目次

  1. 1. 「高齢のおひとりさま」飼い主の不安
  2. 2. そもそも故人のペットを引き渡すのは可能なのか
  3. 3. 「ペットの引き渡し」の5W1H
    1. 3-1. 〈引き渡しの方法〉
  4. 4. 飼い主の状況別に、とるべき手続きを紹介
    1. 4-1. ケース1:相続人がいる、おひとりさまの場合
    2. 4-2. ケース2:相続人がいない、おひとりさまの場合
    3. 4-3. ケース3:おひとりさまでない場合
  5. 5. 費用についても見積もった上で依頼を

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こんにちは、終活弁護士の伊勢田篤史です。

さて、前回は「兄弟姉妹」の相続についてお話をしました。今回はペットがいる方の相続をついてお話したいと思います。

内閣府の世論調査(平成22年9月調査)によると、60代でペットを飼っている方は36.4%、70代では24.1%となっています。

自分にもしものことがあったら、「大切なペット」はどうなるの、と心配される方も多いのではないでしょうか。特に、「おひとりさま」でペットを飼われている方の不安は強いように思います。

「私の財産をすべてペットに渡したい」、と真剣に考える人もいらっしゃるかと思いますが、残念ながら、日本の民法上、ペットである動物に財産を相続させることはできません。

しかし、ご自身の財産をペットに渡すことはできなくても、ご自身の財産をペットの飼育のために使ってもらうことはできます。

今日は、ご自身の財産をペットの飼育に使ってもらうために、どのような対応策が考えられるのかについて、その一歩目から順を追ってお話したいと思います。

「自分の死後にペットをどうするか」というお話では、よく「負担付遺贈」や「負担付死因贈与」という話になります。こちらは、要するに、「自分の財産を差し上げますから、その代わりペットを飼育してくださいね」というものとなります。

もちろん、このような法的な対応は必要となります。しかし、このような法律が云々というお話よりも、もっと重要で先に考えなければならない問題があります。

それは、「ペット自体の引き渡し」という事務手続き的な問題です。

たとえ、上記のような対応を行ったとしても、家に残されたペット自体が速やかに引き渡されなければ飼育のしようがありません。特に、いわゆる「おひとりさま」の場合には、実際に、いかにしてペットや財産の引き渡しを行うか考えなくてはなりません。

「何言っているんだ、そのための負担付遺贈や負担付死因贈与じゃないか」と思われるかもしれませんが、ペットの飼育をお願いした人が気がついた時に、既にペットが息絶えていたら、どうしようもないですね。

ペットは、きちんとした管理下のもとで飼育されなければ、最悪の場合死んでしまいます。そのため、自分自身に万が一のことがあったとしても、速やかにペット自体の引き渡しとともにペットの管理の引き継ぎができるようにしておかなければなりません。

自分が亡くなったと同時に、都合良くペット自身が「飼育をお願いした人」のところへ移動してくれることはありません(猫はあるのかもしれませんが)。

そのため、どのような形であれ、「人」が、ペットを「飼育をお願いした人」に引き渡さなければなりません。

以下の通り5W1H式に、引き渡しというファーストステップを考える必要があります。

(1)誰が、誰にペット自体の引き渡しをするか

「飼育をお願いした人」が、自分の死後にペットのいる自宅に立ち入って、ペットを引き取ることができる状況にない限り、誰かが、ペットを「飼育をお願いした人」へ引き渡す必要があります。

そのため、「誰に飼育をお願いするか」、とともに、誰が、その人へ、ペットの引き渡しを行うかについても考えなくてはなりません。

なお、当然ですが、生前から両者に対し、説明の上了承してもらう必要があります。「勝手にやってくれるだろう」というのは、通用しません。

また、ペットとの相性もありますので、「飼育をお願いした人」との時間を意識的に作っておく必要があります。

(2)いつ、ペット自体の引き渡しをするか

死ぬまで、ペットと一緒に居たいと思われる方も多いかと思いますが、自宅での「孤独死」の場合、ペットも当然危険にさらされます。

そのため、できる限りは生前にペット自体の引き渡しをする形が望ましいでしょう。

なお、財産については、生前に負担付贈与することも可能です。

(3)どこで、ペット自体の引き渡しをするか

「誰が」ペットの引き渡しをするのか、にも関連しますが、「どこで」ペットの引き渡しをするのか、についても考えなくてはなりません。

場所が決まっていない場合には、「飼育をお願いした人」と「ペットの引き渡しをする人」との間で協議する必要がありますので、双方がお互いの連絡先を交換していなければなりません。

(4)どのように、ペット自体の引き渡しをするか

最後に、具体的にどのようにペット自体の引き渡しを行うのかどうかについても決めておかなければなりません。特に、自分がこうなったときには、こうする等といった場合分けをしながら、検討するとよいでしょう。

