目次

  1. 1. 相続放棄の期限は原則3カ月以内
  2. 2. 10年後でも相続放棄できるパターン
    1. 2-1. 死亡を知らなかった
    2. 2-2. 先順位者の相続放棄を知らなかった
    3. 2-3. 遺産がないと信じたことに正当事由がある
  3. 3. 死後13年経過後に相続放棄が認められたケースも
  4. 4. 死後3カ月が経過してから相続放棄する場合の注意点
    1. 4-1. 裁判所へ事情を伝える方法
    2. 4-2. 法定単純承認していたら相続放棄できない
  5. 5. 相続放棄を弁護士に依頼すべき理由
  6. 6. 弁護士費用
  7. 7. まとめ

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務を一切受け継がないことを家庭裁判所に申立し、最初から相続人ではなかった扱いにする制度です。

死亡した被相続人の財産よりも借金が多い場合、相続人が借金の支払いを免れるために利用する制度です。

民法の規定により、相続放棄は相続を知ったときから原則として3カ月以内にしなければなりません。

≪民法915条1項≫
「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三カ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」

もっとも、同条の但し書きにおいて、「ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる」とされており、財産調査に時間がかかる場合などは期間を延ばすことができると定められています。

相続放棄をしなかった場合、相続人は被相続人の一切の権利義務を承継する単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。

これは、相続人は通常、被相続人の権利義務を受け継ぐ意思があると考えられているためです。

例外的に、以下のような場合は、3カ月の期間が過ぎても単純承認したものとはみなされず、相続放棄をすることができます。

相続放棄は自己のために相続の開始があったことを「知った時から三カ月以内」と規定されています。

そのため、被相続人が亡くなったことを知らず、10年を経過した時に初めて知った場合でも、その知った時点から3カ月以内なら相続放棄が可能です。

民法上、配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の相続人には以下のような順位が定められています。
第1順位 子供や孫(直系卑属)
第2順位 父母や祖父母(直系尊属)
第3順位 兄弟姉妹

例えば、被相続人に妻と子ども1人と両親がいるケースでは、妻と子どもにそれぞれ2分の1ずつ法定相続分がありますが、子どもが相続放棄をすると、その時点で次の順位である両親が法定相続人になります。

先の順位の相続人が相続放棄をしたのに、放棄したことを後順位に知らせない場合、後順位の相続人は自分につき相続が開始したことをいつまでも知らないことになります。

そのため、仮に先順位の相続放棄をしたことを知ったのが、被相続人の死亡から10年経過していても、相続開始を知った時点から3カ月以内であれば、相続放棄をすることが可能です。

上記3カ月の期間に関しては、以下の最高裁の判例(昭和59年4月27日民集38.6.698)があります。

「熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知った場合であっても右各事実を知った時から三カ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、……熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」

この判例は、亡くなった人から生前、負債についての説明などがなく借金があることも相続人は知らなかったため、相続放棄などの手続きを取りようがなかったという事例です。

そのため、例えば、被相続人と別居しており、借金があることについても全く説明がなかったというような場合は上記3カ月の期間が過ぎていても相続放棄できる可能性が高いです。

当事務所扱った実際のケースでは、相続から約13年経過してからの相続放棄の申立てが認められた例があります。

これは被相続人が母で、その夫と息子(成人)が相続人となるケースでした。
死亡時点では被相続人の債務はなかったものの、その後、被相続人が保証人となっていた債務が不履行になったことから、その相続人に保証人債務の請求があったのです。

被相続人の死亡時、他の相続人は相続放棄をしていましたが、息子さんは知的障害があり、意思能力がなかったことから放棄もしていませんでした。

その一方で、父親はその息子の将来を考え、ある程度の預金などの財産を与えていました。

このようなケースでは、息子さんについて成年後見人の選任をして財産管理をしてもらうことが多いです。

ただ、今回のケースでは成年後見人を選任していませんでした。

そのため、まず、新たに成年後見人を選任の申立てをした上で、選任の審判が確定した日を「相続開始を知った日」として、3カ月以内の相続放棄をしています。

なお、このケースでは、上記相続人は、被相続人からは財産を取得していなかったため、後述する法定単純承認の問題はありませんでした。

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相続放棄をする場合、裁判所のホームページなどで相続放棄申述書のダウンロードができます。

このとき、別紙で「相続放棄の実情」などと題して、亡くなった方の借金を知らなかったことや、亡くなった後で請求が来て初めて借金がわかったなど、3カ月の期間で相続放棄できなかった事情や、その後相続放棄するに至った事情を記載し、添付して送りましょう。

被相続人の借金を知らなかった場合、借金があるとは思わず相続財産を処分していることもあると思われます。

その場合、通常は相続財産の全部又は一部を処分したとして、単純承認とみなされます(民法921条1号)。

ただし例外的に、葬儀費用など被相続人のための費用に使ったという場合は、単純承認したものとは扱われず、相続放棄できる場合があります。

【関連】相続放棄の前後にしてはいけないこと 遺品整理はダメ?葬式代は? 注意点を解説

相続放棄をするかどうか判断するには、まず、被相続人の財産調査が必要です。

相続放棄の依頼を弁護士が受けて調査して初めて、実は負債よりも資産の方が多くあることが判明し、相続放棄せずに済んだケースもあります。

そのため、借金が何千万もあるようなケースや、財産とは関係なく「相続に関わりたくないので相続放棄する」といったケースを除き、基本的にはしっかりとした財産調査を行うことをお勧めします。

相続放棄の弁護士費用は、1件5万円程度が相場とされています。
ただし、相続放棄をする前に財産調査などをしっかりと行う場合は一律10万円など、法律事務所によって扱いは異なります。
「財産調査をしっかりしてほしい」という場合は、調査を含めてある程度費用をかけることも大切です。

被相続人の相続について、自己が相続人であることを知らなかった、あるいは被相続人に借金があったものの、相続人はそのことを知らなかったという場合に3カ月の熟慮期間経過後の相続放棄が認められます。
その場合、相続から3カ月以内に相続放棄できなかった理由について、相続放棄の申述書に添付して裁判所に説明をすることが重要です。
また、相続放棄一般についていえば、相続放棄をする前に、きちんと亡くなった方の財産調査をすることをお勧めします。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています。)