預貯金の仮払制度とは? 口座は凍結されるが、一定額を引き出せる
人が亡くなると必要になる葬儀などの突然の出費。当座のお金が手元になくて困る事態も考えられます。こうしたケースに対応できるよう作られた「預貯金の仮払制度」があります。今回記事を監修してくれたソーゾク博士は川崎相続遺言法律事務所の弁護士・勝本広太さんです。
人が亡くなると必要になる葬儀などの突然の出費。当座のお金が手元になくて困る事態も考えられます。こうしたケースに対応できるよう作られた「預貯金の仮払制度」があります。今回記事を監修してくれたソーゾク博士は川崎相続遺言法律事務所の弁護士・勝本広太さんです。
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亡くなった人の銀行口座は「凍結」されてしまうと聞いたことがあるよ。父さんに何かあった場合、当面の費用を僕たちはどう捻出すればいいんだろうか。
一昨年に始まった「預貯金の仮払制度」はご存じですか。金融機関では人が亡くなったことがわかると、不正出金などを防ぐため、その人名義の預金口座は凍結され、出金や振り込みなどができなくなります。制度ができる前は遺産分割が終わるまで凍結を解除できず、相続人は預金を下ろせませんでした。この制度を使えば遺産分割が成立する前でも、一定の金額を亡くなった被相続人名義の預貯金から出金できます。
へぇ便利。どんな仕組みなの?
引き出せる金額の上限は、相続人によって違いますが、次の二つのうち低い方の金額です。(1)死亡時の預貯金残高×引き出す相続人の法定相続分×3分の1(2)150万円。出金可能な金額は金融機関ごとに適用されます。複数の金融機関に口座がある場合、額が増える可能性があります。
相続人が妻と子ども2人のわが家の場合、どれくらいの額が引き出し可能なのかな。
例えばある銀行に1500万円の預金があるとしましょう。この場合、妻の正子さんの法定相続分は2分の1、2人のお子さんたちの法定相続分は4分の1ずつになります。引き出せる金額は正子さんは、預金残高×法定相続分×3分の1なので1500万円×2分の1×3分の1=250万円。150万円よりも高いので、出金可能額は150万円です。お子さんの場合は、1500万円×4分の1×3分の1=125万円。150万円よりも低いので、出金可能額は125万円です。
なるほど。銀行に提出するのはどんな書類?
一郎さんの法定相続人全員が確認できる戸籍謄本か法定相続情報一覧図、仮払い希望者の身分証明書と印鑑証明書、申請書です。金融機関によって提出書類が異なる可能性もあるので事前に確認して下さい。
仮払制度があると分かればいざという時安心だね。
注意すべきことも。制度を利用すると相続放棄ができなくなるおそれがあります。「単純承認」が成立するからです。単純承認とはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も全て引き継ぐことです。相続財産を処分したり使ったりすると単純承認が成立し、相続放棄は認められなくなります。仮払制度を利用した場合、全額を一郎さんの葬儀費用に充てれば単純承認は成立しない可能性が高いでしょう。一方、太郎さんが生活費など自分のために使うと単純承認が成立してしまいます。
何と! 他に注意点は?
後に他の相続人とトラブルになることも。葬儀代に使った場合、領収証がないと他の相続人から「本当に葬儀代に使ったのか分からない」と疑われてしまうおそれがあります。制度を利用する際には、事前に他の相続人に伝え、必ず領収証を保管し、お金の使いみちを証明できるようにすべきです。預貯金の仮払制度は上手に使うととても便利な制度ですが、利用した後のことを考え慎重に対応することが必要です。
・金融機関では人が亡くなったことが分かると、その人名義の口座は凍結される
・仮払制度を使えば遺産分割の成立前でも一定の金額を引き出せる
・仮払制度を利用すると、相続放棄ができなくなる恐れも
(今回のソーゾク博士=川崎相続遺言法律事務所の弁護士・勝本広太さん、構成=相続会議編集部)
(記事は朝日新聞土曜別刷り「be」に掲載した内容を基に掲載しています。2021年10月1日時点での情報に基づきます)
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