飼い主の死後、ペットはどうなる?遺贈や死因贈与での引き継ぎの進め方を詳説 後編
愛するペットも、飼い主も、そして引き継ぎ手の三者ともに安心できる「ペットの相続」とはなにか。今回の後編では、遺贈や死因贈与という選択肢について、具体的で実践的な進め方をそれぞれ詳らかにしました。終活弁護士の伊勢田篤史氏の解説です。
愛するペットも、飼い主も、そして引き継ぎ手の三者ともに安心できる「ペットの相続」とはなにか。今回の後編では、遺贈や死因贈与という選択肢について、具体的で実践的な進め方をそれぞれ詳らかにしました。終活弁護士の伊勢田篤史氏の解説です。
目次
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こんにちは、終活弁護士の伊勢田篤史です。
さて、今回は、前回の「飼い主の死後、ペットはどうなる? 遺贈や死因贈与の前にまず考えたいケース分け(前編)」 の後編です。
前回は、遺贈や死因贈与の前に考えておくべき内容について解説しました。
今回は、前回の内容を踏まえて、各制度の使い方について具体的に解説したいと思います。
そもそも、「遺贈」や「死因贈与」という表現自体、一般の方には分かりにくいかと思いますので、以下のとおり、「遺言書」や「契約書」という表現で説明したいと思います。
遺贈 ⇒ 遺言書を書くこと
死因贈与契約 ⇒ 契約書を作ること
なお、死因贈与契約については、必ずしも「契約書」がなくても、「契約」すること自体は可能ですが、後述のとおり、死因贈与契約が存在することを客観的に明らかにするため、本件のような場合では「契約書」の作成が必須となります。そのため、死因贈与契約については、「契約書を作ること」という形で表現します。
では、何故、遺言書や契約書が「カギ」となるのでしょうか。
それには、以下の二つの理由があるといえます。
例えば、「●●銀行●●支店の預金口座にある残高を全部引き渡す」といった約束をしたとしても、遺言書や契約書がなければ、原則としてこれらの財産の引き渡しを受けることができません。
「私は、生前、故人との間で●●支店の預金口座をもらい受ける口約束をしていました」等と銀行に主張しても、門前払いをされるだけでしょう。
亡くなった人の預金口座からお金を受け取るためには、遺言書や契約書が必要となります(なお、その他様々な書類を要求されるため、手続は非常に大変です)。
このように、引渡しを受ける財産によっては、第三者との間で手続きを行う必要がある場合があり、その際には、遺言書や契約書といった客観的な証拠となる書面が必要となります。
現在の飼い主から引き継ぎを頼まれた第三者の人(後継の飼い主)が、事実上、ペットや財産を譲り受けたとしても、その後、遺族等から「ペットや財産を引き渡せ(返せ)」等といった要求(クレーム)を受ける可能性があります。
特に、後継の飼い主へ渡される財産が多額であったり、このような取り決めの存在自体を遺族(相続人)が知らなかったりした場合には、遺族(相続人)から「財産を返せ」等と文句を言われてしまうリスクがあります。
しかし、このような場合にでも、遺言書や契約書といった客観的な「証拠」があれば、後継の飼い主から遺族に対して、「法律上」も問題がないと反論することが可能です。
そのため、しっかりとした遺言書や契約書を準備しておくことが必要です。
もちろん、善意で対応してくれる後継の飼い主をトラブルに巻き込まないよう、生前から遺族に対し、しっかり説明の上、合意をとっておくとよいでしょう。
遺言書と契約書については、トラブル防止の観点から、公証役場において、「公正証書」として作成してもらう形が望ましいでしょう。公証役場については、日本公証人連合会のWEBサイトで全国各地にある公証役場を検索することができます。
遺言書については、自分で作成する「自筆証書遺言」でもよいのですが、ちょっとしたミスでも、想定していなかったトラブルが発生し、最悪の場合、無効になる等というリスクもあります。また、遺族から「偽造だ」等と、後継の飼い主がトラブルに巻き込まれるリスクもあります。
そのため、専門家である公証人に作成してもらう「公正証書」の形が望ましいといえます。
一方で、死因贈与に関する契約書についても同様のリスクがあるため、「公正証書」による作成が望ましいといえます。
