目次

  1. 1. 遺産を受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる?
    1. 1-1. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(1号)
    2. 1-2. 相続人が民法第915条第1項の期間内に…相続の放棄をしなかったとき(2号)
    3. 1-3. 相続人が…相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部又は一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき(3号)
  2. 2. 相続放棄をしても受け取れるお金とは?
    1. 2-1. 相続放棄すると受け取れないお金の例
    2. 2-2. 相続放棄しても受け取れる可能性があるお金の例
  3. 3. 相続放棄するときに注意すべき財産
    1. 3-1. 生命保険の死亡保険金
    2. 3-2. 未払給与、死亡退職金
    3. 3-3. 相続債務の支払い
  4. 4. 相続財産である死亡保険金などを既に受け取ってしまったら?
  5. 5. まとめ

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相続人には、基本的に、相続をするかしないかの選択権が認められています。相続をするという選択をする場合を「相続の承認」といい、相続をしないという選択をする場合を「相続放棄」といいます。

ただし、「法定単純承認」(民法921条)には注意が必要です。これは、簡単にいうと、「法律で定められた一定の事由に該当した場合には相続することを承認したとみなしますよ」という制度です。相続することを承認したとみなされると、相続放棄はできなくなります。そのため、相続放棄をしたい場合には「法定単純承認」にならないように注意が必要です。

では、どのような場合に「法定単純承認」になってしまうのでしょうか。

相続財産である不動産や動産を売却・譲渡したり、現金や預貯金を費消してしまったりすると、相続放棄はできなくなります。

ご相談で多いのが、「被相続人が亡くなった後に預貯金を引き出してしまった」「葬儀費用として被相続人の預貯金を使ってしまった(あるいは使って良いか)」というものです。

まず、預貯金を引き出しただけの場合には、基本的に、相続放棄は認められます。ただし、引き出した預金を自身の口座に送金して保管している場合には、処分したとも評価されかねません。そのため、その場合は預金を再度被相続人の口座に入金しましょう。既に口座が凍結されて入金できない場合は、新たに口座を開設して入金し、ご自身の口座と別で管理しましょう。

次に、葬儀費用に使ってしまった場合は、処分には当たらないと判断した裁判例(大阪高決平成14年7月3日)があります。この裁判例からすれば、相続放棄は認められると考えられます。ただし、他の事例でも同じ判断がなされるとは限らないので、個別の事情に応じて慎重に検討する必要があります。

なお、同裁判例では、葬儀後の仏壇や墓石の購入についても「貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる『相続財産の処分』に当たるとは断定できないというべきである」とも判示しています。

【関連】相続放棄の前後にしてはいけないこと 遺品整理はダメ?葬式代は? 注意点を解説

相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にしなければなりません。この期限を過ぎてしまうと、相続の承認をしたとみなされるので、相続放棄はできません。事情があって期間内に相続放棄をするかの判断が難しい場合には、期間伸長の申立てをしましょう。

簡単にいうと、相続放棄をした後であっても、相続財産の所在を分からないようにしたり、相続債権者に不利益を与える意思で使ってしまったりした場合には、相続放棄の効力が認められなくなります。なお、相続財産の目録については、限定承認に関するもので、単純な相続放棄の場合は関係ありません。

相続放棄をしても受け取れるお金かどうかは、「相続財産」と「固有財産」のいずれかによって変わります。「固有財産」とは、遺族が固有の権利に基づいて取得する財産です。相続放棄によって受け取れなくなるのは被相続人の財産だけですので、「固有財産」は受け取ることができます。

  • 被相続人が所有していた現預金・株式・不動産・動産、債権などの財産
  • 被相続人が受取人になっている保険金や共済金
  • 被相続人が払いすぎたために還付される税金や保険料、年金など

これらは、典型的な「相続財産」ですので、相続放棄をした以上は受け取ることができません。

  • 香典
  • 死亡保険金
  • 死亡退職金
  • 健康保険からの葬祭費や埋葬費
  • 遺族年金、死亡一時金
  • 未支給の年金

これらは、遺族の「固有財産」として受け取れる可能性があります。ただし、保険約款や就業規則、法律などの規定にもよりますので、受け取って問題ないか、事前に弁護士に相談しておくと良いでしょう。

  • 仏壇仏具や神棚などの祭祀財産

「祭祀財産」は「相続財産」に含まれません。民法上、祭祀財産を承継するのは「祭祀承継者」とされています(民法897条)。そのため、相続放棄をしても、祭祀財産を承継できます。

死亡保険金の受取人が誰に指定されているかで変わります。

【遺族が受取人に指定されている場合】
死亡保険金は遺族の「固有財産」なので、受け取って問題ありません。

【本人が受取人に指定されている場合】
死亡保険金は「相続財産」なので、受け取ると相続放棄ができません。

【受取人の指定がない場合】
死亡保険金が「相続財産」となるかどうかは保険約款の内容次第なので、約款を確認しましょう。

就業規則で受取人(支給先)が定められているかで変わります。

【就業規則で遺族が受取人に指定されている場合】
遺族の「固有財産」なので、受け取って問題ありません。

【就業規則で被相続人が受取人に指定されている場合や規定がない場合】
「相続財産」なので、受け取ると相続放棄できなくなります

支払いの原資が何かで変わります。

【遺産から支払った場合】
相続財産の処分として、法定単純承認に該当し、相続放棄できなくなる可能性があります。

【相続人固有の財産から支払った場合】
相続財産の処分にはならないので、問題ありません。

「相続財産」である死亡保険金などを受け取って使ってしまうと、上記の法定単純承認に当たってしまいます。受け取ったものの使っていない場合は、被相続人の口座か新たに開設した口座に入金し、ご自身が元々使っていた口座と別で管理するようにしましょう。

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上記のとおり、相続放棄できなくなるケースは意外と多くややこしいです。借金の存在が見込まれるなど、相続放棄を視野に入れている方は、早めに弁護士に相談すると良いでしょう。

(記事は2020年4月1日現在の情報に基づいています)

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