贈与を受けた人にかかる贈与税の基礎控除は年間110万円

  • 会社の同僚が「親から毎年、贈与を受けている」と言っていたけれど、そんな仕組みあるのかな。

    長男・太郎
  • 亡くなった後に相続税がかかるなら、生きている間に子どもに財産を移しちゃえばいいじゃない。博士、その方がお得じゃない?

    母・正子
  • 生前に財産を与える生前贈与は相続税の軽減効果もあり、有効な相続対策の一つです。相続税がかかる人の場合、遺産を減らすことができるからです。また、生前贈与を受けた人にかかる贈与税には年間110万円の基礎控除があります。これを超えると贈与税を納める義務があります。これを「贈与税の暦年課税制度」といいます。

    ソーゾク博士
  • 同僚は「税金がかからない」と言っていたけれどなぁ。

    太郎
  • 贈与額が年110万円以内だからでしょう。年間110万円でも10年間続けば1100万円になります。生前贈与は早く始め、長く続けるほうがその分、効果的です。ただし、亡くなる前に暦年課税制度で年110万円以内の生前贈与をした場合でも、亡くなった後の相続財産に生前贈与額を加えて相続税を計算する場合もあります。

    博士
  • え-、どのような場合に相続財産に加えるの?

    母・正子
  • 生前贈与された財産を相続財産に戻すことを「持ち戻し」といいます。持ち戻しの対象期間は、昨年末までに行った贈与については、亡くなる前「3年間」でしたが、税制改正によって2024年以降の生前贈与から亡くなる前「7年間」に延長されました。相続発生時期で整理をすると2027年1月1日以降の相続から段階的に延びていき、2031年1月1日以降の相続から完全に7年になります。まだまだ元気で、持ち戻し期間の7年よりも十分時間があるという人は、時間をかけて次世代に資産を移すといいでしょう。

    ソーゾク博士

子や孫名義の口座を作って積み立てる「名義預金」に注意

  • 子ども名義の銀行口座に定期的に入金している知人がいるわ。

    正子
  • 親が一方的に子や孫の口座を作って積み立てていると、税務署から家族の名義を借りているだけの「名義預金」と見なされ、結局、親の財産として相続税の対象になることがあります。生前贈与には贈る側の「あげる」という意思に加え、受け取る側の「もらう」という意思も必要です。

    博士
  • もちろん、もらいますよ。

    太郎
  • 贈与を受ける口座は太郎さんが管理する口座であることが必要。また、最初から1千万円を贈与する予定で、税金がかからないよう毎年100万円ずつに分けて贈与した場合には定期贈与とみなされ、最初の年に計1千万円の贈与を受けたものとみなして課税される可能性があります。定期贈与とみなされないためには、毎年、贈与の意思決定をする必要があります。

    博士
  • 贈与を受けるなら、毎年、親子で話し合う必要がありますね。

    太郎
  • 贈与があったことを証明するため、親子でも贈与契約書を作るといいでしょう。朝日さん夫婦には長男の太郎さんのほかに、長女の花子さんもいますよね。太郎さんだけに贈与していた場合、相続の際、もめる原因になりますので、ほかの相続人についても気を配る必要があります。

    博士
  • あんまり張り切って贈与したら、私たちの老後の資金がなくなっちゃうかもしれない。

    正子
  • 生前贈与は、上手に活用すれば相続税の軽減効果を期待できますが、資金に余裕がある場合に検討すべきことです。生前贈与をしたために親世代の老後資金が足りなくなるようでは、かえって子どもに負担がかかります。老後の計画と同時に検討しましょう。

    博士

生前贈与の注意点

・非課税枠は年110万円
・「名義預金」にしない
・ほかの相続人にも配慮を
・老後の資金不足に注意

さて、今回の「わが家の相続会議」はいかがでしたでしょうか?

生前贈与は今すぐできる相続対策である一方、非課税枠や、相続人同士で不公平や誤解が生じないような配慮、老後の資金不足への注意など、さまざまなことを考えながら進める必要があります。

さらに、2024年1月1日から、暦年課税制度を使った生前贈与の持ち戻し対象期間が死亡前3年から7年に延びたり、もう一つの生前贈与の制度「相続時精算課税制度」にも年110万円の基礎控除枠が新たに加わったりと、相続に関連する課税ルールの大きな変更がありました。

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素人判断で進めると後々の金銭トラブルや税務署からの指摘にもつながりかねないので、生前贈与を活用した相続対策は税理士などの専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。

(今回のソーゾク博士=税理士法人山田&パートナーズ・税理士清三津裕三さん、構成=相続会議編集部)

(記事は朝日新聞土曜別刷り紙面「be」に掲載した内容を基に掲載しています。2024年1月1日時点での情報に基づきます)