なお、法的な書面を作成する際、公証役場は非常に便利です。是非、積極的に活用するとよいでしょう。
では、遺言書と契約書、どちらを作ればよいのでしょうか。
結論から言えば、双方ともに、目的を達成する手段としては大きな差異はなく、どちらでも構いません。
なお、契約書を作成する場合(死因贈与の場合)には、「契約」であるため、後継の飼い主側から一方的に変更・撤回することはできない点が(遺言書の場合には、後継の飼い主において拒否することが可能とされています)、両制度の法的な拘束力の違いとして説明されることがあります。
しかし、気が変わり、もはやペットを飼育する気がなくなった人に財産を渡したい人はいないかと思いますので、「拘束力」を持たせること自体に、あまり大きな意味はないものといえるでしょう。もちろん、有無を言わさず、ペットの面倒を見させるために、拘束力を持たせたいと考える場合は別ですが……。
そうはいっても心配、という方は、以下を参考にされるとよいでしょう。
1人でも相続人がいる場合には、手段としては基本的には遺言書を選択されるとよろしいでしょう。なお、その際は、「後継の飼い主」へ引渡しをする財産以外の財産の処遇についても、一緒に遺言書にまとめておくとよいでしょう。
一方で、相続人がいない場合には、契約書を作成する形でよいでしょう。
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相続の相談が出来る弁護士を探すペットの面倒をみてもらう代わりに財産を渡す旨の遺言書を作る場合、以下のような流れで対応するとよいでしょう。
まず、以下の事項につき、方針を決定します。
❶ペットの引渡しの5W1H
❷ペットの飼育方法(通常時ケアから緊急時ケア、介護ケア、死亡時ケアまで)
❸後継の飼い主へ譲渡する財産の内容とその引渡し方法
❹その他
❶~❷については、前回の記事をご参照ください。
<❸について>
後継の飼い主へ譲渡する財産の内容とともに、その引渡し方法を検討する必要があります。なお、遺言書においては、死後、遺言の内容を実現するために、「遺言執行者」を指定することができます。
適切な遺言執行者を指定することにより、ペットや財産の引渡しをスムーズに行うことが可能となります。
<❹について>
相続人が複数名いる場合や、相続人以外の第三者へペットと共に財産を引き渡す場合には、他の相続人との調整が問題となります。
仮に、後継の飼い主となる人物に全財産を渡す場合には、よほどの事情等がない限り、他の相続人は納得しないでしょう。全財産とまでは言わないまでも、多額の財産を渡す場合には、そのことをよく思わない相続人は少なくないはずです。
そのため、他の相続人への分配についても合わせて検討しておく必要があります。なお、民法上、遺留分という制度がある点に注意が必要です。遺留分とは、各相続人に法律で保障されている最低限の取り分のことで、この取り分に満たない場合には、差額分に関する金銭の支払いを請求することができます。
上記方針を決定したら、相続人となる遺族において、上記方針を伝えるとともに、「後継の飼い主」としてお願いする予定の人物への打診を行います。
遺族については、特に、上記の❹のとの関係で、死後にトラブルとならないよう、しっかりと説明して納得してもらう必要があります。
また、後継の飼い主についても、上記の❶~❹についてしっかりと説明を行い、事前に合意を取っておく必要があります。なお、法的には、合意がなくても遺言書を書くことはできますが、生前から合意を取っておくのがマナーでしょう。
なお、遺言執行者を指定する場合には、お願いする人物にも生前から合意を取っておくとよいでしょう。ただ、相続に関する手続は非常に面倒なケースが多いため、弁護士等の専門家に依頼することをお勧めします。
方針を決定し、家族会議で相続人間の合意を取った後は、自宅等に近い公証役場へ連絡を行い、遺言書作成を依頼します。
その際は、「ペットの面倒を見てもらう代わりに財産を渡す(負担付遺贈)」旨の遺言を作成したいと伝えるとスムーズです。基本的には、公証役場の公証人の先生から、「誰に」「どんな財産を」「どのような負担をつけて」渡したいのか等を確認されますので、上記「1.方針決定」で示したものに沿って、具体的な内容を伝えるとよいでしょう。
