目次

  1. 1. 相続放棄とは
  2. 2. 相続放棄の流れと期限
    1. 2-1. 家庭裁判所に申述書を提出
    2. 2-2. 相続放棄は3カ月以内に
    3. 2-3. 3カ月を過ぎてしまっても諦めないで
  3. 3. 相続放棄を決めたら滞納家賃はどう対応する?
    1. 3-1. 相続放棄しなければ、滞納家賃の支払い義務も相続することに
    2. 3-2. 未納分の家賃は支払ってもいい?
    3. 3-3. 部屋の遺品整理と退去を求められたら?
    4. 3-4. 故人の賃貸借契約の連帯保証人になっていた場合は?
  4. 4. 相続放棄の手続きを進める際の注意点
    1. 4-1. 公共料金や税金の未納があったらどうすべきか
    2. 4-2. 生命保険金を受け取ってもいいか
  5. 5. まとめ 相続放棄は弁護士に相談を

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相続放棄とは、読んで字のごとく「相続人である地位を放棄する」ということです。相続放棄をすれば、亡くなった方(被相続人といいます)に借金や未払いの家賃などがあっても返済する必要はなくなる一方で、被相続人の持っていた財産を相続することもできなくなります。

相続放棄の手続きとしては、相続人が、故人である被相続人の最後の住所地(亡くなった時の住所地)の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出します。このように、相続放棄の申述には、家庭裁判所に対してしなければならないので注意してください。

相続放棄をするためには、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内にする必要があります。これを「熟慮期間」といいます。この熟慮期間は、熟慮期間が経過する前であれば、家庭裁判所に申立てをして期間をさらに伸ばしてもらうことも可能です。ただ、熟慮期間が経過してしまえば原則として相続放棄ができなくなります。相続放棄をしたい場合には、熟慮期間を過ぎる前に確実に手続きをしておきましょう。

もっとも、この熟慮期間を過ぎたからといって、直ちに相続放棄の手続きができなくなるわけではありません。熟慮期間について、判例では相続開始の原因たる事実(被相続人の「死亡」と思ってください)を知っただけでは足りず、それによって自己が相続人になったことを覚知したときが、起算点となるとしています。

また、相続財産が全くないと信じ、かつ、信ずるにつき相当な理由がある場合は、相続財産の全部又は一部の存在を認識したときまたはこれを通常認識しうるべき時が起算点となるとしています。

やや難しいですが、要は熟慮期間を経過していても、「自分が相続人だと知らなかった」時や「遺産や借金などがないと思っていた」時には、相続放棄が認められることがあるということです。ですので、3カ月を過ぎたからと言って、相続放棄の手続きを諦めるべきではありません。

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まず、賃貸借契約は、借主の死亡によって契約が終了するわけではありません。そのため、相続放棄をしなければ、相続人は、被相続人が滞納していたアパートの賃借人の地位も引き継ぐので、被相続人の滞納家賃(賃料)の支払い義務も相続人は相続します。

この問題を考えるにあたっては、未納分の家賃を支払う行為が、「法定単純承認」に該当するかを考える必要があります。「法定単純承認」とは、相続が発生してから相続人が特定の行為をした場合には、もはや相続放棄をできなくなるという意味を持ちます。この「法定単純承認」には相続財産の一部の処分が含まれています。未払い賃料を支払う行為については、この「法定単純承認」にあたるのでしょうか。

この点については、私見ですが、未払いい賃料の支払いについては、被相続人の未払い家賃という債務を消滅させる行為に過ぎないので、「法定単純承認」には該当しないと考えます。そうだとすると、未納分の家賃を支払うことで、その後、放棄の手続きを取れなくなるわけではありません。

しかし、相続放棄をする以上は被相続人の未払い家賃をその子や親が返済する義務はありません。おそらく、未払い家賃を相続人が支払うような状況は、家主から相続人が責任を取ってほしいと求められているような場面だと思います。しかし、これは親の借金を子が返すようなものです。ですので、被相続人の未納分の家賃については支払わなくても問題はありません。

遺品の整理も、常識の範囲内であれば法定単純承認には当たらないと考えられるので行っても問題はありません。

ただし、金目の物を換金したり、自分のものとしたりするのは法定単純承認にあたる可能性があるので、やめた方が良いでしょう。ただ、相続放棄をする以上は遺品整理についても触れない方が無難という考え方もありますし、遺品整理をしないことで何らかの不利益が相続人に降りかかることもないので、「何もしない」ということでも構わないと思います。

他方で、賃貸借契約の解除や退去まで求められた場合には、これは法定単純承認にあたる可能性があるため、避けた方が無難です。ただ、先ほど述べたように、次順位の法定相続人に連絡をしなければ遺産の管理義務を免れないので、連絡をしたほうが良いでしょう。

なお、先ほど「相続放棄をするとしても、次順位の相続人が遺産を管理することができるようになるまで相続財産の管理を継続しなくてはならない」と述べましたが、これはあくまで次順位の相続人に対する義務です。部屋の中の遺品整理や明け渡しをしなかったことで家主に対して損害賠償責任を負う可能性は低いと思われます。

連帯保証人になっていた場合には、注意が必要です。

そもそも連帯保証人とは、「賃貸人」と「保証人」との間の保証契約に基づいて保証人となった者の中でも、連帯債務を負うことを特約で定めた者のことをいいます。「賃貸人」と「賃借人」との間の賃貸借契約とは別の契約なのです。ですから、故人の賃貸借契約の連帯保証人になっていた場合に賃料の支払いを求められたら、相続放棄の手続きをしたからといって、この義務を免れることはできません。この場合には未払い賃料を支払うほかないでしょう。

基本的には、公共料金や税金の未納があっても、これは被相続人の債務であり、相続放棄をすれば、その支払い義務は免れます。

ただし、例外的に相続人が配偶者である場合に、「公共料金」については支払うという選択肢もあり得ます。公共料金については「日常家事連帯債務」というものに該当し、夫または妻である被相続人が契約をしていたとしても、その相続人である配偶者も連帯して支払い義務を負う可能性があるからです。また、実際問題として家の電気や水道を止められてしまうと、生活に困ってしまいます。

日常家事連帯債務にあたる行為が何になるかは、個々の夫婦の社会的地位や職業資産収入等によっても異なりますが、上記のような理由で支払っておくというのも選択肢の一つです。

生命保険金については、判例によって相続人の固有財産と解されており(最判昭和40年2月2日)、相続放棄をしても保険金の請求権は失われないとされています(東京地判昭和60年10月25日)。したがって、相続放棄の手続きをした後でも、問題なく生命保険金を受け取ることが可能です。

遺産を相続した場合、被相続人が滞納していたアパートの賃借人の地位も引き継ぐので、相続人は滞納家賃を支払わなければなりません。相続放棄をすれば支払いから免れることができますが、注意点もありますので、わからないことがあれば弁護士に相談してみるとよいでしょう。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)

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