目次

  1. 1. 相続の手続き前に預金を引き出すとトラブルの元に
  2. 2. 口座の凍結を解除する手続き
    1. 2-1. 手続きの流れ
    2. 2-2. 必要書類
  3. 3. 仮払いを受ける
    1. 3-1. 預貯金仮払い制度
    2. 3-2. 預貯金の便宜払い
  4. 4. まとめ:専門家に手続きを代行してもらう道も

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金融機関に被相続人が死亡したことを連絡すると、同人名義の口座はすべて凍結され、引き出しができない状態になります。その後、原則として、相続人間で合意が成立するまでの間、預金は引き出せません。そこで、口座が凍結される前に預金を引き出してしまおうという考えが浮かぶ場合があります。ただ、預金の引き出しには慎重になるべきです。

たとえば、相続人の一人が勝手に預金を引き出してしまうと、その他の相続人の不信感を生み、トラブルに発展しかねません。そこで、どうしても預金を引き出す必要が生じた場合には、すべての相続人の了解を得ておくべきでしょう。少なくとも引き出したお金の使途をきちんと説明できるように領収書等の資料を残しておくべきです。

また、相続放棄との兼ね合いも意識することが大切です。相続では、預貯金や不動産などのプラスの財産のみならず、借金や未払い費用などのマイナスの財産も引き継ぎます。マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、相続放棄を希望される方が多いでしょう。

ここで注意してほしいのが、相続人が亡くなった方の財産を処分してしまうと、相続することを承認したとみなされて相続放棄が認められないことがあるということです。預貯金を引き出したからといってただちに相続放棄が認められなくなるわけではありませんが、その使途次第では認められないこともあります。預貯金を引き出す際には、このようなリスクも考慮することが大切です。

口座の凍結を解除するには、各金融機関で相続手続きを行うことが必要です。ケース別に、手続きの流れや必要書類を解説します。

取引店に亡くなったことを連絡する
まずは金融機関の取引店に預金名義人が亡くなったことを連絡しましょう。相続専用の部署を設けている金融機関もありますので、事前にホームページで連絡先を確認しておくことをお勧めします。

必要書類を収集する
亡くなったことを連絡すると、金融機関から必要書類を指示されますので、指示に従って必要書類を収集します。一般的な必要書類は次の項目で説明しますが、戸籍謄本などの必要書類の収集には一定の時間がかかります。

たとえば、自筆証書遺言に基づいて相続手続きを進める場合、つまり法務局の遺言書保管制度を利用していない場合には、家庭裁判所に検認の申し立てをして、検認済証明書を取得する必要があります。また、遺産分割協議書に基づいて相続手続きを進める場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

必要書類を金融機関に持参もしくは郵送する
必要書類が収集できたら、金融機関に持参もしくは郵送しましょう。持参する場合、事前予約が必要であることや取引店でしか対応できないこともあるので、事前に金融機関に確認しておく必要があります。書類に不備や不足がなければ、基本的には1~2週間程度で入金されます。

遺産分割協議書や遺言書がない場合
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡時まで)及び相続人の戸籍謄本(もしくは法務局発行の「法定相続情報一覧図」の写し)
・相続人全員の印鑑証明書
・各金融機関所定の届出書

遺産分割協議書がある場合
・遺産分割協議書原本
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡時まで)及び相続人の戸籍謄本(もしくは「法定相続情報一覧図」の写し)
・相続人全員の印鑑証明書
・各金融機関所定の届出書

遺言書がある場合
・遺言書原本あるいは公正証書遺言謄本
・家庭裁判所の検認済証明書(公正証書遺言の場合は不要)
・受遺者の印鑑証明書
・(遺言執行者が選任されていれば)遺言執行者の印鑑証明書
・各金融機関所定の届出書

家庭裁判所での調停や審判の場合
・調停調書謄本または審判書謄本及び確定証明書
・調停や審判等で当該預金の取得者と指定された方の印鑑証明書
・各金融機関所定の届出書

金融機関によって必要書類が異なることもありますので、事前に問い合わせをして確認しておきましょう。

すでに解説したとおり、口座が凍結されると、原則として、相続人間で合意が成立するまでの間、預金を引き出せなくなります。そうすると、葬儀費用などで早急にお金が必要なときなどに預金が引き出せずに困るケースがあります。そこで、令和元年7月から、預貯金仮払い制度が始まりました。預貯金仮払い制度とは、一人の相続人が単独で、金融機関ごとに、下記のうちの「低いほう」の金額を引き出せるというものです。

・死亡日時点の預金残高×3分の1×当該相続人の法定相続分
・150万円

たとえば、ある銀行に被相続人名義の預金が600万円あり、相続人は配偶者とお子さんの合計2人のケース。この場合、配偶者が引き出し可能な金額は、600万円×3分の1×2分の1で、100万円です。

金融機関ごとに引き出せますので、他の銀行にも預金があれば、同様の計算方法で算出された金額を引き出すことができます。ただし、引き出しにあたっては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などの書類を準備する必要があります。事前に必要書類を確認しておきましょう。

銀行実務では、従前から、遺産分割前で相続人全員の同意がない場合でも、葬儀費用の引き出しに応じる場合がありました。銀行実務では「便宜払い」と呼ばれているものです。

前に述べたように、預貯金仮払い制度が始まったので、現在は同制度を利用して葬儀費用の引き出しをすることが可能です。もっとも、同制度を利用するための書類の収集が間に合わないなど緊急の必要がある場合には、金融機関に直接相談してみるのも良いでしょう。ただし、「便宜払い」は法律上の制度ではなく、金融機関側にも法的なリスクがありますので、すべての金融機関が便宜払いに応じてくれるわけではありません。

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役所や銀行での手続きは基本的に平日しか行えないため、仕事の都合でなかなか相続手続きを進められず、どうしても後回しにされがちです。

このような場合も、弁護士などの専門家に依頼すれば、相続手続きを代行してもらうことができ、早期かつ正確に手続きを進めることができます。特に争いになっていなくても、手続きの代行だけを依頼することが可能ですので、なかなか相続手続きが進められない場合は、弁護士を含む専門家に相談してみると良いでしょう。

(記事は2021年3月1日時点の情報に基づいています)

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