なお、遺言書の作成においては、印鑑証明書や戸籍謄本等の書類が必要となりますので、必要書類を確認し、遺言書作成日までに適宜準備する必要があります。
公証人に遺言書のドラフトを作成してもらい、問題がなければ、実際に作成手続を行うこととなります。
公証役場で作成する「公正証書遺言」については、作成時に証人が2名同席することが義務付けられているため、作成時に証人2人を連れて行くか、公証役場に別途用意してもらう必要があります(別途日当が発生します)。なお、相続人となる家族等は証人とはなれない点に注意が必要です。
遺言書の作成手続が終わると、公証役場から、遺言書の正本・謄本が手渡されますので、遺言執行者等しかるべき人物に保管してもらうとよいでしょう。
ペットの面倒をみてもらう代わりに財産を渡す旨の遺言書を作る場合、以下のような流れで対応するとよいでしょう。なお、以下では、相続人がいない場合を想定しています。仮に相続人がいる場合には、上記「遺言書作成」の流れと同様に対応するとよいでしょう。
まず、以下の事項につき、方針を決定します。
❶ペットの引渡しの5W1H
❷ペットの飼育方法(通常時ケアから緊急時ケア、介護ケア、死亡時ケアまで)
❸後継の飼い主へ譲渡する財産の内容とその引渡し方法
❹その他
❶~❷について
前回の記事をご参照ください。
❸について
後継の飼い主へ譲渡する財産の内容とともに、その引渡し方法を検討する必要があります。なお、死因贈与契約書においては、死後、契約内容を実現するために、遺言の場合と同様、「死因贈与執行者」を指定することができます。
❹について
相続人がいない場合には、ペットの面倒以外にも、自身の死後の事務処理(葬儀等)をお願いするケースがあります。このような死後の事務処理も依頼する場合には、別途、どのようにしてもらいたいのかについても合わせて検討する必要があります。
贈与をする相手に対し、上記❶~❹についてしっかりと説明を行い、負担付死因贈与契約の締結をお願いすることとなります。ペットの面倒のほかに、死後の事務処理等も依頼する場合には、綿密な打ち合わせが必要となります。
方針を決定し、相手方に合意を取った後は、自宅等に近い公証役場へ連絡を行い、契約書作成を依頼します。
その際は、「ペットの面倒を見てもらう代わりに財産を渡す(負担付死因贈与契約)」旨の契約書を作成したいと伝えるとスムーズです。基本的には、公証役場の公証人の先生から、「誰に」「どんな財産を」「どのような負担をつけて」渡したいのか等を確認されますので、上記の方針に沿って、具体的な内容を伝えるとよいでしょう。
なお、契約書作成においては、印鑑証明書等の書類が必要となりますので、必要書類を確認し、契約書作成日までに適宜準備する必要があります。
公証役場で契約書のドラフトを作成してもらい、贈与をする相手方にも確認をしてもらった上で、問題がなければ、実際に契約書作成手続(締結手続)を行うこととなります。
基本的には、ご自身と贈与する相手方とでスケジュール調整を行い、公証役場に同行し、契約書面を作成してもらうこととなります。
遺言書と契約書の作成手続における、一番大きな違いは、作成当日の参加者です。
遺言書は、作成手続において、証人が2名必要となりますが、相続人となる遺族や遺言により財産をもらうことになる人物については証人となれず、原則として同席は認められません。
一方で、死因贈与契約においては、贈与を受ける後継の飼い主が同席しなくては「契約」になりませんので、同席が必須となります。
昨今では、今回の記事のような場合に民事信託制度を利用するケースも増えてきているようです。細かい説明は割愛しますが、民事信託制度では、上記二つの制度とは異なり、財産を毎月分割払いにて渡すことができる等、より細かな仕組みを設計することが可能となります。ただし、上記二つの制度よりも費用がかかるため、コストパフォーマンスを考えながら、利用する制度を選択するとよいでしょう。
こちらのコラムでは引き続き、もめない相続のために必要な知識や対策をわかりやすく読み解いていきます。
(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)