目次

  1. 1. モデルケースの紹介
  2. 2. 遺留分とは何か。誰が誰に対して請求できるの?
    1. 2-1. 遺言書優先の原則
    2. 2-2. 遺留分による修正
    3. 2-3. 遺留分を行使できる者、請求方法
    4. 2-4. 遺留分の計算方法
  3. 3. 遺留分において紛争となるポイント
  4. 4. まとめ 遺留分でもめないためのポイント

「相続会議」の弁護士検索サービス

※本記事は、2019年(令和元年)7月1日施行の改正民法が適用される相続を前提としています。

まずはモデルケースとして以下の事例を設定し、考えてみましょう。

<事例>
父・母・兄・弟という家庭で父が亡くなりました。父は遺産のすべてを兄に相続させる遺言書を残しています。母は生前に居住用不動産の贈与を受けており、生命保険金の受取人は兄に指定されています。この場合、弟は何も受け取ることはできないのでしょうか?

遺言書が存在する場合、原則として遺言書に従って遺産分割が実施されることになります。当然ながら、遺言書が有効に成立したものであることが前提です。例えば、判断能力がない状態で作成された遺言書や、法律上定められた要式を満たしていない遺言書は無効となり、遺言書はなかったものとして遺産分割が実施されることになります。

遺留分とは、被相続人が所有していた相続財産について、その一定割合を一定の法定相続人に保障する制度です。遺言書によって、相続人Aが全ての財産を相続できることになっていても、これが相続人Bの遺留分にあたる場合、Aが取得することはできないというものです。

2019年(令和元年)7月1日に施行された改正民法によって「遺留分を侵害された者は、法律に定められた順番で、遺産の取得者に侵害額相当の金銭を請求できる」と変わりました。

遺留分を行使できるのは、配偶者、子、直系尊属(父、母、祖父母)です。兄弟姉妹は遺留分を請求することはできません。

遺留分の侵害を受けた者は、対象となる贈与等を受けた者に対し、侵害された金額を請求できます。裁判所などの訴えを必要とするものではなく、裁判外で意思を伝えるだけで構いません。

ただし、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与等があったことを知ったときから、1年以内に請求しなければならないので、請求した日付を記録できるよう、内容証明郵便等の方法で行いましょう。

話し合いで解決しない場合は、遺留分の侵害額の支払いを求めて家庭裁判所に調停を申し立て、それでも折り合いがつかなければ、地方裁判所に訴訟を提起するという流れになります。

遺留分は、次の手順で算定します。

(1)亡くなった人の相続財産に、1年間の生前贈与や相続人に対する10年間の間の贈与を加算する
(2)1の結果から相続債務を控除する
(3)2の結果に民法1028条所定の遺留分割合を掛ける(1/2または1/3)
(4)3の結果に法定相続分を掛ける

上記を算定式にすると次のようになります。

「(被相続人が相続開始時に有していた財産の価額)+(一定の生前贈与の価額)-相続債務」×(遺留分割合)×(法定相続分の割合)

遺留分が問題となるケースでよく争いになるのは、「遺留分算定の基礎となる財産の範囲」です。モデルケースを例にとると、兄を受取人とする生命保険金は、遺留分算定の基礎となる財産に含まれるか否かが問題となります。

これについては最高裁判所の判例があり、生命保険金が兄に対する特別受益(被相続人から相続人が生前に贈与を受けているなど、被相続人から特別な利益を受けていること)に該当するかどうかによって判断され、原則としては特別受益として認めないこととなっています。そのためモデルケースの場合「兄を受取人とする生命保険金は、遺留分の基礎となる財産に含めない」こととなります。

仮に特別受益と判断され、2019年(令和元年)7月1日施行の改正民法が適用される場合は、相続開始前10年間の特別受益のみが遺留分算定の基礎に含まれることになります。

では、モデルケースで母に対してなされた不動産の贈与は遺留分の基礎となる財産に含まれるのでしょうか?

2019年(令和元年)7月1日施行の改正民法により、婚姻期間が20年以上であり、居住用の建物及び、その敷地の贈与であれば特別受益を考慮しない意思表示(持戻し免除の意思表示)があったものと推定するという規定が新設されました。

しかし、最高裁判所の判例により、特別受益となる贈与については、特別受益の金額を相続財産の価額に加えないとする持戻し免除の意思表示があったとしても、遺留分の基礎となる財産に含めることが確定しています。

つまり結論は、「母に対する居住用不動産の贈与も、遺留分の基礎となる財産に含める」となります。持戻し免除の意思表示の推定は、遺留分には影響しないことを留意しましょう。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る弁護士を探す

遺言書を作った場合でも、遺留分制度がある以上、相続人の間で起こる紛争を完全に防ぐことはできません。紛争を予防するためには、遺留分制度があることを踏まえて、専門家に相談した上で、各相続人の遺留分額を計算しましょう。遺留分額を侵害しないような遺産分配を考慮して遺言書を作成する必要があります。

(記事は2020年6月1日現在の情報に基づきます)

「相続会議」の弁護士検索サービス