自筆証書遺言書の法務局保管とは 新制度の概要を解説
遺産分割でトラブルになるのを防ぐには、遺言書を書いておくのが有効です。自分で手書きする自筆証書遺言書は、いつでも思いついたときに書くことができ、費用がかからないのがメリットですが、紛失・改ざんなどのリスクがあります。そこで新しく、法務局が自筆証書遺言書を保管する制度がスタートしました。制度の利用について専門家が解説します。
遺産分割でトラブルになるのを防ぐには、遺言書を書いておくのが有効です。自分で手書きする自筆証書遺言書は、いつでも思いついたときに書くことができ、費用がかからないのがメリットですが、紛失・改ざんなどのリスクがあります。そこで新しく、法務局が自筆証書遺言書を保管する制度がスタートしました。制度の利用について専門家が解説します。
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遺言には公正証書遺言と自筆証書遺言があります。公正証書遺言書は、公証役場という役所で公証人という専門家に作成してもらう法律的に有効な文書なので無効になることがなく、公証役場で保管されるため紛失・改ざんなどリスクもありません。
ただし、証人2人とともに公証役場へ出向かなくてはならず、作成するには相続財産額に応じて数万円以上の手数料もかかります。
一方、自筆証書遺言書はいつでもどこでも書くことができ、作成のための手数料などもかかりません。ただ、財産目録以外はすべて手書きしなければならないなど形式に決まりがあり、形式に不備があると無効になってしまいます。また、自宅で保管されることが多いため、どこかへしまい込んでしまうと、書いた人が亡くなったとき誰にも見つけてもらえないということが起こりえます。自分に不利な内容の遺言書を見つけた相続人が、遺言書を隠したり内容を改ざんしたりするリスクもあります。
さらに、書いた人が亡くなったとき、相続人は自筆証書遺言書を家庭裁判所へもっていって「検認」を受ける必要があります。この手続きに手間と時間がかかるのですが、検認を受けた遺言書がないと、亡くなった人の預金の引き出しや不動産の名義書き替えなどができません。
自筆証書遺言と公正証書遺言については「自筆証書と公正証書、どちらを選ぶ? メリットデメリットを紹介」 参照
こうした自筆証書遺言のデメリットを解消するために、自筆証書遺言書を法務局が保管する制度が2020年7月10日にスタートしました。この制度を利用すると、遺言書の紛失や隠匿・改ざんなどを防ぐことができ、家庭裁判所での検認も不要になります。
保管制度を利用する手順を見ていきましょう。
1.自筆証書遺言書を作成する
まず、自筆で遺言書を書きます。
書式は法務省のサイトを参考にしましょう。
2.保管所を決める
次に、保管所を決めます。
保管所は、
・遺言者の住所地
・遺言者の本籍地
・遺言者が所有する不動産の所在地
のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務局)です。
遺言書保管所となっている法務局と管轄については、法務省のサイトにある「自筆証書遺言書保管制度の遺言書保管所管轄一覧」で調べられます。
3.保管所に保管の申請をする
保管所が決まったら、申請書を作成します。
申請書は遺言書保管所になっている法務局の窓口に備えられているほか、法務省のサイトからダウンロードできます(現在は準備中)。申請には予約が必要です。
申請の際は、遺言書、申請書に加えて、本籍の記載のある住民票の写し、運転免許証などの本人確認書類や3900円の収入印紙が必要です。申請は本人が保管所へ出向いて行うことになっており、代理申請はできません。
4.保管証の交付を受ける
申請手続きが終了すると、遺言者の氏名、生年月日、遺言書保管所の名称と保管番号が記載された保管証が交付されます。
遺言者は、自分の遺言書を保管した遺言書保管所で遺言書の原本を閲覧できるほか、他の遺言書保管所でもモニターによる遺言書の画像の閲覧ができます。
保管してある遺言書を撤回することは可能です。遺言の内容を変更する場合は、新たな遺言書を作成して、再度保管の申請をします。
保管後に遺言者の氏名、住所などに変更があった場合は、変更の届出が必要です。
遺言者が亡くなったときの手続きは次のようになります。
1.遺言書が保管されているかどうかを確認する
遺言者が亡くなったあと、相続人、遺言執行者、受遺者(遺言によって財産を受け取る人)、および、その親権者や成年後見人などの法定代理人は、遺言書が保管されているかどうかを確認することができます。
確認は予約をしたうえで、遺言書保管所に遺言書保管事実証明書の交付を請求します。その際、遺言者の死亡を確認できる戸籍(除籍)謄本、請求する人の住民票の写し、遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本と、800円の収入印紙などが必要です。交付請求は全国のどこの遺言書保管所でも可能で、郵送による請求もできます。
2.遺言書情報証明書の交付を受ける
遺言書が保管されている場合は、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付によって、遺言の内容を知ることができます。遺言書情報証明書は、遺言者の預金の引き出し、不動産の名義書き換えなどに必要です。
遺言書情報証明書の交付を請求できるのは、遺言書保管の確認を行える人と同じす。交付請求の際、住所の記載のある「法定相続情報一覧図」(相続関係を一覧にした公的証明書)の写し、一覧図がない場合は遺言者・相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の住民票の写しなどを提出します。いずれの場合も、請求の際、1400円の収入印紙が必要です。
相続人の1人が遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を請求したりすると、それ以外の相続人にも、遺言書が保管されていることが通知されます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す自筆証書遺言書保管制度を利用するときのポイントを挙げておきます。
1.保管所になっている法務局は要チェック
自筆証書遺言書の保管はすべての法務局・支局が扱うわけではありません。遺言書保管所となる法務局は不動産登記等よりも管轄エリアが広い点に注意が必要です。
2.遺言書の内容はチェックされない
遺言書保管所では、遺言書を保管するにあたって形式のチェックを行うので、形式の不備で遺言書が無効になることがなく、安心です。ただし、遺言書保管所が遺言書の内容について確認することはありません。自分の財産を誰にどのように相続させるかは、遺言者の自由だからです。
とはいえ、遺言の内容がトラブルを招くこともあるので、自筆証書遺言書を書くにあたっては、相続に詳しい専門家のアドバイスを受け、内容をチェックしてもらうとよいでしょう。
3.保管されていることを家族に伝える
自筆証書遺言書を法務局に保管してもらったら、そのことを家族に伝えておきましょう。それによって、亡くなったときに保管されている遺言書があるかどうか調べる手間が省けます。また、家族に保管証を渡しておけば、記載された保管番号によって、遺言書情報証明書の交付請求がスムーズになります。
これまで、遺言を確実に残すには公正証書遺言書を作成する必要がありましたが、自筆証書遺言書保管制度ができたことによって、公正証書遺言よりも手軽に、かつそれほどお金をかけずに遺言を残せるようになりました。制度の利用が広がって遺言書を書く人が増えれば、遺産分割によるトラブルが減るかもしれません。
(記事は2022年8月1日時点の情報に基づいています)
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