目次

  1. 1. 遺言書の種類
    1. 1-1. 自筆証書遺言のメリットとデメリット
    2. 1-2. 公正証書遺言のメリットとデメリット
  2. 2. 法務局での遺言書保管制度とは
  3. 3. 遺言書保管制度のメリット
    1. 3-1. 遺言の形式ルールのチェックを受けられる
    2. 3-2. 法務局の保管によって偽造や書き換えを防ぐ
    3. 3-3. 死亡時に遺言の存在が通知される
    4. 3-4. 検認の必要なし
  4. 4. 遺言書保管制度のデメリット
    1. 4-1. 内容については確認してもらえない
    2. 4-2. 本人が法務局に行く必要がある
    3. 4-3. 遺言書の様式が決まっている
  5. 5. 遺言書保管制度利用の流れ
    1. 5-1. 遺言書の作成
    2. 5-2. 法務局を選び申請予約
    3. 5-3. 申請書の準備
    4. 5-4. 法務局で遺言者本人が申請手続き
    5. 5-5. 遺言書保管制度の費用
  6. 6. 相続人が遺言書の内容を確認する方法
  7. 7. まとめ

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遺言書には大きく分けて、遺言者が自ら書く「自筆証書遺言」と公証役場が作成する「公正証書遺言」があります。このほかに、利用者は少ないですが、内容は秘密にして存在だけを公証役場で証明してもらう「秘密証書遺言」もあります。

自筆証書遺言は、遺言者が遺言書本文を自分で書いて作成する遺言書のことです。以下のようなメリットやデメリットがあります。

【メリット】

  • 手軽に作成できて、書き直しも容易にできる
  • 費用がかからない
  • 遺言の内容を自分以外に秘密にすることができる

【デメリット】

  • 形式が要件を満たしていないと、遺言が無効になるリスクがある
  • 紛失したり、遺言者の死後に忘れ去られたりするリスクがある
  • 遺言書が勝手に書き換えられたり、隠されたりするリスクがある
  • 相続人が勝手に開封してはならず、「検認」を受けなければならない

検認とは、相続人に対し遺言の存在を知らせるとともに、遺言書の形状や内容などを明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言書の保管者や発見した相続人が遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を請求する必要があります。ただし、法務局の遺言書保管制度を利用すれば受ける必要はありません(詳細は後述)。

公正証書遺言は、公証役場で公証人と証人2名の立ち合いのもとで作成します。メリットやデメリットは以下のようになります。

【メリット】

  • 公証人が作成するので、形式不備により無効になる可能性が低い
  • 公証役場が保管するので偽造や書き換え、紛失の可能性がない
  • 家庭裁判所での検認が不要

【デメリット】

  • 証人2人が必要
  • 公証役場への手数料がかかる
  • 公証人と遺言案を打ち合わせしたり、戸籍を集めたり、財産を裏付ける資料を取り寄せるなどの準備に手間がかかる

【関連】遺言書の種類と選び方 自筆証書遺言と公正証書遺言の違いとは? 弁護士が解説

自筆証書遺言については、法務局での保管制度(以下では「遺言書保管制度」といいます)が2020年7月10日から始まりました。自筆証書遺言を法務局に預け、画像データ化して保管する制度です。遺言書保管制度を利用することで、上記の自筆証書遺言のデメリットを軽減したり解消したりすることができ、自筆証書遺言を用いて円滑に相続手続きを進めるうえで便利な役割も果たしてくれます。

遺言書保管制度のメリットは、これまでの自筆証書遺言のデメリットをカバーする点ですが、具体的には以下の点が挙げられます。

遺言書の保管を法務局に申請する際、法務局の窓口において、法務局の職員から遺言の外形的な確認を受けます。この確認のなかで、遺言の形式ルールが守られているかチェックを受けることができます。

仮に形式ルール違反があった場合、窓口で間違いを指摘してもらうことができますから、遺言を訂正したうえで保管することができます。前述のとおり形式ルールに違反すると遺言が無効になってしまう可能性があるため、この点を確認してもらえることにより安心して自筆証書遺言を作ることができます。

遺言を法務局に保管してもらうことで遺言の偽造や書き換えは困難になり、自筆証書遺言の弱点のカバーになります。

法務局が遺言者の死亡を確認した場合、遺言書が法務局で保管されていることを申請時に指定した相続人等に通知します(「死亡時の通知」と言われています)。その通知により、遺言の存在を明らかにすることができますから、せっかく作った遺言が相続人に発見してもらえないというデメリットについても、遺言書保管制度を利用することで解消することができます。