(5)ペットの引き渡しの際、何を引き渡すか

ペットとともに、どのような物(ボールなどおもちゃをはじめ、リード等の普段使用しているもの等が考えられます)を、「飼育をお願いした人」に引き渡すかも考えなくてはなりません。

また、負担付遺贈や負担付死因贈与を利用する場合には、対象となる財産をいかに引き渡すかも検討しなければなりません。全くの善意でやってくれる人であればよいですが、そうでない限りは、ペットも頼まれた人も不幸です。

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では飼い主がいわゆる「おひとりさま」かどうか、「相続人」がいるかどうかを場合分けして、それぞれのアクションプランを考えてみましょう。

ちなみに、よく「おひとりさま」という言葉が多義的に使われますが、相続人が1人もいないというのは、実はレアケースです。実際は親族に相続人がいるにも関わらず、自分は身寄りがないから相続する人もいないと誤解されている方が少なからずいらっしゃいます。

端的にいえば、配偶者も、子ども(孫)も、両親等の直系尊属も、兄弟姉妹(その甥や姪)も、いない又は既に全員死別した状況でなければ、通常、相続人は1人以上いることになります。

1人でも相続人が存在する場合、ペットを含む飼い主の財産(日本の民法上、ペットは「物」として扱われます)については、相続人が相続することとなります。

ペットの飼育をご依頼される方が、相続人で、普段から近くにお住まいのよく事情を分かっている方であれば、上記(1)~(5)については、大きな問題にはなりにくいでしょう。

とはいえ、普段から近くにお住まいの親族となると、どうしても「甘え」が生じてします。ペットについても「きっと面倒を見てくれるに違いない」「あとは適当にやってくれる」と何も対策をしないと、死後、相続人間でペットの世話を押し付け合うことに発展する可能性があります。飼い主自身がペットを溺愛していても、同じくらいの愛情を親族が抱いてくれる保証はありません。

親族だからこそ、生前から引き渡し方法を含めた飼育方法、飼育するかわりに渡す財産の金額等を全相続人と共有し、相続人全員が合意の上でしかるべき法的な手続きを取る必要があります。

なお、相続人ではない第三者にペットの飼育をご依頼される場合には注意が必要です。上記(1)~(5)につき、相続人も含めてじっくりと協議する必要があります。
また、財産を渡す際にも、相続人とトラブルになるケースがあります。相続人とは音信不通だから問題ない、と思われる方がいるかと思いますが、「棚から牡丹餅。もらえるものは、もらう」と考える方も少なくありません。

本当に、相続人がいないという意味での「おひとりさま」の場合には、上記のように、財産の引き渡しについて、他の相続人が障害となることはありません。

しかし、ペットの飼育をご依頼される方が、相続人ではない第三者であるため、ご自身の死後に、ペットがいる部屋に立ち入ることができない可能性があります。

そのため「ペットの引き渡し」については、自分の死後の対応も含めて、明確に定めておく必要があります。特に、自分の死後、「誰が」部屋にいるペットを引き取り、「飼育をお願いした人」にどのように連絡をするか等については、具体的に決めておく必要があります。

様々なケースが考えられますが、夫婦でまだ配偶者がご存命のうちでも、どちらかが亡くなればおひとりさまとなります。まだ、おひとりさまでないうちから、将来おひとりさまになったときのことを考えて、万が一の場合の「ペットの引き渡し」について考えておく必要があるといえるでしょう。

ペットの引き渡し方法を考えたら、ペットの飼育方法についても、共有しておかなければなりません。通常時のケア(ペットフード、シャンプー、散歩、トリミング、予防接種等)から緊急時のケア(病院における緊急処置等)、年老いた時の介護ケア、死亡時のケア(埋葬等)等、あらゆることを「飼育をお願いした人」と協議の上で決定しておく必要があります。

これらをすべて書面に落とし込むことは難しいですが、エンディングノート等を活用し、何かあった時には、こうしてほしいという飼い主の意向を、「飼育をお願いした人」が把握できるよう対応する必要があります。

なお、これらの処置にかかる費用プラスαをきちんと算定した上で、「飼育をお願いした人」へ渡す必要がある点に注意が必要です。

熱い要望だけ伝える一方で、それに見合う財産を渡さない場合には、「飼育をお願いした人」へ適切な対応を期待することは難しいかもしれません。

以上前編では、「自分の死後にペットをどうするか」について、法律的な議論をする前に検討しておくべき項目について解説しました。

次回の後編は、これらの項目を検討した上で行うべき「負担付遺贈」や「負担付死因贈与」について解説したいと思います。

こちらのコラムでは引き続き、もめない相続のために必要な知識や対策をわかりやすく読み解いていきます。

(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)

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