相続放棄しても空き家の管理義務が残る? 責任内容や免れるための方法を解説

田舎の家や山林などを相続したくないとき、相続放棄しても管理を免れるとは限りません。例えば、相続人が全員相続放棄してしまったら、放棄者にも管理義務が及ぶので注意しましょう。管理義務を免れるには家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。今回は相続放棄者の管理義務の内容や、義務を逃れるための方法を解説します。
田舎の家や山林などを相続したくないとき、相続放棄しても管理を免れるとは限りません。例えば、相続人が全員相続放棄してしまったら、放棄者にも管理義務が及ぶので注意しましょう。管理義務を免れるには家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。今回は相続放棄者の管理義務の内容や、義務を逃れるための方法を解説します。
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「相続放棄」したら不動産や株式などの資産を相続できません。そうであれば、管理もしなくて良いと考える方が多いでしょう。
しかし、相続放棄しても不動産等の管理義務が残ってしまうケースがあります。民法では次のように定めています。
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
例えば以下のような場合、相続放棄者に管理義務が及びます。
相続人が1人だけのケースでは、その相続人が相続放棄しても遺産を管理しなければなりません。複数の相続人がいても、全員が相続放棄したら最後に放棄した相続人は遺産を管理しなければなりません(後述しますが、2023年4月から民法改正によって変更となります)。
管理義務の程度は「自分のものを管理するとき」のものとなります。他人のものを預かる場合の注意義務よりは軽いと考えられています。
とはいえ放置するとトラブルに巻き込まれる可能性があります。例えば、空き家を放置したばかりに、第三者に大きな迷惑をかけた場合には、責任を問われる恐れがあります。空き家や田畑、山林などを相続して管理が面倒でも、適切に対応しましょう。
それでは管理を課せられた相続放棄人は、その義務をいつまで負うのでしょうか。
民法には「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」と定められているので、ほかに相続人がいない場合、延々と管理しなければならなくなってしまいます。それでは、何のために相続放棄をしたのか、わからなくなってしまいます。
この管理義務を免れるための手段が「相続財産管理人の選任手続き」です。「3. 相続放棄者が管理を免れる方法」で詳しく説明します。
これまでの法律では、相続放棄後の管理義務の対象者が「あいまい」との指摘もされてきました。そこで、2023年4月から施行される改正民法により、責任者が明確にされます。条文に、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という一文が明記されるためです。
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
前述のように、現在の法律では全員が相続放棄した場合、最後に放棄した相続人が遺産を管理しなければなりません。改正民法の施行後は、まったく管理に関わっていなかった相続人に、管理責任が移ることはなくなります。
例えば、相続以前に子が親の土地を管理していたとします。親の死後、その子が相続放棄したら、現在の法律では次順位の相続人である「親の兄弟姉妹」に管理責任が移っていましたが、改正民法施行後はこうしたことがなくなることになります。
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相続放棄の相談ができる弁護士を探すもしも相続放棄者がきちんと財産を管理しなかったら、どのようなリスクが及ぶのでしょうか?
きちんと管理しなかったために財産が毀損されると、債権者が債権回収できなくなったり受遺者が遺産をもらえなくなったりする可能性があります。すると相続放棄者の管理責任として、損害賠償請求されるリスクが発生するでしょう。
また、壁が倒壊して通行人にケガをさせた場合などには、ケガをした第三者から損害賠償請求される可能性もあります。
例えば、田舎の家を放置していて犯罪集団のアジトや薬物栽培の場所に使われたり放火されたりすると、管理義務者である相続放棄者が事件に巻き込まれる可能性があります
共犯を疑われる可能性もあるので注意しなければなりません。
相続放棄者に管理義務が及ぶ場合でも、勝手に遺産を処分してはなりません。
処分すると「法定単純承認」(プラスの財産もマイナスの財産も相続すること)が成立して相続放棄の効果がなくなってしまいます。そうなったらすべての遺産を相続せざるを得なくなり、借金が遺された場合などには大変な不利益を受ける可能性が発生します。
相続放棄した人が管理を免れるには、どうすればよいのでしょうか?
現在の民法によると「次の相続人が管理を始めるまで」管理義務が及ぶと規定されています。次順位の相続人がいる場合には、その人に財産を引き渡せば管理義務はなくなります。
相続人が全員相続放棄してしまったら、次順位の相続人に託すことはできません。
その場合、管理義務を免れるには家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。
相続財産管理人とは、遺産を管理して債権者への支払いや受遺者への遺贈を行い、相続財産の清算を行う人です。相続財産管理人に遺産を引き渡せば、相続放棄者は遺産の管理をしなくてもよいことになります。
相続財産管理人を選任したいときには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所での選任の申立てを行いましょう。以下に、必要書類や費用などをまとめました。
【必要書類】
【費用】
相続財産管理人選任申立の際、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかります。それ以外に20~100万円程度の「予納金」を払わねばならない可能性があります。予納金は、相続財産管理人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産管理人の報酬に充てられるお金です。
【相続財産管理人の候補者について】
相続財産管理人の選任を申し立てる際「候補者」を立てることができます。親族や相続放棄者が候補者となってもかまいません。
ただし必ずしも候補者が採用されるとは限らないので注意しましょう。弁護士や司法書士などの専門家が選任される場合も少なくありません。
相続放棄しても管理義務を免れるとは限りません。勝手に遺産を処分すると相続放棄できなくなる可能性もあります。また、相続財産管理人を選任する際にも高額な予納金を要する可能性があるので、自己判断で行動すると高いリスクが生じるといえるでしょう。
それであれば、自力で売却した方が良い場合も考えられます。被相続人の生前であれば、被相続人が売却や寄付する方法も検討できるでしょう。
もしも不要な財産を引き継いでしまったら、自己判断で相続放棄する前に弁護士に相談しながら対応してみてください。
(記事は2022年11月1日時点の情報に基づいています)
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