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「特別受益の持ち戻し」とは

  • 同僚が家を買ったんだけど、頭金を親からもらったんだって! 僕もほしいな~。

    長男・太郎
  • 無理。期待するな。

    父親・一郎
  • また兄さんは勝手なこと言って。もし生前贈与を受けるなら、その分は、相続時の取り分を減らしてね。

    長女・花子
  • 生前贈与と相続は別の話だろ。相続時は平等に分けようぜ。

    太郎
  • それでは生前贈与を受けた方が有利じゃない。おかしいわ。

    花子
  • 花子さんの言い分が正しいです。生前贈与で渡した財産は遺産の前渡しであり、「特別受益」と呼ばれます。亡くなった後に遺産の分け方を協議する際には、前渡しした分を相続財産に含めて計算する「特別受益の持ち戻し」をします。

    ソーゾク博士
  • ほら、ごらんなさいよ。

    花子
  • 事例を考えてみましょう。3千万円の財産が残され、仮に太郎さんと花子さんの2人が相続人になったとします。半分に分けると、1500万円ずつになりますね。しかし、太郎さんが1千万円の生前贈与を受けていた場合、相続財産は「3千万円+1千万円=4千万円」と計算され、相続分はそれぞれ2千万円ずつとなります。太郎さんはすでに1千万円の贈与を受けているので、太郎さんが相続できるのは1千万円となります。

    博士
  • この計算は必ずしないとダメですか?

    太郎
  • いえ、花子さんが「贈与分は考えなくていいよ」と言えば、持ち戻しの計算は不要です。遺産分割協議は相続人間の合意があれば分け方を自由に決められるので。

    博士
  • そんなこと絶対言わないわ。

    花子

夫婦間の自宅贈与はどうなる?

  • 親からの資金援助すべてが特別受益となるわけでもありません。例えば、食費や学費、医療費など扶養義務の範囲内の援助であれば、特別受益とはみなされません。また、生前贈与をした人が「私が死んでも特別受益の持ち戻しはしなくてよい」と意思表示していた場合は、持ち戻しは免除されます。この意思表示は口頭だけでも可能です。ただ「言った、言わない」ともめる原因になるので、書面に残したほうがいいでしょう。

    博士
  • さぁ父さん、一筆書いて! 兄妹がもめるの、嫌でしょ。

    太郎
  • なんで贈与される前提になっているんだよ。そんなお金ないって。

    一郎
  • 2019年7月より、婚姻20年以上の夫婦の間で、自宅を贈与した場合、特別受益の持ち戻し免除の意思表示が推定されることになりました。

    博士
  • 持ち戻しの免除を明言していなくても、意思表示されたものと扱われるってこと?

    花子
  • その通りです。この改正には、残された配偶者の住居を確保しやすくし生活を守る狙いがあります。ただ、あくまでも「推定」なので、「持ち戻し免除はなかった」との主張は可能です。いずれにせよ特別受益を巡る争いは起きがちですので、困ったら早めに弁護士に相談しましょう。

    博士

特別受益の注意点

● 遺産分割協議の際に、贈与分を含めて計算する
● 弁護士のサポートが有効
●婚姻20年以上の夫婦間の自宅贈与は対象外

(今回のソーゾク博士=ゆら総合法律事務所代表弁護士・阿部由羅さん、構成=相続会議編集部)

(記事は朝日新聞土曜別刷り紙面「be」に掲載した内容を基に掲載しています。2022年7月1日時点での情報に基づきます)

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