長女を実家の養子にし、戸籍の上では「姉妹」となった

相談者は80代の女性Aさん。Aさんは2年前に夫を亡くしました。長女(61歳)、長男(57歳)、次女(55歳)と3人の子どもがいますが、いずれも独立しており、Aさんは現在、年金を頼りに一人暮らしをしています。相談内容は次の通りです。

私は、昭和11年に薬局を営む家に一人っ子として生まれました。跡継ぎなので、薬学部を卒業し薬剤師の資格を取り、実家を手伝っていました。亡き夫は酒屋を営む4人きょうだいの長男。私の両親は婿養子を望みましたが、夫の家も「いくら4人の子どもがいるとはいえ、長男は婿にやれん」ということで、私たちの第一子を私の実家の養子にするという合意で結婚しました。第一子として生まれた娘は、私の実家の養女になりました。つまり私と長女は戸籍の上では「姉妹」となったのです。

その後、夫は実家の酒屋を継ぎ、私は自分の実家である薬局を手伝っていました。15年前に酒屋が老朽化したともあり、300坪の土地に1階が店舗、最上階が住居として使える5階建ての貸しビルに建て替えをすることになりました。

ところが、ビルが完成する前に義父が亡くなってしまいました。遺言はありませんでしたが、常々口にしていた「本家は分けるな!」という言葉に従い、建設中のビルと土地は長男である私の夫の所有とし、次男、三男、四男はそれぞれ親からの資金で一戸建てを建ててもらうことで3人のきょうだいたちは相続を放棄しました。昔のことなので文書を交わしたわけではなく、口約束です。私たち家族は、義父から相続したビルで暮らしました。その後、3人の子どもたちは結婚し、私と夫だけがそこで住むようになりました。

相続で5億円を手にした長女に次女が「ずるい」と不満

私の実家の薬局も1階が店舗、5階が住居の5階建ての事務所用の貸しビルでした。

15年くらい前から景気が悪くなり、貸しビルに空き家が出始めたので、両親は建て替えを検討していました。ところが、建て替えの途中で、父と母が相次いで病気で亡くなってしまったのです。急なことだったので遺言はありません。父は建て替えたビルとそのビルが建つ150坪の土地のほかにも、80坪の土地とワンルームマンションを持っていました。150坪の土地を売却したところ、相続する金額は10億円になりました。ここで私と戸籍上の妹である長女と2人で現金5億円ずつ相続。私はさらに80坪の土地とビルを相続し、両親が経営していた薬局の経営を引き継ぎました。

急に大金を手にした長女は、相続したお金で一等地に土地を購入し一軒家を建て、外車やブランド物を購入し、生活が目に見えて派手になっていきました。

そんな長女に対して、次女はしきりに「お姉ちゃんだけずるい!」と不満を訴えてくるようになりました。私もふびんに思い、次女に8000万円の高級マンションを買って与えました。私自身も少し金銭感覚がおかしくなっていたと思っています。毎日のように実家に顔を出す次女に惜しみなく小遣いも与えました。

そこで、相談です。今後、夫や私が亡くなった場合、「姉妹」関係にある長女は、私の相続人とはならないのでしょうか。娘は財産があるので、相続人でなくても問題はないと思います。ただ、その場合、相続人になる次女と長男への遺産の分け方に不安があります。次女にはマンションを買い与えていますので、特別受益を考えると半分に分けることは公平ではなくなります。その場合、公平な遺産相続のためにも、遺言を遺した方がいいでしょうか?

佐々木弁護士のアドバイス

なかなか事情が複雑ですが、このようなケースは決して珍しくありません。

結論から申し上げると、長女はAさんの相続人としてAさんの遺産を相続することができます。Aさんは、長女とそのほかのきょうだいの不公平を少しでも解消したいのであれば、遺言を書くべきです。

相続人の資格は、養子に縁組と実親子関係によるものが併存

Aさんの長女のように、実家を継いでもらうために祖父母と養子縁組をする人のほかにも、節税目的などで養子縁組をするという人は一定の数います。

まず、ここで多いのが、養子縁組をすると実親子関係も解消してしまうという勘違いです。
実は、普通の養子縁組では実親子関係はなくなりません。養親子の間でも法的な親子だし、実親子の間でも法的な親子のままです。
これに対して特別養子縁組という制度があり、実親子関係を解消してしまう強力な制度がありますが、要件もかなり厳しく気軽に使える制度ではありません。

