目次

  1. 1. 相続放棄の原則的な熟慮期間
  2. 2. 借金を知らなかったときに相続放棄が認められる要件
    1. 2-1. 相続開始後3ヶ月が経過していない
    2. 2-2. 相続開始を知ってから3ヶ月経過していない
    3. 2-3. 「遺産がない」と信じたことに相当な理由がある
    4. 2-4. 相当な理由がある場合とは
  3. 3. 相当な理由があるとして相続放棄が認められた裁判例
    1. 3-1. 仙台高裁平成7年4月26日決定
    2. 3-2. 東京高裁平成12年12月7日決定
  4. 4. 相続開始後3ヶ月を過ぎた場合に相続放棄する注意点
    1. 4-1. 受理されにくい
    2. 4-2. 単に「借金がない」と信じ込んだだけでは足りない
    3. 4-3. 借金を調査する方法
  5. 5. 弁護士に依頼するメリット
  6. 6. まとめ

相続放棄は、「自己のために相続があったことを知った時」、つまり、(1)被相続人が亡くなったこと、(2)自分自身が相続人であること、を知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません。この期間を「熟慮期間」といい、熟慮期間内に相続放棄をしなければ、財産を相続することを承認したものと扱われます。

「被相続人に借金があったが、相続人は借金があったことを一切知らなかった」という場合、どのようなケースであれば相続放棄をすることができるのかを見ていきましょう。

 相続放棄をするかどうかの期間、熟慮期間は3ヶ月です。そのため、被相続人が亡くなった時から3ヶ月が経過していなければ熟慮期間を経過していないので、相続放棄が可能です。

熟慮期間が始まるには、被相続人が亡くなったことを知っている必要があります。そのため例えば、被相続人が亡くなったのが1年前であっても、亡くなったことを知ったのが3ヶ月以内であれば、相続放棄をすることが可能です。

ただし、相続人に該当する近親者であれば、被相続人が亡くなったことをすぐに知ることが通常です。そのため被相続人が亡くなったことを知ったのが遅かった場合には「どうして遅かったのか、いつどのような方法で相続開始を知ったのか」について説明できる資料を裁判所へ示すとよいでしょう。

さらに、被相続人が亡くなったことや自分自身が相続人であることを知ってから3ヶ月経過した場合でも、①3ヶ月以内に相続放棄をしなかったのは「被相続人に遺産がない」と信じていたためで、かつ、②遺産がないと信じたことについても相当な理由がある場合には、遺産があることを知った時あるいは通常知るべき時から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができる、とされています(最高裁昭和59年4月27日判決)。

相当な理由があるかどうかは、被相続人がどのような生活を送っていたか、相続人との交流があったかどうか、などの事情を踏まえて判断されます。例えば、被相続人と相続人の関係が疎遠で、生前にまったく連絡を取っていなかったような場合であれば、遺産がないことを信じることもやむを得ないとして、相続放棄が認められやすいでしょう。

 「相当な理由があるとして、相続放棄が認められたケース」を過去の裁判例で解説します。

 被相続人が亡くなってから1年9ヶ月後に申し立てた相続放棄について、金融機関が起こした借金の返済を求める裁判の訴状を受け取った時に初めて借金の存在を知ったものとして、その日から3ヶ月以内に申し立てた相続放棄を受理することが相当と判断しました。

 兄に全財産を残す旨の遺言があったこともあり相続放棄をしていなかった相続人が、被相続人の死亡から1年8ヶ月後に金融機関からの催告書を受け取って初めて借金の存在を知り、相続放棄をしたケースです。遺言の内容などから、借金を相続することがないと信じるのに相当な理由があるとして、相続放棄を受理することが相当と判断しました。

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次に、相続開始後3ヶ月を過ぎて相続放棄をする際の注意点を説明します。

相続人に該当する近親者であれば、被相続人が亡くなったことをすぐに知るのが通常なので、相続開始後3ヶ月を過ぎた後に相続放棄をするのは例外的な形になります。そのため「被相続人が亡くなったことをいつ知ったのか」などの点について説明をしなければならず、3ヶ月以内に相続放棄をするときと比べて相続放棄が受理されにくいです。

単に「借金がない」と信じただけでは、必ずしも相続放棄が認められるとは限りません。借金がないと信じたことに「相当な理由」が必要なため、被相続人との交流がなかったことや、借金の話を聞くチャンスが一切なかったことなどを説得的に説明する必要があります。

銀行やクレジット会社、消費者金融などから借金をしている場合、個人の信用情報を管理する信用情報機関へ開示請求をして、借金がないかを確認することができます。信用情報機関には、株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、一般社団法人全国銀行協会(KSC)の3つがあります。それぞれ登録されている内容も違うため、すべての信用情報機関に開示請求をするとよいでしょう。

ただし、個人からの借り入れなど、これら信用情報機関に加盟していないところからの借金は、開示請求をしても明らかにはなりません。そのため、被相続人宛ての郵便物に借金の督促状などの書類が届いていないか、遺品の中に契約書などが入っていないか、といった点も確認しましょう。

被相続人が亡くなってから3ヶ月を経過した後に相続放棄をする場合、3ヶ月以内に相続放棄をしなかったことについての相当な理由があることを、裁判所へ説得的に説明する必要があります。そのため、専門的な知識や経験を持つ弁護士に依頼して、裁判所へ提出する事情説明書の作成など相続放棄の手続きを任せるとよいでしょう。

3ヶ月という熟慮期間が経過していたとしても、それだけで相続放棄を諦める必要はなく、すぐに動き出すことで相続放棄をできるケースもあります。被相続人に知らなかった借金が発覚したというような場合には、早めに弁護士に相談して、相続放棄を検討することをお勧めします。

(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています。)