所有者不明土地問題に道筋 相続登記義務化の法改正をチェック
相続した不動産の登記を義務づける法改正が、今国会で成立する見通しになりました。所有者不明土地問題の解消に道筋をつける上で、大きな意味があります。どのような変化があるのか、要点をまとめました。
相続した不動産の登記を義務づける法改正が、今国会で成立する見通しになりました。所有者不明土地問題の解消に道筋をつける上で、大きな意味があります。どのような変化があるのか、要点をまとめました。
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今年2月2日にあった法務省の民法・不動産登記法部会で「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されました。これを受け、法制審議会が「所有者不明土地問題の解消に向けた民法と不動産登記法改正案などの要綱」を上川陽子法相に答申。3月5日の閣議で、民法や不動産登記法の改正案などを決定しました。やっと、所有者不明土地という、相続でも難問化していた問題に道筋ができることになります。
これまでも、以下のような記事で、この問題を取り上げてきました。この記事では、改正案の要点に加え、土地の所有権放棄や活用策についても解説します。
今回の改正案では、以下の点が、明記されました。
この改正は、登記名義人の所在を確認しやすくすることで、その後のトラブル対応を図ることを目的にしています。これまでの記事で、お伝えした通りの内容になっています。
相続の登記は相続人全員で行うので、遺産分割に基づいた登記申請が原則です。ただ、遺産分割でもめていると、従来の制度では登記ができないケースもあります。そういったケースを想定し、制度を簡素化し単独で申請できるようにします。当てはまるのは、具体的に次のような形です。
また、亡くなった被相続人の所有していた不動産が分からないと登記申請ができないため、新しく「所有不動産記録証明制度」を創設することで、保有不動産を把握しやすくします。
注意点もあります。現在の登記は過去の時点のもので、必ずしも記載されている情報が現実に即しているわけではありません。つまり、網羅性等に関しては技術的な限界があります。ですから、その問題点を解消するため、登記名義人の氏名や住所に変更があった場合に、2年以内の登記申請を義務づけ、違反した場合は5万円の過料に処されます。恐らく、今後、マイナンバー制度の実用化が進むことに伴って制度が連携し、実態と合った情報に修正されていくと思われます。
一定の条件の下、土地(所有権)を放棄し、国庫に帰属させられる制度もできました。個人的には、これが最も大きな改正だと感じています。お伝えした通り、所有権放棄自体は法的にあるのですが、要件などが厳しく明確化もされず実際には認めらない状況にありました。今後、管理不全の所有者不明土地を増やさないためにも、条件付きで所有権放棄を可能にする制度です。
ただ、この制度は原則ではなく例外です。ですから、法務大臣に対し承認を求めることが「できる」ということで、共有の場合は全員で一斉に行う必要があります。当然、申請料も掛かります。
承認される条件としては、例えば、建物のない更地や担保権など余計な権利が付いていない土地、土壌汚染がなく、境界が明らか―といったものです。つまり、国が利用する際に邪魔になる条件が付いていない土地だけを想定しています。ですから、生前にその阻害要件をなくす必要があります。
そして、承認された際には、種目ごとにその管理に要する負担金を納付しなければなりません。この金額は固定資産税の10年分と言われています。
答申には、国による土地活用策も盛り込まれました。その条件としては、以下の2点があります。
土地を活用する目的としては、①境界またはその付近における障壁やライフラインの築造、収去や修繕のため、②境界標の調査や境界に関する測量を行うため、③越境した枝の切取り等のため―が挙げられ、必要な範囲内で、隣地(土地)を使用できるようになります。
また、所有者不明土地や建物について、利害関係人の請求により、裁判所が管理命令を出し、専任された管理人が対象の土地や建物を管理(保存・利用や改良)することになります。ですから、管理人を相手に問題解決に向けた話し合いを進めることができるようになります。
そのために、今回の改正の前段階(2020年3月)に土地基本法を改正し、土地や建物所有者の管理の責務を明確化したのです。
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相続の相談が出来る司法書士を探す登記しないで相続が続いた場合、大人数で不動産を共有することにつながります。いざ、売却や利活用を考えた時、全員の了解を得なければならず、時間も経費もかかってしまい、この課題を解消するのが目的です。明記されたのは、以下の点です。
実務上では大きな改正です。一定期間=相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割については、遺留分に影響のある特別受益と寄与分については影響しないという内容になります。この改正では、今まで相続人の権利として当然に存在した遺留分について、一定の制限が掛かることになります。例えば、相続した何十年か後に正当な権利を持つ相続人が現れ、その何十年前の相続をやり直さざるを得ないということはなくなります。
最後に、この改正案は順調にいけば、今国会(第204回通常国会)にて可決成立し、2023年度までには施行される予定です。2022年度は、18歳成人の開始や医療保険や介護保険、年金など社会保険関連の改正もあり、これから大きな節目を迎えそうです。
(記事は2021年3月1日時点の情報に基づいています)
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