多くの場合が丸ごと引き継ぐ「単純承認」

  • 相続人は亡くなった人の財産を必ず引き継がなければならない?

    父・一郎
  • 財産を引き継ぐかどうかには3つの選択肢があります。多くの場合とられるのは「単純承認」です。亡くなった人の財産も借金も丸ごと引き継ぐことです。この場合、借金がプラスの財産より多いと相続財産では賄いきれず、相続人が自分の財産から弁済しなくてはなりません。

    ソーゾク博士
  • 父さんに僕たちの知らない借金がいろいろ見つかった場合には、どんな選択肢があるの?

    長男・太郎
  • 「限定承認」があります。亡くなった人のプラスの財産の範囲内で債務も引き継ぎます。限定承認なら引き継ぐ債務を相続財産の範囲内に収めることができます。債務を返済して遺産が残れば、それを相続できます。

    ソーゾク博士
  • 借金がいくらあるか分からない場合などにはよさそうね。

    母・正子
  • ただ、裁判所に申し立てが必要で、その後の手続きも複雑。結論が出るまで期間がかかります。しかも相続人全員の同意が必要になります。税金面で不利な扱いをされることもあり、実際は限定承認を行うケースは非常に少ないようです。

    ソーゾク博士
  • うーん。3つめの選択肢は?

    一郎
  • 「相続放棄」です。プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎを一切放棄することです。借金の額が財産の額を上回る場合だけでなく、相続財産に価値や魅力を感じられない場合、事業承継で他の相続人だけに相続させたい場合などにも用いられます。こちらは相続人1人だけの意思で決めることができますよ。

    博士

手続きをしないと自動的に単純承認に

  • どんな手続きが必要なの?

    正子
  • 限定承認か相続放棄をしたい場合、被相続人が亡くなって相続することを知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。何も手続きをしなければ単純承認したものと自動的にみなされます。

    博士
  • 注意することはありますか。

    一郎
  • 相続放棄をすると原則撤回できません。借金があったとしても、一方で多額の財産がある場合も考えられます。安易に相続放棄をせず、財産調査をすることも場合によっては必要です。調査に時間がかかりそうなら、手続き期限を延長する制度もあります。また、相続財産の一部を勝手に使ったり隠したりすると、単純承認したものとされますので気をつけてください。

    博士

遺産相続の3つの方法

・財産を全て相続する単純承認
・借金はプラスの財産を限度に責任を負う限定承認
・財産を全て放棄する相続放棄

(今回のソーゾク博士=大澤龍司法律事務所弁護士・大澤龍司さん、構成=相続会議編集部)

(記事は朝日新聞土曜別刷り紙面「be」に掲載した内容を基に掲載しています。2021年12月1日時点での情報に基づきます)