目次

  1. 1. 断続的に続いていた兄姉への振り込み
  2. 2. 生前の経済的支援が「争続」の原因に

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心理学に「カインコンプレックス」という概念があります。
きょうだい間で起こる憎しみや嫉妬などの葛藤などを指します。
旧約聖書に記載された、兄弟間の憎しみによる殺人が語源になっているそうです。

かつて、兄カインと弟のアベルは神に収穫物を捧げました。ところが、神はアベルの捧げた羊に目を留め、カインの捧げた作物には目もくれませんでした。
怒ったカインはアベルを殺害したと伝えられています。

一般的に、幼少期は家族関係が生活の中心になるため、きょうだいは比較されやすい環境にあると言えるでしょう。
学力や運動神経、見た目などに差があった場合、親が特定の子に注目することで、残ったきょうだいは不満を抱きやすくなります。
愛情のバランスが崩れると、親に愛されていないと感じる子が、評価されている子に強い憎しみや嫉妬心を持ってしまうと言われています。

葛藤の裏には、親の愛情を独占したいという気持ちが潜んでいます。
「大切に扱われなかった」という思いが強い場合は、きょうだい間の関係に修復不能な亀裂が入ることもあります。

以前、円満に完了すると予想した遺産分割協議が、終了直前に白紙に戻った例がありました。

85歳の母親が亡くなり、相続人は同居していた65歳の長男、64歳の長女、55歳の二女の三人です。長女と二女は結婚して家を出て、隣接市町村に住んでいました。

相続財産は居住していた一軒家の土地建物と預金が1000万円ほど。
郊外にある不動産の価値はあまりなく、居住する長男以外は取得を希望しません。
残った預金も三等分したいという意向でしたので、早々に問題なく協議が終了すると考えていました。
遺産分割協議の終了後に不動産登記を行い、預金を分配して手続きが完了です。

ところが、この遺産分割協議はまとまらず、私は関与を終了することになりました。
遺産分割協議を前に、二女から書類へ押印しない旨の連絡がありました。

「うちの相続は、うまくいくはず」。そう思っている人が多いのではないでしょうか。しかし、相続人間のトラブルは残念ながら起きる可能性があります。関係が修復不可能となる前に弁護士を代理人に立てると、双方が冷静に話すきっかけにもなります。

事情を聞いてみたところ、通帳をさかのぼって確認した際に、長男と長女の口座への振込履歴が複数見つかったそうです。
10万円ほどのものから、50万円を超えるものもありました。
確認できた10年ほど前から、亡くなる直前まで振込は断続的に続いていました。その期間において、二女に対する振込は一度もなかったそうです。

「子どものころから二人はひいきされて、自分は可愛がられなかった」。電話越しに、二女の静かな怒りが伝わってきました。勉強ができた二人は親戚の中でも自慢の種で、平凡だった二女は肩身の狭い思いをしてきたそうです。

「苦しい思いをした分、もらうべきものはしっかりもらいたい」。そう主張する二女の声には、怒りに加えて悲しみと諦めが含まれているように感じられました。

この事例はフィクションですが、愛情のバランスが崩れた場合、きょうだいの関係に亀裂が入りやすいことは冒頭に述べたとおりです。

民法903条1項は、いわゆる「特別受益」について次のように規定しています。

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

相続人間の平等を守るために、財産の分配を調整する制度です。
本事例では、特別受益を受けなかった相続人は、この規定に沿った主張を行うことで、取得財産を増やせる可能性があります。

きょうだいに差をつけることは、関係に亀裂を生じさせ、「争続」の原因になりかねません。事情がある場合でも、なるべく説明を尽くすなど、全員が納得できるように配慮したほうがよいでしょう。

(記事は2020年3月1日時点の情報に基づいています)

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