相続放棄しても空き家の管理義務は残る?【2023年ルール変更】免れるための対処法も紹介
田舎の家や山林などを相続したくないとき、相続放棄したら管理を免れるのでしょうか。実は2023年4月以降、民法改正によってルールが変更され、相続放棄後の管理義務(保存義務)の責任が明確化されました。この変更点や、管理から免れるための対処方法をわかりやすく解説します。
田舎の家や山林などを相続したくないとき、相続放棄したら管理を免れるのでしょうか。実は2023年4月以降、民法改正によってルールが変更され、相続放棄後の管理義務(保存義務)の責任が明確化されました。この変更点や、管理から免れるための対処方法をわかりやすく解説します。
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「相続放棄」したら不動産や株式などの資産を相続できません。そうであれば、管理もしなくて良いと考える方が多いでしょう。
しかし、2023年3月末までは相続放棄しても不動産等の管理義務が残ってしまうケースがありました。それまで民法では次のように定めていたためです。
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
例えば以下のような場合、相続放棄者に管理義務が及んでいました。
相続人が1人だけのケースでは、その相続人が相続放棄しても遺産を管理しなければなりません。複数の相続人がいても、全員が相続放棄したら最後に放棄した相続人は遺産を管理しなければなりませんでした。
放置するとトラブルに巻き込まれる可能性がありました。例えば、空き家を放置したばかりに、第三者に大きな迷惑をかけた場合には、責任を問われる恐れがあったのです。空き家や田畑、山林などを相続して管理が面倒でも、適切に対応する必要がありました。
なお、空き家や森林を相続放棄した人が管理義務を免れるには、家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要がありました。
このように相続放棄しても管理義務が残り、その義務から免れるには「相続財産管理人」の選任という手間がかかっていたため、いらない実家や山林が残された相続人が相続放棄をすることに二の足を踏む要員となっていました。
これまでの法律では、相続放棄後の管理義務の対象者が「あいまい」との指摘もされてきました。そこで、2023年4月から施行された改正民法により、責任者が明確にされました。条文に、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という一文が明記されました。
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
前述のように、これまでは全員が相続放棄した場合、最後に放棄した相続人が遺産を管理しなければなりませんでした。しかし、改正民法が施行し、「現に占有している」実態がなかった相続人に、管理責任が移ることはなくなりました。
なお、「現に占有」とは「事実上、支配や管理をしている」状態を指します。たとえば、被相続人の自宅に暮らしている相続人は、相続財産である自宅を「現に占有」していると言えるため、相続放棄後も管理しなければなりません。
一方、空き家を相続放棄した場合、その建物の手入れなどに関わっていなければ、「現に占有」とは言えないため管理義務を負うことはありません。たとえば、島根県に暮らしていた親が亡くなって、東京に暮らす子どもが相続放棄した場合を考えてみましょう。この場合、その家の手入れに全く関わっていなければ、管理義務はありません。
また、別のケースも考えてみましょう。相続以前に子どもが親と一緒に暮らしていたとします。親の死後、その子が相続放棄したら、これまでの法律では次順位の相続人である「親の兄弟姉妹」に管理責任が移っていましたが、今後は兄弟姉妹が相続放棄すれば、最終的に管理責任を負うのは、あくまで「現に占有」している子どもです。
ただし、「現に占有」の解釈は明確にはなっていませんので、相続放棄する前に弁護士に相談することをお勧めします。
これまで「管理義務」との言葉を使ってきましたが、相続の放棄をした者が相続財産の管理または処分する権限や義務を負わないことを踏まえて、呼称が「管理義務」から「保存義務」と変わりました。法律には「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と記されています。
とはいえ、「管理義務」と「保存義務」の中身に実質的な違いはないと考えられます。呼び方が変わっただけと言ってもいいでしょう。
相続人がいない場合に選任される「相続財産管理人」の呼称も、「相続財産清算人」と変更されました。民法918条に基づく相続財産の保存を目的とする相続財産管理人と区別するためですが、これまでの立場や権限内容は基本的に変更ありません。
これまで説明してきたように、「現に占有している」者でなければ、相続放棄をすれば管理責任から逃れられるようになりました。しかし、「現に占有している」者には保存義務が残ります。きちんと財産を管理しなかったら、どのようなリスクが及ぶのでしょうか?
