目次

  1. 1. メリット損なわず問題点を解消
  2. 2. 遺言の内容は相談できない
  3. 3. 相続がスタートしたら通知が届く
  4. 4. 曖昧な表現には注意が必要

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自筆証書遺言は自宅に保管しているケースもあり、紛失・盗難の危険性や様式の不備で無効になるデメリットもありました。また、その所在が周知されていないと、遺言者が亡くなっても発見されないこともあります。こうした問題点を解消することを目的に設立されたのが、法務局が自筆証書遺言を保管する「自筆証書遺言書保管制度」です。

「自筆証書遺言書のメリットは損なわず、問題点を解消したシステム。現在、自筆証書遺言書を司法書士らに預けているのは約4分の1。そのほかは自宅などで保管しています。一人暮らしの増加により、遺言書が発見されないケースも増えているかもしれません。また、書いた人が亡くなった後、本人が書いたか否かが裁判で争われる可能性もあります」。こう語るのは、司法書士の内藤卓さん。日本司法書士会連合会の「遺言書の保管制度への対応プロジェクトチーム」で、座長を務めています。
遺言書の安全な保管方法を考えた時、公証役場が預かる公正証書遺言がありますが、必要書類の事前準備や公証人との打合せなど、それなりの手間と時間に加え、財産に応じた費用がかかります。対して、自筆証書遺言の保管制度では、自ら作成した自筆の遺言書を法務局に持参するだけなので、証人の立会は不要。1通につき3900円で自筆証書遺言書は原本に加えて画像データも保管されます。

ただし、注意したいのは、法務局は書式や形式面は確認しますが、遺言書についての相談は受け付けておらず、法的に不備があるかどうかまでは確認してもらえません。極端な話になると、財産分与についての記述が不正確でも、用紙のサイズ、署名、日付、押印などの様式が満たされていれば受理されます。また、全文を自分で作成しなければならず、提出の際には必ず本人が法務局に出向く必要もあります。一長一短があるようにも見える「自筆証書遺言書保管制度」。そこで、制度を利用しようと考える人に向け、自筆証書遺言書のメリットとデメリットについて考えてみましょう。

自筆証書遺言書のデメリットをカバーする公正証書遺言は、公証人という法律のプロフェッショナルが作ってくれます。法的効力をしっかり確認し、遺言者が病気などで外出できない場合には出張してくれることも。また、公証役場なら、どこでも保管してもらえます。

日本司法書士会連合会の「遺言書の保管制度の対応プロジェクトチーム」で座長を務め、プレスセミナーで制度を解説した内藤卓さん
日本司法書士会連合会の「遺言書の保管制度の対応プロジェクトチーム」で座長を務め、プレスセミナーで制度を解説した内藤卓さん

しかし、公正証書遺言にはなく、自筆証書遺言の保管制度にある大きなメリットが、相続がスタートした際の通知制度です。遺言者が死亡した場合に限られますが、相続人などになっている人が、誰か一人でも遺言書の内容に関する証明書を取得したり、遺言書を閲覧したりした場合、その他の相続人等に対しても、遺言書が保管されている旨が通知されます。ただし、この通知は、関係者が遺言書の閲覧等をしなければ、遺言者本人が死亡しても送付されません。それを補うものとして、今後、「死亡時の通知」が設けられることになっています。遺言書の保管の申請時に「死亡時通知の申出」をし、通知対象者(遺言者の推定相続人並びに遺言書に記載された受遺者等及び遺言執行者等から1名)を指定すれば、遺言者が死亡したときに、法務局から通知されます。このシステムは、2021年度以降頃から本格的に運用が開始される予定です。

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また、気をつけたいのが、遺言書を書くときに曖昧な表現をすると無効になってしまう危険性があることです。たとえば、「託す」、「譲る」、といった言葉ではなく明確に「相続させる」などと表記する必要があります。「利便性の良い自筆証書遺言を活用するためには、まず自分の財産を把握し、簡単でもいいので財産を一覧にするのが理想的です。そして無効にならないためにも、保管を申請する前に司法書士といった専門家に目を通してもらうことをおすすめします。年齢に関わらず、遺言書を書いておけば、無用なトラブルは避けられます」(内藤さん)。

最後に、保管制度のメリットと注意点を箇条書きでまとめてみました。

●メリット

  • 法務局が原本と画像データを保管する
  • 家庭裁判所の検認が不要
  • 保管中に内容の閲覧や撤回が可能
  • 保管の手数料は1通3900円と比較的安い
  • 関係遺言書保管通知がある
  • 死亡時の通知がある(2021年度以降)
  • 遺言書の画像データは150年間保管

●注意点

  • 遺言書の内容については審査しない
  • 本人が出向く必要がある。代理人は不可
  • 全文を自分で作成する必要がある
  • 本人確認のための顔写真付きの身分証明書が必要
  • 保管手続きが出来る法務局が決まっている

こういった注意点を考えて、自分一人で保管制度を利用するのに不安がある場合は、内藤さんの指摘通り、専門家に相談するのが良いかもしれません。なぜなら、自分で書いた遺言書だけがあれば、法務局が保管してくれるわけではないからです。遺言書情報証明書を請求したり、保管を申請したりする際に必要な書類は、様式などが細かく定められています。せっかく、保管制度を利用しようと申請書の提出に行っても、書類に不備があると、かえって手間が掛かってしまう可能性もあります。

まだ遺言を作らなくても大丈夫だろうと思って先送りにせず、元気な今だからこそ自分自身の遺言書のことを考えるのはいかがでしょう。もちろん、お盆で親族が集まる際に、親世代にも遺言書の新しいシステムを話題として投げかけてもよいかもしれません。

(記事は2020年8月1日時点の情報に基づいています)

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