目次

  1. 1. 遺言信託とは
  2. 2. 手続きの流れ
  3. 3. 遺言信託のメリットとデメリット
  4. 4. まとめ

「相続会議」の税理士検索サービス

信託銀行や信託会社が取り扱う「遺言信託」を利用される方が増えています。
遺言信託は、以下のような流れのサービスです。

  1. 遺言内容の相談
  2. 公正証書遺言の作成サポート
  3. 遺言信託の契約
  4. 遺言書(正本)の保管
  5. 定期的照会
  6. 遺言の執行
  7. 相続税申告のサポート
  8. 遺言執行完了の報告

遺言信託は、信託銀行等が提供するパッケージ化された商品ですので、サービスの内容が明確です。遺言信託専門の担当者が遺言の相談から遺言の作成まで丁寧に対応し、遺言者が亡くなった後も専門の遺言執行者が確実に手続きをしますので、遺言者も相続人も安心です。銀行のサービスだという信頼感もあるでしょう。「遺言を作成してみたいが、良くわからないので丸ごと全部任せたい」というような方に適した制度です。

もう少し詳しく手続きの流れを見てみましょう。遺言の相談をしようと思ったときに、信託銀行の窓口へ直接行く方は少ないのではないでしょうか。信託銀行は少し敷居が高いイメージがあると思います。
あまり知られていませんが、多くの金融機関(メガバンク・地方銀行・信用金庫・信用組合・証券会社など)は信託銀行の代理店になっていて、ご自身の取引銀行に遺言の相談をすると、信託銀行を紹介してもらえます。意外に身近なところから相談できるのです。相談は無料ですし、相談したからと言って必ず遺言を書かなければいけないわけでもありませんので、気軽に相談されてはいかがでしょうか。

銀行から紹介された信託銀行の担当者は遺言信託の専門家ですので、当然に相続・遺言に詳しく、家族との関係や財産配分、手数料など気になることは何でも相談されると良いでしょう。
遺言内容を相談しながら、同時に戸籍謄本の取得を依頼して現時点での相続人を確認します。遺言書の内容が決まりましたら、信託銀行が公証役場に遺言書作成日の予約を取ります。
立会いする証人2人は公証役場で用意することも可能です。
作成日当日は、担当者と公証役場へ行くと、公証人から遺言内容を聞かれますので、趣旨や概要をお話しして、遺言書に実印を押印すれば公正証書遺言が完成します。
ここで、遺言書保管や遺言執行等に定めた遺言信託の契約を信託銀行と締結します。遺言書の原本は公証役場に保管し、正本は信託銀行に保管し、謄本は遺言者が持ち帰ります。このように、公証役場とのやりとりを信託銀行が事前に手配しますので、安心かつ手間がかからないのが特徴です。

信託銀行は遺言書正本を保管している期間、遺言者に対して定期的に(年に1〜2回)手紙を送ります。財産の変動や意向の変化等により遺言書の書き替えの必要がないのか、死亡していないのかなどを確認するためです。契約時には、死亡通知人(相続開始通知者)を定めて信託銀行に届け出ておき、遺言者の死亡を確実に把握する工夫をしています。

遺言者が亡くなると、死亡通知人または相続人が信託銀行へ死亡の事実を連絡します。そして、信託銀行は相続人や受遺者に遺言書を示して内容を説明します(遺言書の開示と言います)。その後、信託銀行は遺言執行者の職務に就任し(就職すると言います)、遺言執行に着手します。

遺言執行者は遺言書に記載されたとおりに、財産を換価換金して分割し、あるいは名義変更や相続登記などを行い、相続人や受遺者に財産を引き渡します。また、税理士と連携しつつ、相続税申告のサポートをします。最後に遺言執行報酬や費用を精算し、完了報告がなされて終了です。
以上のように、相続人は自ら動くことなく、居ながらに相続手続きが完了できるのが魅力です。

ここで、「弁護士や司法書士などに依頼して遺言を作成するのと、遺言信託とどちらが良いの?」という疑問が出てくると思います。それぞれのメリット・デメリットを見ながら比較したいと思います。