きちんと管理しなかったために財産が毀損されると、債権者が債権回収できなくなったり受遺者が遺産をもらえなくなったりする可能性があります。すると相続放棄者の保存責任として、損害賠償請求されるリスクが発生するでしょう。
また、相続放棄した家の壁が倒壊して通行人にケガをさせた場合などには、ケガをした第三者から損害賠償請求される可能性もあります。
例えば、田舎の家を放置していて犯罪集団のアジトや薬物栽培の場所に使われたり放火されたりすると、保存義務者である相続放棄者が事件に巻き込まれる可能性があります
共犯を疑われる可能性もあるので注意しなければなりません。
「現に占有している」者が相続放棄した場合、保存義務があるからといって、勝手に遺産を処分してはなりません。
処分すると「法定単純承認」(プラスの財産もマイナスの財産も相続すること)が成立して相続放棄の効果がなくなってしまいます。そうなったらすべての遺産を相続せざるを得なくなり、借金が遺された場合などには大変な不利益を受ける可能性が発生します。
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相続放棄の相談ができる弁護士を探す「現に占有している」人が、相続放棄した場合に管理を免れるには、どうすればよいのでしょうか?
相続放棄をした場合、次順位の相続人がいる場合には、その人に相続権が移ります。その人が相続してくれるのであれば、占有していた遺産を引き継ぐことで保存義務もなくなります。しかし、その人も相続放棄した場合、保存義務は占有していた者に残りますので、保存義務を免れることはできません。
前述のように、現に占有している者が相続放棄しても、それ以外の相続人が相続しない場合は保存義務は残ります。その場合、保存義務を免れるには家庭裁判所に「相続財産清算人」を申し立てる必要があります。
相続財産清算人とは、被相続人(亡くなった方)の債権者に対し債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させる人です。空き家であれば、まずは売却などを検討し、それが難しいなら土地を国庫に帰属させる手続きをとります。
相続財産清算人に遺産を引き継げば、現に保有している遺産の相続放棄者であっても遺産の管理をしなくてもよいことになります。
相続財産清算人を選任したいときには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所での選任の申立てを行いましょう。以下に、必要書類や費用などをまとめました。
【必要書類】
【費用】
相続財産清算人選任申立の際、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度、官報公告料5057円がかかります。それ以外に20~100万円程度の「予納金」を払わねばならない可能性があります。予納金は、相続財産清算人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産清算人の報酬に充てられるお金です。
【相続財産清算人の候補者について】
相続財産清算人の選任を申し立てる際「候補者」を立てることができます。親族や相続放棄者が候補者となってもかまいません。
ただし、相続財産管理人は複雑な手続き対応が要求されますので、必ずしも候補者が採用されるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門家が選任される場合が多いです。
相続放棄をすると、プラスの財産だけでなくマイナスの財産もすべて相続しないことになります。プラスの財産が、空き家の管理の手間や費用を超えるほどあるのであれば、相続放棄せず、相続することも検討すべきでしょう。
「現に占有する」者が誰もいない空き家を、相続人すべてが相続放棄した場合、利害関係者(債権者など)や検察官が、清算人の選任申立てを行います。家庭裁判所に選任された清算人が保存を行い、債務を支払うなどして清算した後、残った財産を国庫に帰属させます。空き家の場合、売却も検討しますが、それも難しければ最終的には国庫に入ることになります。
弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士であれば、そもそも相続放棄がベストな選択肢なのかアドバイスしてくれます。相続放棄は「相続開始を知ってから3か月以内」に行う必要があり、弁護士に依頼すれば確実に手続きしてくれます。ほかの相続人や債権者への対応も委ねることができますのでトラブルの防止にもつながります。
相続放棄しても、「現に占有している」遺産である場合、保存義務を免れるとは限りません。勝手に遺産を処分すると相続放棄できなくなる可能性もあります。また、相続財産清算人を選任する際にも高額な予納金を要する可能性があるので、自己判断で行動すると高いリスクが生じるといえるでしょう。
それであれば、自力で売却した方が良い場合も考えられます。被相続人の生前であれば、被相続人が売却や寄付する方法も検討できるでしょう。
もしも不要な財産を引き継いでしまったら、自己判断で相続放棄する前に弁護士に相談しながら対応してみてください。
(記事は2023年5月1日時点の情報に基づいています)
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