相続放棄ができない・認められない事例と手続きで失敗しないための対処法
亡くなった方に負債や借金があり、相続放棄をした場合、負債を含む全ての財産を相続しないことになります。しかし、相続放棄が認められない事例も存在します。相続放棄の期限である3カ月を過ぎてしまったり、知らずのうちに遺産を使ってしまうなどのケースです。この記事では相続放棄できないパターンや失敗しないための対処方法を弁護士がお伝えします。
亡くなった方に負債や借金があり、相続放棄をした場合、負債を含む全ての財産を相続しないことになります。しかし、相続放棄が認められない事例も存在します。相続放棄の期限である3カ月を過ぎてしまったり、知らずのうちに遺産を使ってしまうなどのケースです。この記事では相続放棄できないパターンや失敗しないための対処方法を弁護士がお伝えします。
目次
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基本的には相続放棄の申述(申し込み)をすると、受理される場合が多いです。まずは相続放棄の基本的な概念に加え、過去の判例を紹介します。
相続人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの相続方法を選ぶことができます。
「単純承認」とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け入れることです。「限定承認」は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を弁済する相続方法ですが、実際に使われることはほとんどありません。そして、「相続放棄」とは、相続開始による包括承継(被相続人の権利義務の一切を引き継ぐこと)の効果を全面的に拒否する意思表示です。
相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったとみなされます(民法939条)。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申述して行わなければなりません(民法915条、938条)。
相続放棄の裁判所審査については、「却下すべきことが明らかな場合以外は、相続放棄の申述を受理すべき」とする以下の裁判例があり、広く受理する運用を行っているものと思われます。
【東京高決平成22年8月10日家庭裁判月報63巻4号129頁】
≪事案≫
被相続人の債権者が、相続人に対して送付した滞納賃料の請求書等が配達されたところ、配達日された日に相続人は債務について認識し得たはずであるから、熟慮期間の3カ月以上経過した後に相続放棄がなされたとして、相続放棄の申述を却下した原審判に対し、抗告がされた事例。
≪判旨≫
「相続放棄の申述が却下されると、相続放棄したことを主張できなくなることにかんがみれば、家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合以外は、相続放棄の申述を受理すべきであるところ、前記請求書等は特定記録郵便によって配達されているが、特定記録郵便は、相続人に到達したか否かを事後的に確認する手段に欠けており、誤配の可能性も否定できないのであるから、本件においては相続放棄の申述を却下すべきことが明らかであるとはいえない。」として、原審判が取り消され、相続放棄の申述が受理された。
次に相続放棄の申述が受理されない代表的な事例を紹介します。
例えば、相続人が相続財産の一部を処分した場合などは、法律上単純承認したものとみなされる規定があります(民法921条)。
このように、法律上単純承認とみなされてしまうことを法定単純承認といいます。
ただし、例えば、財産処分といっても、被相続人の葬儀代を支払ったにすぎない場合などは例外的に相続放棄をすることができるケースもあります。
単純承認と見なされる可能性のある例として、以下が挙げられます。
相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから「3カ月以内」にしなければなりません。この期間を熟慮期間と言います。
民法921条では、上記3カ月の期間以内に相続人相続放棄や限定承認をしなかった場合、単純承認をしたものとみなすとの規定がされています。
そのため、相続があったことを知っていたにもかかわらず、何もせずに放置していると相続放棄ができなくなる可能性があります。
ただし、上記3カ月という期間についても、財産調査が難航していることなどを理由に、相続放棄の期間延長の申立てをすることで、3カ月という期間を延ばすことが可能なケースもあります。
相続放棄の申述をする場合、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄申述書及び必要書類を提出する必要があります。
必要書類は、ケースバイケースですが、基本的には被相続人の住民票除票又は戸籍附票、放棄する人の戸籍謄本、被相続人の除籍謄本等が考えられます。
このような必要書類に不備があった場合、通常は家庭裁判所からどのような書類が足りないか連絡がくると思われるので、追完をすることで相続放棄が可能と考えられます。
ただし、速やかに相続放棄をするためにも、具体的にどのような書類が必要であるか、家庭裁判所に問い合わせをして聞いてみるのも一つの手段です。
また、相続放棄の申述書を提出すると、家庭裁判所から「相続放棄の照会書」が送られてくることがありますが、それに回答しない場合にも、相続放棄の申述が却下されるおそれがあります。
照会書とは、家庭裁判所が確認したいことを問い合わせてくる文書で、「被相続人の相続開始を知ったのはいつか」「相続放棄の申述はあなたの真意で行ったものか」などの簡単な質問です。照会書を受け取ったら、早めに回答を返送しましょう。
【関連記事】相続放棄申述書の書き方 手順と注意点とは?
