連載第5回で、自筆証書遺言のリスクについて説明しました。私は「遺贈するならできれば公正証書遺言を」と主張してきました。

基本的な、考えは変わりませんが、「自筆証書遺言も場合によってはOKかも」と思わせる新制度が始まります。7月10日から、法務局による自筆証書遺言保管制度がスタートするのです。実は、かなり画期的です。

法務局で遺言書を保管

新制度では、全国300以上の法務局(支局を含む)が「遺言書保管所」に指定される予定です。ここに遺言者本人が自筆証書遺言を持参して、保管を申請できます。保管された遺言は検認も不要になります。

保管は、国の定める様式で作成された遺言であることが条件です。日付や署名押印がないと無効になってしまいます。逆に言えば、そういった様式に間違いがあれば受理されないということですから、形式上のミスで遺言が無効になるリスクは一定程度、減ると考えられます。

なお、内容についてのチェックはありません。遺産分割の方法など、書いた内容が有効かどうかまでは保証の限りではありません。自筆証書遺言のリスクの一つとして、この点は変わりありません。

法務局では、遺言の原本だけでなく、画像データにしたものも保管されます。遺言者が「遺言が法務局にあるよ」と言い残すだけで、紛失の心配はほぼなくなるわけです。画像データの確認と遺言の有無の確認は保管した法務局だけでなく、全国の法務局で申請できます。遺言書があるかないかがわからない場合、「とりあえず法務局に行く」というのが新たな相続の習慣になるかもしれません。

自筆証書遺言の保管制度を伝える法務省のチラシ(法務省のホームページより)
自筆証書遺言の保管制度を伝える法務省のチラシ(法務省のホームページより)

誰かが閲覧すると相続人に通知

自筆証書遺言はいつでもどこでも書ける手軽さが魅力です。新制度でもこの点は変わりません。新しいものに書き換えるのも自由です。遺言は日付が最新のものが優先されるので、保管後に自宅で新しい遺言を書いたとすれば、そちらが優先されます。とはいえ、トラブルを避けるためにはその都度、法務局に新たに保管してもらった方が間違いありませんが。

何より画期的なのは「通知」です。新制度の根拠となる遺言書保管法には、こんな文言があるのです。「遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付し又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に通知します」(第9条第5項)

つまり、遺言者の死後に誰かが遺言を閲覧するなどした場合、法務局が「遺言を保管していますよ」と相続人や遺贈を受ける人など関係者全員に知らせてくれるのです。関係者全員の知るところになるわけですから、廃棄や改ざんの危険性は大幅に減ります。公正証書遺言にもこんな便利な通知はありません。

まさか法務局が相続人の範囲をいちいち調べるとは思えませんので、おそらく保管を申請する際、遺言者が相続人などの連絡先を登録するのではないかと推測します。

いずれにせよ、この保管制度によって、遺言を作成する人が増える可能性はかなり高まると考えます。手軽な上に、国が保管まできちんとしてくれる。遺言を残したくても「公正証書だと費用もかかるし、内容が公証人や立ち合いの証人に知られるのが嫌だなあ」と思っていた方には朗報なのです。

料金は、保管の申請1件につき3900円、原本の閲覧請求1件につき1700円などとなっています。法務省が18年に実施した「我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査」では、自筆証書遺言の約4分の1が数年内に法務局に保管され、いずれ半数は保管されるとみています。

遺贈寄附推進機構株式会社社長の齋藤弘道さんはこのデータなどを基に、「かなり乱暴な推計ですが、自筆証書遺言は年間13万件くらい作成されている思われます。公正証書遺言の作成が約11万件ですから、この保管制度によって実際に『使われる』遺言は2倍に増えると考えていいでしょう」と言います。

見つからないなどで、これまで活かされることがなかった遺言が実際に使われる可能性が飛躍的に高まるというのです。

私も同じ考えです。この制度が広く知られれば、遺言を作成するハードルはグッと下がるでしょう。リスクが減って、遺思が活かされる可能性が高まるわけですから、遺贈もしやすくなるでしょう。遺贈の普及には力強い追い風になるはずです。

次回は、相続した財産から寄付する、を取り上げます。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)