目次

  1. 1. 特別受益とは
  2. 2. 特別受益に時効はない
  3. 3. 遺留分の計算には、10年以上前の生前贈与は含めなくていい
  4. 4. 特別受益の持ち戻し計算の例
  5. 5. 特別受益者の範囲
  6. 6. 何が特別受益にあたるか
    1. 6-1. 開業資金や住宅購入資金の生前贈与は特別受益になることが多い
    2. 6-2. 多額の生命保険金や死亡退職金が特別受益となることも
  7. 7. 特別受益の持ち戻しをしないケース
    1. 7-1. 「持ち戻し免除の意思表示」があった場合
    2. 7-2. 長年連れ添った配偶者に自宅を贈与した場合
  8. 8. まとめ 主張をぶつける前に弁護士等に相談を

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相続人の中に、被相続人から生前贈与を受けたり、遺言にしたがって相続財産を贈与するという遺贈を受けたりした者がいる場合、その利益を「特別受益」といいます。

特別受益を受けた相続人が他の相続人と同じ相続分を相続すると、その間には実質的な不公平があります。そこで、その特別受益を相続財産に加算して、あらためて各相続人の具体的相続分の算定をすることで、不公平を解消します。

このように、相続財産に特別受益を戻して加算することを、「特別受益の持ち戻し」といいます。

特別受益に時効という概念はありません。それがどれだけ古い贈与であっても特別受益として持ち戻しがなされます。したがって、遺産分割協議をする場合には、かなり古い贈与であっても、その額を持ち戻して、計算上の相続財産を算出して、それを基礎に各相続人の具体的相続分の計算をすることになります。もっとも、古い贈与は証明するのが困難な場合もあるでしょう。

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他方、民法に規定されている最低限の遺産取得分である遺留分の計算の際には、原則として相続開始前10年の間になされた生前贈与しか持ち戻しの対象になりません。

このように、10年以上前の古い贈与は、遺留分侵害額請求をするときの基礎財産に加算できません。つまり、遺産分割協議をする場合には特別受益に時効はありませんが、遺留分の計算には10年間の期限がありますので、10年以上前の贈与についてはその扱いを区別して考える必要があります。

遺言者の資産状況は長期間のうちに変動することがあります。古い贈与のときには遺留分を侵害していなかったものが、相続発生時には侵害してしまった、という事態が発生することは、遺言者も贈与を受けた相続人も想定し得ない不測の事態となる可能性があるのです。このような事態に対応するため、2019年の民法改正により、新たに10年間という期間制限が規定されました。

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特別受益を持ち戻したときの遺産分割の計算方法を、具体例で見てみましょう。

特別受益を持ち戻して相続財産を計算する例
特別受益を持ち戻して相続財産を計算する例

被相続人Xは、6000万円の相続財産を遺した。
相続人は、長男A、次男B、長女Cである。
長男AはXの生前、レストランの開業資金として、1000万円の贈与を受けている。
次男BはXの生前、住宅購入資金として、2000万円の贈与を受けている。

【特別受益を持ち戻した計算上の相続財産】
6000万円+1000万円+2000万円=9000万円

相続財産6000万円に特別受益の1000万円と2000万円を持ち戻します。

【相続人の具体的相続分】
Aの相続分 9000万円÷3-1000万円=2000万円
Bの相続分 9000万円÷3-2000万円=1000万円
Cの相続分 9000万円÷3 =3000万円

計算上の相続財産9000万円として、法定相続分で分割します。各自の法定相続分から特別受益を得ていた人(AとB)は、その分を先にもらっていたわけですから、特別受益分を差し引きます。特別受益をもらっていない相続人(C)は計算額どおりに分配を受けます。

特別受益を受けた人(特別受益者)として持ち戻しをする必要がある人は、原則として相続人です。

被相続人がその子どもに特別受益にあたる生前贈与をし、その子どもが被相続人の亡くなる前に亡くなり、その子どもの子ども(被相続人の孫)が相続人になった場合(「代襲相続人」といいます)、孫は生前贈与を受けた子と実質上同一の立場にあるといえ、この孫も持ち戻しの義務を引き継ぐと考えます。

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遺贈の対象が相続人であれば特別受益にあたります。一方、生前贈与については、相続人への贈与であっても、すべてが特別受益にあたるわけではなく、何が特別受益にあたるかは難しい問題です。民法では、結婚のための持参金や支度金といった「婚姻費用」などの他に、「生計の資本」として贈与がされれば、特別受益にあたるとされます。

「生計の資本」であるかどうかは、贈与の金額や贈与の趣旨などから総合判断されます。ある程度まとまった金額の贈与なら、「生計の資本」として認められることが多いと思われます。例えば、開業資金や住宅購入資金などはある程度まとまった金額になることが多く、特別受益にあたる可能性が高いでしょう。

他方、学費は、被相続人の資力や他の相続人との比較等によって判断されます。被相続人の扶養義務の範囲内であり、「生計の資本」としての特別受益ではないとされるケースもあります。

相続人が受取人になっている生命保険金はその相続人自身の財産とされ、原則として相続財産とはなりません。したがって、その保険金額を相続財産に持ち戻す必要はありません。しかし、その保険金額が、相続財産に対してかなり大きな割合を占めて、他の相続人に対して著しく不公平になる場合、相続財産に持ち戻すことを認めた裁判例があります。

遺族に支払われる死亡退職金は、賃金の後払い的性格と遺族の生活保障的性格の二つの性格があります。前者なら相続財産に持ち戻し、後者なら相続財産にならないので持ち戻さない、となります。死亡退職金の支給規程があって、その受給権者やその順位が民法の相続人規定と異なる場合などには、遺族の生活保障的性格が強調されて、特別受益にはならないケースが多いと思われます。

【関連記事】多額の生命保険金は「特別受益」になることも? 相続時の注意点を解説

遺言者が遺言などで持ち戻しの免除の意思表示をした場合には、原則として贈与や遺贈を受けた人が持ち戻す必要はありません。ただし、遺留分を侵害することはできず、遺留分を算定するにあたっては、その特別受益を相続財産に持ち戻して算定する必要があります。つまり、持ち戻しを免除された特別受益があったとしても、他の相続人の遺留分が減ることはなく、遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。

また、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、自宅などの居住用不動産を贈与又は遺贈した場合は、持ち戻しの免除の意思表示がなされたと推定されます。これにより、贈与を受けた人は、原則として、遺産分割において持ち戻す必要ありません。相続時における配偶者保護の強化の一環として、2019年の民法改正により新設されました。

過去に自分以外の相続人に被相続人から贈与があったとしても、それが、特別受益にあたるのかは、総合的な判断を要することもあり難しいところです。誰に対する贈与を特別受益とすべきかについても、判断を要する場合があります。

また、10年以上前の贈与の扱いについては、各相続人の具体的な相続分を計算する際には考慮する贈与に関する期間制限はありませんが、遺留分計算の際には10年間の期間制限があります。なお、この期間制限を受けるのは、2019年7月以降に発生した相続で、それ以前に発生した相続には期間制限は適用されません。

ただ何となく「○○○はずるい」という思いだけを根拠に主張すると、相続人間に要らぬ争いを引き起こすことになるかもしれません。主張をぶつける前に弁護士等に相談したほうがいいでしょう。

(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)

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