手続き面のメリットとして、遺言書保管制度を利用している自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認手続きを受ける必要がありません。

【関連】遺言書保管制度とは? 法務局に預け、死後に閲覧可能に

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自筆証書遺言を使い勝手の良いものにしようとしてつくられた遺言書保管制度ですが、できないことや限界もあります。

法務局の窓口では、遺言の形式ルールについてはチェックしてもらえますが、遺言の内容に関するアドバイスや法的事項に関する相談は一切応じてもらえません。遺言内容に関する相談は、事前に専門家に依頼をする必要があります。

法務局での申請手続きは、必ず遺言者本人が手続きする必要があります。体調が悪く自ら法務局まで移動することが難しかったとしても、自分の代わりに子どもや専門家に手続きをお願いすることはできません。

保管制度を利用する場合は、用紙などについて決められた様式で遺言書を作成する必要があります。自筆証書遺言であればすべて保管してもらえるわけではないのです。詳しい条件は後述します。

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遺言書保管制度を利用するにあたっては、遺言書の作成から申請まで以下のような手順になります。

保管制度を利用するにあたっては、様式などについて以下のような条件があります。

  • A4サイズの片面のみに記載する
  • 余白(上部5mm、下部10mm、左右5mm)が必要
  • 各ページにページ番号を記載する
  • 複数ページでもホッチキスなどで綴じ合わせない

法務省のホームページには推奨される遺言用紙のテンプレートなども準備されています。遺言書保管制度を利用して自筆証書遺言を作成することを思い立ったときは、このサイトを優先的に確認することをおすすめします。

遺言書は全国どこの法務局でも保管するわけではなく、特定の法務局でのみ保管します。遺言書が保管できる法務局を遺言書保管所といいます(法務省のホームページにある「遺言書保管所一覧」から確認できます)。

実際に遺言書を保管してもらうには、次の3つのいずれかから選びます。

  • 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
  • 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
  • 遺言者が保有する不動産を管轄する遺言書保管所

申請には、事前にネット予約や電話での予約が必要となります。

当日までに、遺言書の他に申請書を準備する必要があります。申請書の様式や記載例は、前述の法務省のホームページに掲載されています。

申請書には、遺言者の氏名、生年月日、住所などのほか、遺産を受け取る人(受遺者)の氏名や住所などを記載します。死亡時の通知を希望する場合は、申請書の「死亡時の通知の対象者欄」にチェックを入れて、必要事項を記載します。

申請当日は、自筆証書遺言や申請書など必要書類を準備します。必要書類は以下の通りです。

【必要書類】

  • 自筆証書遺言書
  • 申請書
  • 本人確認書類(官公庁から発行された顔写真付きの身分証明書)
  • 本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等
  • 遺言書が外国語により記載されているときは日本語による翻訳文
  • 3900円分の収入印紙(遺言書保管手数料)

法務局の窓口では、法務局の職員から確認を受けることとなります。法務局の担当窓口では、申請書の書き方等についても電話での質問に応じてくれます。

遺言書保管制度にかかる費用は、上記のように保管手数料として1件につき3900円です。閲覧には別途手数料が発生します。

【関連】遺言書を法務局に預ける費用を解説 公正証書遺言とどちらがおすすめ?

遺言書保管制度を利用した場合、遺言者は遺言の内容を閲覧して確認することができますが、相続人は遺言者が死亡するまで、遺言の内容を閲覧することなどはできません。遺言者が死亡したあとは、最寄り法務局に閲覧を請求することができます。遺言書はデータで保管されているため、全国どこの法務局でも確認ができます。

この際、遺言保管申請時と同様に法務局に対して予約が必要になるほか、申請書を提出したり、法定相続情報一覧図または被相続人の戸籍などの資料の収集をしたりするなどの準備が必要となります。この閲覧請求を行うことによって、相続人ら全員に遺言が保管されていることが通知されることになります。

遺言書保管制度は、公正証書遺言と比べてコストも少なく、自筆証書遺言のデメリットを解消することができます。今後、遺言の内容を変更する可能性があるなど公正証書遺言をただちに作成することに躊躇している方やコストをなるべく抑えたいと考えている方は遺言書保管制度の利用を検討してはいかがでしょうか。

(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)

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