目次

  1. 1. 相続放棄の熟慮期間とは
    1. 1-1. 相続の開始から3カ月以内に相続方法を選択
    2. 1-2. 熟慮期間は伸長(延長)の可能性も
  2. 2. 熟慮期間経過後に相続放棄を受け付けてもらう条件
  3. 3. 相続放棄の「上申書」とは
    1. 3-1. 熟慮期間後に相続放棄を認められる事情を説明した書面
    2. 3-2. 上申書の書き方
    3. 3-3. 上申書作成の注意点
    4. 3-4. 上申書の文例
  4. 4. 熟慮期間後の相続放棄を弁護士に相談するメリット
  5. 5. まとめ

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に相続放棄をしなければなりません。この期間を「熟慮期間」と言い、相続人は単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択する必要があります。

熟慮期間を過ぎると、相続放棄は受理されず、債務も含めたすべての財産を相続する「単純承認」をしたものとみなされます(民法921条2号)。

「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、基本的には、被相続人が亡くなったことを知った時のことです。そのため、被相続人が亡くなったことを知らなかったのであれば、被相続人が亡くなってから3カ月が経過していても相続放棄を家庭裁判所に受け付けてもらうことは可能です。

3カ月以内に相続財産を調査し、すべての財産を相続するか、相続放棄するかの判断ができないケースもあるでしょう。そのような場合、家庭裁判所に申立てることで、熟慮期間を伸ばしてもらえる可能性があります。延長期間について規定はなく、一般的には1~3カ月ほどですが、延長を要する事情に応じて延長期間は変わります。

なお、期間伸長の申立ては、当初の熟慮期間のうちに行う必要がありますので注意してください。また、相続人の一人が伸長しても、ほかの相続人の熟慮期間には影響はありません。

被相続人が亡くなったことを知った時から3カ月が経過してから督促状が届くなどして初めて被相続人の借金を知るケースは少なくありません。この場合、3カ月という期間が経過している以上、原則として相続放棄はできません。

ただし、判例(最判昭和59年4月27日)では、相続放棄をしなかったのが「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認めるときは…熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべき」と判示しています。

つまり、例外的に相続放棄ができる余地はあります。

その要件とは、上記の判例の内容をまとめると、次のようになります。

① 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたこと
② 相続財産の有無の調査をすることが著しく困難な事情があって、①のように信ずるについて相当な理由があること

この要件を満たす場合でも、借金などの存在を認識した時から3カ月以内には相続放棄をする必要があります。

ちなみに、①については、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限られるのか(限定説)、一部の相続財産の存在は知っていたが、通常その存在を知っていれば当然相続を放棄したであろう債務が存在しないと信じた場合も含まれるか(非限定説)は、裁判所によって判断が分かれています。そのため、一部の相続財産の存在を知っていたからといって、必ずしも相続放棄を諦める必要はありません。

「上申書」とは、相続放棄を認めてもらうための具体的な事情を記載した書面です。名前が決まっているわけではなく「事情説明書」と呼ばれることもあります。

3カ月の期限内に相続放棄をするのであれば、裁判所のホームページで公開されているフォーマットに従って相続放棄申述書を作成して提出すればよいので、上申書を添付する必要はありません。

しかし、3カ月の期間経過後に相続放棄をするのであれば、上記の①や②に関する事情を記載した上申書を添付して、例外的に相続放棄が認められる理由をきちんと説明しなければいけません。他にも、被相続人が亡くなったことを知ったのが相当遅い場合には、遅くなった理由(被相続人と疎遠だったなど)を上申書で説明しておくとよいでしょう。

上申書では、上記の判例(最判昭和59年4月27日)に従い、被相続人に相続財産が全くないと信じた理由や相続財産の有無の調査が困難だった理由を、個別的事情に基づいて、説得的に記載しましょう。

被相続人に相続財産が全くないと信じた理由の例としては、「被相続人が生活保護を受けていたため」や「相続財産の調査をしたが見つからなかったため」などが考えられます。また、相続財産の有無の調査が困難だった理由としては、「被相続人が行方不明であったため」「被相続人と相続人が疎遠であったことから被相続人の生活状況が不明であったため」などが考えられます。

分量はA4サイズ1枚程度で構いません。

上申書での事情説明が不十分であったために相続放棄の申述が受理されなかったとしても、改めて出し直すことは認められません。家庭裁判所に相続放棄の申述を受理してもらえるように、しっかりと考えて上申書を作成・提出するようにしてください。万が一、相続放棄の申述が不受理となった場合には、高等裁判所に対する即時抗告という形で不服申立てをすることは可能です。

疎遠の父親が亡くなってから約1年後に貸金業者から借金の請求があったため、これをきっかけに相続放棄をする場合の文例を以下に示します。

【文例】
私は、被相続人である父の子です。父と母が離婚して以来、私は母と一緒に暮らしており、父とは、40年程、一切連絡をとっていませんでした。 父が亡くなったことは父の親族から聞き、念の為、父が住んでいた賃貸アパートを訪れて財産がないかを調べました。ただ、残高が数百円の預金通帳があったのみで、その他に請求書等も見当たらず債務もないと判断したため、相続放棄をしませんでした。

ところが、今月10日に、貸金業者から相続人である私に借金の返済を求める書面が届きました。私は、父と一切連絡をとっておらず、父の生活状況は一切不明でしたので、借金があるとは思いもよりませんでした。また、私は、上記のとおり、父の自宅を訪れて相続財産の有無を調査しましたが、それでも、上記の借金の存在は明らかになりませんでした。

以上のとおり、私は、父の相続財産が全く存在しないと信じたために相続放棄をしなかったのであり、また、父と疎遠であった私には上記以外の財産調査をすることは困難で、そのように信ずるについて相当な理由もあります。そのため、父が亡くなったことを知ってから3カ月以上経っているものの、相続放棄の申述を受理していただきたく、上申いたします。

【関連記事】相続放棄の期間制限3カ月を知らなかった 期限後に認めてもらう方法

弁護士であれば、法律や判例に基づいて、相続放棄の申述を受理してもらうための例外的な事情を説得的に説明できるので、相続放棄を受理してもらえる可能性が高くなります。

相続人自身が上申書を作成するのは手間や時間がかかりますが、弁護士に依頼すれば、手間もかからずスピーディーな対応が可能です。3カ月の期限内であればともかく、期限を過ぎている場合には、ご自身で対応すると不受理となってしまうリスクも高まるので、弁護士に相談してから手続きを進めるべきです。

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被相続人の死亡を知ってから3カ月が経過しているケースで相続放棄をするのであれば、説得的な上申書(事情説明書)を添付することが必要です。相続放棄の申述を家庭裁判所に受理してもらうためには、ご自身で対応するよりも専門家に依頼する方が確実です。相続放棄を思い立ったら早めに弁護士に相談することをおすすめします。

(記事は2022年11月1日時点の情報に基づいています)

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