遺言信託には、次のようなメリットがあります。
まず「金融機関として資産の組み換えのアドバイスが受けられる」。遺言を作成する時に、将来の遺産分割を想定して資産を組み替える場合がありますが、信託銀行は金融機関ですから、様々な金融商品のアドバイスを受けることができます。また、信託銀行には不動産部門もありますので、節税対策も兼ねて不動産も含めた資産の組み換えにも対応できます。

次に「専門の担当者と相続センターの存在」があります。
信託銀行は遺言の取扱件数が多いので、遺言作成・遺言執行・相続事務等に業務が細分化され、それぞれの専門担当者はそれぞれの業務に精通しています。経験豊富ですので、様々なケースに対応するノウハウを持っています。遺言執行では様々な困難な事象が発生しますが、こうした経験を遺言作成時の遺言内容にフィードバックし、トラブル発生を予防している点も重要なポイントです。

また、「死亡通知人の指定」「丁寧な定期的照会」もあります。遺言者の死亡を確実に把握するための工夫ですが、簡易書留で照会しますので、手紙を受け取らなければ郵便返戻となり、何かが起こっていることを知る端緒になります。さらに信託銀行は全国展開していますので、全国どこでも均一なサービスを受けられることもメリットです。
最後に「法人であること」もポイントです。担当者が異動しても必ず別の担当が就きますし、個人の遺言執行者のように死亡して不在になることもありません。

遺言信託は良いことばかりのようですが、デメリットもあります。まず、「財産の執行に限る」ことです。遺言には身分に関する事項(認知や推定相続人の廃除など)も書くことができますが、これに対応しません。次に、「家具家財その他の財産の執行に対応しない」こともあります。遺言で特定された金融資産や不動産以外は、原則として執行対象としないのです。
また、傾向として「やや定型的であり、難しい遺言執行は避ける」こともあります。例えば、非上場株式を換価処分して遺贈するような内容は難しそうです。

遺贈寄付の観点では「不動産の換価型遺言には原則対応しない」ことがあります。遺言作成時点では、将来必ず不動産が売却できるかどうか分かりませんので、売却できなかった時のリスクを回避するために、遺言執行者が不動産を換価処分する遺言には消極的です。
また、遺言者が寄付先を選定しかねる場合に「『寄付先の選定を遺言執行者に一任する』という遺言に対応しない」点もあります。遺言執行者に裁量のある遺言は判断が難しく、これを避けることが理由です。

信託銀行等の遺言信託を利用するか、弁護士等に依頼して遺言を作成するかは、以上のようなメリット・デメリットをご自身に当てはめて検討されると良いでしょう。
ただ、少しでも相続人等との間でトラブルが懸念されるようなケースは、信託銀行は遺言信託を受けませんので、弁護士に相談されることをお薦めします。

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信託銀行の遺言信託と聞くと、手数料が高いように感じるかもしれませんが、ケースバイケースだと思います。不動産の換価が含まれる遺言執行でも追加料金は不要ですし、財産額に応じた執行報酬体系ですので、財産の種類や数が多くても料金は同じです。

サービス内容はどの信託銀行でもほとんど変わりませんが、手数料体系は信託銀行によって微妙に異なります。契約時に手数料多く支払う代わりに執行報酬が割引になる方式もありますし、信託銀行の属するグループ金融機関に預けてある資産が手数料割引の対象になることもあります。

ご自身の財産構成や希望する遺言内容によって信託銀行を選定することもできますし、弁護士などに依頼することも選択肢に考えておくことも大事です。そして、何より重要なことは「遺言執行の時に、自分の意思が必ず叶えられる」ことです。遺言の相談をした際に、自分の思いや疑問に対して適切な解決法を示してもらえるのかを見極めましょう。
多少の費用はかかっても、自分の意思が実現できる内容の遺言を作成できること、その遺言を確実に執行できる遺言執行者に依頼すること、を第一に考えましょう。

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)

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