熟慮期間の3カ月を過ぎても相続放棄できるケースもあります。
例えば、当事務所が扱った実際のケースでは、相続から約13年経過してからの相続放棄の申立てが認められた例があります。
これは、相続人に知的障害があり、意思能力がなかったため、相続放棄が長年できなかったというケースです。
他にも、自己に相続があったことを知らなかったことにつきやむを得ない事情があった場合や、被相続人に借金があったことを知ることが困難であった場合など、3カ月以上経っていても相続放棄できるケースがあります。
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相続の相談が出来る弁護士を探す認められない事例について解説してきましたが、ここからは相続放棄に失敗しないための注意点を紹介します。
相続が発生した場合、まずは財産調査をきちんとしましょう。
「借金があるから相続放棄をしたい」と相談に来られた場合でも、弁護士が財産調査をした結果、プラスの財産が見つかり、相続放棄をしなくてもよくなり、相続財産を取得できたというケースがあります。
財産調査は一般の人でもある程度は行うことができますが、借金の有無(隠れた債務)や不動産の所在地、預貯金がどこの金融機関にあるか等、調査が必要な場合は、専門知識のない方には難しい場合もあります。
そのため、調査についてのノウハウのある弁護士ら専門家へ依頼した方がよいでしょう。
既に述べたとおり、相続放棄には3カ月という時間制限があります。
そのため、相続についてはできれば相続が発生する前から対策をして、実際に相続が発生した場合は、早く専門家に相談するなどして早く対処しましょう。
特に債務がある場合、請求書や督促状などの郵便物で発覚することもあります。このような場合、前述のとおり「相続の開始があった日」として3カ月以内に相続放棄をする必要があります
相続放棄の申述をして、家庭裁判所に却下されてしまった場合、その決定に不服があれば、2週間以内であれば高等裁判所に即時抗告が可能です。家庭裁判所が却下するのは、これまでの説明のとおり、単純承認が成立しているか、3カ月の熟慮期間が過ぎているケースがほとんどです。
特別な事情があれば、単純承認ではないと判断されたり、熟慮期間の起算日をずらすことも不可能ではありません。
このような場合、相続に強い弁護士に相談するのがよいでしょう。
相続放棄についてよく受ける相談をご紹介します。
特殊清掃については、相続財産の処分ではなく、現状維持をする行為であるとして、民法921条1号但書にある「保存行為」にあたるとされると考えられます。
亡くなった方の遺体が発見されず、放置されていた場合、悪臭を放ったり、ウジが湧いたりして、近隣住民から苦情がくることも考えられます。そのため、現地確認をした上で、必要であれば特殊清掃の業者に依頼した方がよいでしょう。
このケースでは特殊清掃をしても単純承認とはみなされず、相続放棄には影響を及ぼさないと考えられます。
法定相続人は、被相続人の相続財産を管理する義務を負っています(民法918条1項)。
また、相続放棄をしたとしても、「現に占有」している相続財産については、他の相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまではその財産を管理する義務があります(民法940条)。
例えば、親名義の家に暮らしていた場合、親が亡くなった後に相続放棄したとしても、相続財産である親の家に住み続けるのであれば、他の相続人に引き渡すか、相続財産清算人を選任するまで、その家の管理義務からは解放されません。
一方、相続財産である親の家などに居住していないのであれば、責任を負わないということになります。
相続財産清算人の選任には、20~100万円程度の予納金がかかります。通常は、予納金を相続財産から出そうとしても、相続発生後の預金口座は凍結されているため、自分の財産から予納金を支払うことになります。
占有していた財産を相続放棄をした人としては、財産管理のための最低限の費用(清掃費など)については、相続財産から支出をして財産管理義務を果たすか、自分の懐から予納金を出して相続財産清算人の選任申立てをするか、いずれかを選ぶことになります。
相続放棄が認められないケースとしては、借金に気が付かず、財産を処分してしまったというようなケースが多いです。
ただし、そのようなケースでも借金に気が付かないことについてやむをえない事情があり、かつ、葬儀代を支出したにすぎない場合などであれば、相続放棄をすることができる場合もあります。
トラブルを避けるためにも、相続については弁護士など専門家に財産調査等依頼する方がよいでしょう。
(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています)
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