簡単ではない土地の所有権放棄 どうなる所有者不明土地

昨今、社会問題になりつつある「所有者不明土地問題」。土地を持っていても、必ず安心できない現状を踏まえ、相続放棄を巡る国の方針をひもといていきます。
昨今、社会問題になりつつある「所有者不明土地問題」。土地を持っていても、必ず安心できない現状を踏まえ、相続放棄を巡る国の方針をひもといていきます。
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前回、「今秋が大きな節目に どうなる所有者不明土地問題」で、所有者不明土地問題の現況についてお伝えしました。
今回から、所有者不明土地問題に関する、現時点での国の方針を読みときます。ベースにするのは、2019年末に法務省法制審議会の「民法・不動産登記法部会」が出した「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」です。
問題は大きく分けて二つあります。「所有者が誰だか分からない」ケースと「所有者はわかっていても、どこにいるか分からない」ケースです。
わたしが受けたことのある相談をもとに、具体的なケースを考えると、以下のようなものになります。
・使い道や経済的な負担を考え、空き家になっている親の実家を相続放棄したいが、管理責任はあるらしいので、悩んでいる
・先々代・おじいさんの登記(名義)のままになっている土地を自分が管理し、固定資産税等維持費も負担しているので単独名義にしたい
・兄弟姉妹で共有名義になっている両親の実家(空き家)を処分したいけど、1人だけ反対されて困っている
・お隣と境界線が確定できず、登記すらできない
・管理不全の状態になっている近隣の土地があり、地域全体で対応したいが、誰が持ち主なのかわからず困っている
問題を解決できないと、結果として管理不全の空き家や空き地が増え、地域、ひいては社会全体の大問題になります。
少子超高齢社会の進行が著しいですが、そのような中で、実家の空き家等を手放したいと考える人が急増しています。
国土交通省の2018年版「土地白書」に盛り込まれた「利用されていない土地に関するWEBアンケ-ト」の結果では、「所有する空き地を相続させたいか」という問いに、「相続させたいとは思わない」と答えた人が約57%に上りました。また、同じく「土地問題に関する国民の意識調査」では、土地所有権について「放棄を認めてもよい」とした人は約77%を占めました。
全ての不動産に利用価値や経済価値があり、「保有しているだけでお得」という時代は過去のモノとなりました。
ただ、売却するにしても買いたいと思う人がいなければ手放すことができません。
あるセミナーで、「代替わりの相続のタイミングで相続放棄をして、不要な不動産を国に押しつけてしまおう」という趣旨の発言を聞いたことがあります。
しかし、正直、モラルの問題として疑問を感じました。
法的に相続放棄が認められているのも確かです(民法第915条・921条)。その方法にもルールがあります。放棄することを被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に申し出て、期限は被相続人が亡くなったのを知ってから3ヵ月以内、などです。「一部の財産は貰うけれど、この財産だけ放棄します」という中途半端な放棄はできません。
ただ、良く聞かれると思いますが、法的に生命保険(死亡保険金)は亡くなった人の本来の財産ではなく、死亡が原因で支払われたものなので、相続放棄しても受け取ることができます。
次に、土地所有権の放棄が可能かどうかを考えていきましょう。実は、現行法上では必ずしも明らかになっていません。
残置物などの動産や請求権などの債権については放棄が認められています。また、所有者のない不動産については国庫に帰属するものとされています(民法239条第2項)。ですから、相続放棄をすれば、基本的に国の所有になります。
ただ、土地の所有権を放棄し、国に移転登記手続きを求めた裁判が起こされたこともあります。判決は、平成28年12月21日に広島高裁松江支部でありました。この判決の中では、一般的に土地の所有権放棄を認めつつも、原告の求めは権利濫用等にあたるなどとされ、認められませんでした。権利濫用とは、社会的に認められる限度を超えて権利を活用しているという意味合いがあります。つまり、ケースによっては、土地の相続放棄は認められないことがあるのです。
また、相続放棄したとしても、完全に土地が手を離れるわけではありません。相続財産に関して一定の管理義務は生じます(民法第918条)。
不動産を保有することで納税の必要が生じる固定資産税は、市町村の重要な財源です。相続放棄で所有者が国になってしまうと、国から固定資産税を支払ってもらえません。そうすると、固定資産税分の収入が減ってしまうので、市町村にとって、相続放棄は受け入れづらいです。
また、使い道の乏しい不動産が国庫に入ると、その土地を国で管理することになります。国としても手間やコストもかかるので、簡単に受け入れることはできません。
国は、今年2020年(令和2年)3月に土地基本法を改正。土地保有の意思の有無は問わず、所有者が管理責任を負う内容に改定されました。管理不全の責任について、管理を放棄しているようなモラル的な問題が顕在化しているためです。
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相続の相談が出来る司法書士を探す所有権自体の放棄は、現在、認められていません。ですから、現在はどんな形であれ、誰かが所有権を引き継ぐことが必要です。
ただ、今後も管理不全を起こしている土地が増加していくのを国としては放置するわけにいきません。管理不全を防止するとともに所有者不明土地の発生自体を抑制することが必要です。そのために、前述の法制審議会は一定の条件の下、新たに「土地所有権の放棄を可能とする制度」を創設する方向で検討しています。
例に挙げると、土地の権利帰属に争いがなく、境界が確定されていたり、第三者の使用収益権や担保権が設定されておらす、所有者以外に土地を占有する者がいなかったりする土地は、所有権放棄を認めようという形です。
さらに、建物や土地の管理を阻害する有体物が存在しない、崖地といった管理困難な土地ではないといった条件も必要でしょう。そして、公平性の観点から、放棄を希望する土地所有者が、経済的に一定程度を負担するほか、十分な対応をしたものの放棄せざるを得なかったと言えるだけの裏付けもポイントになると思います。
この方針で法改正が実現すると、全く新しい制度になります。法律的にも、民法(物権編・相続編)、不動産登記法、新規の行政法の創設など非常に大掛かりな改正になるので 、所有者不明土地の問題で悩んでいる方は、今後も情報収集に努めてください。
(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)
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