この制度は「遺言書保管所」に指定された法務局(全国312か所)に、自筆証書遺言を遺言者本人が持参して保管してもらうものです。原本のみならず、電子データとしても保管され、遺言者が亡くなった後、相続人らが閲覧できるようになります。

筆者は遺言を書くのは初めて。ちょっと緊張しました。実務的なことから取りかかる方が楽だと考え、預貯金や不動産など、自分の財産整理から始めました。口座番号などをまとめ、不動産は登記簿謄本を引っ張り出して、住所ではない登記簿上の地番を確認するなどして財産の一覧をパソコンで作りました。

社会的意義から遺贈先を決める

一覧を前にしながら、誰に何を相続してもらうのか、遺贈先と額はどうしようと考えました。やはり、いろいろな思いが去来します。多くの人たち、特に家族に世話になったことがあらためて感じられました。遺贈先は「あそこにも、ここにもしたい」とかなり悩みましたが、お金は限られています。活動に大きな社会的意義を感じて信頼している団体一つに絞り、少しでも役立ててもらおうと決めました。

用紙はHPでダウンロード

自筆証書遺言でも、財産目録は自筆でなくパソコンでもOKになっていますので、あとは遺言を書くだけです。制度のHPや法務局で配布しているパンフレットには、様式に関する注意事項が細かく掲載されています。たとえば、「推定相続人以外の者には『相続させる』ではなく『遺贈する』と記載」とか「紙の余白は左20ミリ以上、上下は5ミリ以上」といった具合です。

さも大変そうですが、用紙はHPからPDFでダウンロードでき、それを使えば余白の問題などはクリアできますし、一つ一つの注意に従って書けばさほど難しいことはないと感じました。どう文章を書けばわからない場合は、「いぞう寄付の窓口」(https://izoukifu.jp/tool/)を使うといいでしょう。「あなたに配偶者はいますか」などの質問に一つずつ答えていくと、「文例」が出てきます。参考になると思います。 私は、書き損じた場合には思い切って一から書き直しました。修正方法は煩雑な規定があって、ミスにつながると感じたからです。

不安があれば専門家へ

この制度は、保管申請時に形式に関するチェックがあるものの、法務局では内容には一切関与しません。ここは要注意です。「保管=法的に効力がある」とは限らないからです。内容に不備があって、いざというときに役立たないことも考えられます。不安な場合は、司法書士や弁護士らのアドバイスをもらった方が良いでしょう。

作成し終えると、なんとなく晴れ晴れとしました。もしもの場合も安心だと思え、むしろ残された人生に思いをはせ、前向きな気持ちになりました。同時に、自分がいなくなったあと、少しでも家族らにとって暮らしやすい世の中であって欲しいと願いました。

さて、作成後には保管所を選びます。自分が住む場所か本籍地、もしくは所有する不動産がある場所を管轄する法務局が対象です。保管所が決まったら申請書を作成。これもHPからダウンロードできるほか、法務局の窓口でも配布しています。

相続人への通知制度も

申請書は保管所の名称から始まり、自分の住所や氏名、遺言執行者に関する情報のほか、この制度の大きな特徴である「通知」にかかわる事項を記入します。遺言執行者や受遺団体を通知先に指定しておけば、遺言者の死亡が確認された時点で法務局が知らせてくれるのです。なお、この制度のすごいところは、遺言者の死後に相続人らが遺言の閲覧申請をした場合、遺言を保管していることを、法務局が相続人全員に知らせてくれる点です。閲覧申請時には「法定相続情報一覧図」の写しなど相続人全員の情報がわかる書類が必要になりますから、それをもとに通知してくれるのです。内容の改ざんや破棄される心配はほぼなくなったといえるでしょう。
次に、法務局に行く日を予約します。専用サイト(https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/)なら、空いている日時が一目でわかります。手続きすると「予約番号」と「パスワード」が記載されたメールが届きました。予約日前日にも確認メールが届く念の入れようです。予約は電話や窓口でも可能です。

申請手続きは40分ほど

当日は遺言書、申請書類、住民票など必要書類をそろえ、東京法務局へ出向きました。まず、窓口で書類がそろっているかをチェックされます。本人確認のため、マスクを外すよう言われて免許証の写真と照合されました。その後、受付カードを渡され、待つこと40分。この間に形式にミスがないかをチェックするそうです。

最後に3900円分の印紙を購入して申請書類に貼った後、保管証を受け取り、手続きが完了しました。保管証は、氏名や保管所の名称、保管番号などが記載された証明書です。家族らにはこの保管証(コピーでも大丈夫)を渡しておけば、「遺言が法務局にある」とわかってもらえます。意外と簡単な手続きで、安価でできるこの制度。広く知られるようになれば、遺言を作成するハードルはぐっと下がるのではないでしょうか。
次回は大学への遺贈寄付です。

(記事は2020年9月1日現在の情報に基づきます)