母が亡くなり遺産分割でトラブルが

相談を寄せてくれたのは、2人兄弟の兄でした。母が亡くなり、弟と遺産を分割することになりました。
次男は独身で、長年、母と2人、自宅(母の所有する土地・建物)で暮らしていました。相談人によると、母は生前、次男ばかりを可愛いがり、車の購入などで多額の資金を援助していたようです。母が亡くなってから、次男は母の所有していた自宅にずっと住み続け、遺産分割の話し合いに全く応じてくれません。遺言書もなかったそうです。
次男は母の遺産を実質的に1人で所有しているような状態で、相談人は全く母の財産を相続できていません。このため、相続人は「次男が、母の所有していた自宅に居座るのは、私が相続するはずの財産を勝手に使っていることになるので、窃盗罪が成立しないでしょうか。全く言うことを聞かない次男に成す術もなく悩んでおります」と悩んでいました。

自宅に居座り続ける弟は罪に問えない?

私が示した答えは、次の通りです。

次男が母の死後に自宅に居座り続けたとしても、残念ながら窃盗罪は成立しません。窃盗罪における「窃取」とは、判例上「占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すこと」と定義されています。つまり、「窃取」したと言えるためには、占有(財物を事実上支配している状態)の移転が必要となります。今回の件では、次男は生前の母が所有する自宅に2人で一緒に住んでおり、母が亡くなってからも次男は引き続き住み続けています。そのため、次男は他の人が占有している物をその人の意思に反して自己のもとに移している訳ではありません。よって、占有の移転はなく、「窃取」したとはいえないので、窃盗罪は成立しません。

解決には遺産分割の調停か審判がお勧め

では、このようにもめてしまった場合には、どのような解決方法があるのでしょうか。母が遺言書を残さなかった今回のような場合は、相続人全員での遺産分割協議が必要となります。亡母の相続人は長男と次男のみなので、2人で遺産分割協議をします。遺産分割自体は、いつまでにしなければならないという具体的な制限はありません。母が亡くなってから何年経過していても遺産分割をすることは可能です。ただ、相続放棄をする場合には、自分が相続人となったことを知った日の翌日から3カ月以内という期限があるので注意が必要です。また、相続税の申告が必要な場合には、相続の発生を知った日の翌日から10カ月以内に申告する必要があるなど期限が定められているものもあります。

次男が遺産分割協議に応じてくれないのであれば、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、調停での話し合いによる解決を図るべきでしょう。もし、調停での話し合いがまとまらない場合には、審判に移行して裁判官に遺産分割方法を決定してもらうことができます。

実家の相続のポイントは代償金

母の相続人は長男と次男のみなので、基本的に母の遺産は、法定相続分に従い、長男と次男が2分の1ずつ相続することになります。もっとも、次男が母から受けていた金銭的な援助を生前贈与として扱うこともできます。この際には、母による生前の援助を「特別受益」として相続財産にして遺産を配分します。つまり、次男が受けた援助を相続財産の一部とするので、次男が受け取れる財産を減らすことができます。

次に、今回のケースの大きなポイントの一つと言える実家について考えていきます。次男1人が実家を相続する場合、本来ならば実家の半分の価格を代償金として長男に支払わなければなりません。代償金を支払う金銭的余裕がないにもかかわらず、次男がそのまま住み続けることを望んでいるとしたら、長男が次男に代償金を支払った上で実家を相続し、次男に賃貸する方法も考えられます。

実家を長男と次男の共有名義にするという方法もありますが、一般的には相続で不動産を共有名義にすることは望ましくありません。一見、不動産を共有名義にするという方法は、相続人の誰もが不公平さを感じることなく最適な方法に思えます。しかし、後々、実家を処分する必要性が出てきたとき、共有の不動産を売却するには、共有者全員の意思を一致させる必要があるため、共有者間でもめてしまいがちです。また、賃貸の場合でも共有持分の過半数の同意(場合によっては共有者全員の同意)が必要になるので、共有者間でもめる可能性があります。その後も相続が発生して雪だるま式に共有者が増えてしまうと、ますます意思決定が困難になります。このように不動産を共有名義にすると、せっかく不動産を持っていても活用できない場合が多いのです。他にも、自宅を売却し、その売却代金を長男と次男の二人で分けるなど様々なパターンが考えられます。

今回のケースでは、長男が遺産分割調停を提起し、次男と遺産分割について話し合いをしたところ、自宅については、次男が自宅を取得するための代償金を支払えないとのことでした。このため、長男が代償金を次男に支払った上で、自宅を取得しました。また、長男はそれでもなかなか自宅を出ていかない次男のために、安く借りることができるアパートを探して、次男にはそこに引っ越してもらうという形で解決しました。

遺言書の有無がトラブル回避に

今回のケースでは、たまたまこのような結論に至りましたが、遺言書が残されていない場合は、どのように遺産を分割するか正解はありません。母が「自宅は次男に、その他の財産は長男に」というように、できるだけ兄弟が平等に母の遺産を相続できるよう遺言書を遺していたら、兄弟でもめずに済み、遺産分割協議も必要なかったでしょう。

(個人情報に配慮し、内容の一部を脚色しています。記事は2020年7月1日時点の情報に基づいています)