今回のAさんのお話からすると、長女はAさんの父母と普通養子縁組をしたようです。ですから、長女はAさんとの関係では実親子として相続人の地位を有するし、Aさんの父母との関係では養親子として相続人の地位を有します。長女は、Aさんの父母の遺産を養子として相続をしたのちに、今度はAさんがなくなれば実子としてAさんの遺産を相続することができます。

長女の相続分を減らす必要があるのか

みなさんは、おそらく「長女はAさんの父母の遺産と、Aさんの遺産の2回も相続してずるい」と感じられるのではないでしょうか。では、ここで長女がAさんの父母から遺産を相続したことが、Aさんの相続の際に特別受益にあたらないか、という問題を考えてみたいと思います。

「特別受益」とは、相続開始前に被相続人から現金などの贈与を受けている相続人は、その贈与された分は遺産の先取りと考えて、贈与を受けた相続人の相続の取り分を減らしましょうというものです。

この問題については、直接的な判例は見当たらないのですが、Aさんの父母の相続の際には、Aさんの父母と長女の養親子関係による相続になります。他方でAさんの相続はAと長女の実親子関係に基づいた相続になります。

私としてはこれら二つの相続は、関係のない異なる親子関係に基づいて相続をしたものですから、Aさんの父母の遺産相続が、Aさん自身の遺産の前渡しと評価できるような関係ではありません。
したがって、結論としてはAさんの父母の相続は、Aさんの遺産相続の際に、長女の特別受益にあたらないと考えます。

少しでも公平に分けるためには遺言の準備を

Aさんとしては、いくら長女がAさんの実家の跡取り的な地位を期待されていたとしても、あまりに多くの遺産を長女が相続してしまうのはよくないとお考えのようですね。

もしそうであれば、きっちりと遺言を書く必要があるでしょう。
遺言というのは、それがあれば死亡と同時に遺言の内容通りに遺産が分割されたことになるという、非常に強力な効力を持っています。ですから、長女がすでにもらいすぎだと考えるのであれば、Aさん自身の相続の際には、長女には少なめに、次女と長男には多めに相続させる旨の遺言を書いておくとよいでしょう。

なお、そんな強力な遺言といえども、「遺留分」を侵害した場合には、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。長女が請求しない場合には問題にはなりません。遺言によって長女とほかの相続人の相続分に差をつける場合でも、この遺留分を侵害しない内容にしたほうが無難です。

遺留分侵害?特別受益? 次女への8000万円の贈与はどう扱うか

次に次女に買い与えた8000万円の高級マンションについて考えます。この贈与は、まさに遺産の前渡しと評価される可能性が高いもので、「特別受益」に該当する可能性が高いでしょう。
特定の相続人に「特別受益」がある場合には、その相続人は特別受益の金額を遺産に持戻して具体的な相続分の計算や、遺留分の計算をしなければなりません。なお、勘違いされる方も多いのですが、この「持戻し」とは、本当に8000万円もってこなければならないのではなく、各種の金額を算出する際に計算上持ち戻すだけで構いません。

こうした事態を避けたければ、Aさんとしては遺言で次女への特別受益の持ち戻しをさせないでほしいという「持戻し免除の意思表示」をしておけば、次女には他の相続人に持戻し計算を迫られることがなくなります。
逆に、次女に8000万円の生前贈与をしたことをも考慮して、きょうだい3人で公平な遺産分割を実現することを望むのであれば、遺言の付言事項に、マンションの購入資金として、生前に8000万円を次女に渡していることが明確にわかるように書いておくべきです。

なぜなら、特別受益というのは、争いになった場合には立証のハードルが高いことがあるからです。そして、生前贈与も考慮したうえで、Aさんができる限り公平だと思う遺言内容にしておくことをお勧めします。

(個人情報に配慮し、内容の一部を脚色しています。記事は2020年7月1日現在の情報に基づいています)