②先順位相続人の全員が相続放棄をしたことにより、自分に相続権が回ってきた場合
先順位相続人の全員が相続放棄をしたことを知った時
熟慮期間については柔軟な運用がなされており、期間経過後でも相続放棄が認められる場合もあります。
例えば、相続債務の存在を知るきっかけがなく、後から債務の存在を知った場合には、熟慮期間経過後でも相続放棄が認められる可能性が高いです。
しかし、正当な理由なく熟慮期間を経過した場合には、相続放棄の申述が却下されてしまうおそれがあります。
法定単純承認事由の中で一番よく見られるのは、自分の判断で遺産(相続財産)を使ってしまったというパターンです。
自分のために遺産を使ってしまった場合のほか、被相続人の債務を期限前に一括返済した場合などにも、法定単純承認が成立する可能性があります。なお、生命保険金は、受取人の固有財産なので、使っても法定単純承認には該当しません。
相続放棄の申述書を提出した後、しばらくすると家庭裁判所から、相続放棄に関する質問が記載された「照会書」が送付されます。
照会書には、「相続財産を使いましたか?」という内容の質問が記載されています。
これに「はい」という趣旨で回答してしまうと、相続放棄が認められなくなるおそれがあるので注意が必要です。
相続放棄の提出書類に不備があると、家庭裁判所から補正を求められます。
補正の指示に応じない場合、相続放棄の申述が却下される可能性があるので注意しましょう。
相続放棄の必要書類については、裁判所のホームページをご参照ください。
参考:相続の放棄の申述|裁判所
また、家庭裁判所から送られてきた照会書への回答を返送しない場合にも、相続放棄の申述が却下されるおそれがあります。
照会書を受領したら、早めに回答を返送しましょう。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探す相続放棄の申述を却下する審判に対しては、即時抗告が認められています(家事事件手続法201条9項3号)。
即時抗告の期間は、審判の告知日から2週間以内です(同法86条1項、2項)。
即時抗告を行う際には、相続放棄の申述が受理されるべき理由を、根拠資料とともに理路整然と主張する必要があります。ぜひ一度弁護士にご相談ください。
相続放棄の申述が却下される事態を回避するには、熟慮期間と法定単純承認の2点について、却下のパターンに陥らないような対応をとることが大切です。
「自己のために相続が開始したことを知った時から3カ月以内」という熟慮期間内に申述を行うことが、相続放棄をする際のもっとも基本的な対応となります。
相続財産の中に債務が存在することが判明した場合には、すぐに相続放棄の検討・準備に着手しましょう。
相続財産の調査などに時間がかかり、熟慮期間内に相続放棄の申述が間に合わないケースも想定されます。
この場合、熟慮期間内であれば、家庭裁判所に対して熟慮期間の伸長を請求できます。
相続放棄をするかどうかすぐに判断できない場合には、念のため熟慮期間伸長の手続きを行っておきましょう。
熟慮期間が経過しても、相続放棄の申述を受理してもらえる可能性はあります。
ただしその場合、家庭裁判所に対して、申述が遅れた理由を合理的に説明しなければなりません。
家庭裁判所が納得するような説明を行うためには、弁護士や司法書士へのご相談をお勧めします。
法定単純承認にあたる行為をしてしまうと、相続放棄の申述が却下されたり、仮に受理されたとしても、後で債権者から相続放棄の効力を争われたりするおそれがあります。
特に、相続放棄の可能性が視野に入っている場合、自分だけの判断で遺産を処分するのは非常に危険です。
もし遺産を処分することを検討している場合には、必ず事前に弁護士などへご相談ください。
相続放棄の却下率は低いですが、熟慮期間や法定単純承認などとの関係で、まれに却下されるケースも存在します。
相続放棄が問題なく受理される可能性を高めるには、お早めに弁護士や司法書士までご相談ください。
(記事は2022年4月1日現在の情報に基づいています)
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