目次

  1. 1. 一人暮らしの母の面倒を見ていた叔父
  2. 2. 運転しない母の遺品にガソリン代のレシート
  3. 3. 善意の行動がトラブルの元にも

「金の切れ目が縁の切れ目」ということわざは誰でも聞いたことがあるでしょう。遊女と客の金銭を介して成り立つ関係が語源という説があるそうです。ほかにも、「時は金なり」「一銭を笑う者は一銭に泣く」など、お金に関する多くのことわざや慣用句が、古くから現代まで伝わっています。

お金に関するトラブルは誰でもなるべく避けたいものです。家族や親せきなどの親しい関係であればなおさらです。トラブルをきっかけとして、関係にヒビが入ることもよくあります。

善意で行動したことでトラブルを生んでしまった事例を紹介します。

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ある夏の日の夕方、事前予約なく事務所に女性が訪れました。女性は40代くらいでしょうか。事情を聞くと、半年前に亡くなった女性の母の相続手続きをしたいとの相談です。
父はすでに亡くなっており、相続人は一人だけ。首都圏に住んでおり、手続きのために帰郷したということで、不安そうな表情です。

女性の母は介護施設への入所を嫌がり、亡くなるまで自宅で生活していました。
認知症との診断は受けていませんでしたが、加齢に伴って足腰は弱くなり、耳も遠くなっていました。

女性は母の面倒を見られないため、通院の付き添いや買い物など、日々の暮らしは近くに住む母の弟、女性にとっては叔父がしていたそうです。上場株式、預貯金、居住していた不動産などの相続財産がありましたが、合算しても相続税の基礎控除額を超えないことは明らかでした。

相続税の申告は必要ないことを説明し、相続登記を受任して相談は終了だろう、そう思ったところで雲行きが怪しくなりました。

「使い込まれた金額を取り返したいので方法を教えてほしい」。

そういうと、女性は通帳とレシートの束を取り出しました。聞くと、叔父が勝手に預金を使い込み、相続財産が減ったといいます。

母名義の通帳には出金のたびに内容が細かく記録してあります。内容によっては弁護士に依頼しなければならないことを伝えて、資料を見てみました。

レシートは日付順に整理されており、通帳の出金額とほぼ一致しています。通帳には小さいノートが挟んであり、資金収支の内容が整理してありました。病院への支払い、スーパーでの食品購入、ガソリン代などです。

数カ月分を見たところで、特に不自然な支出はないように思います。
そう伝えると、女性の顔色が変わりました。

「きちんと見てほしい。おかしい支出がある」。

運転しない母がガソリン代を出すのはおかしい、食費も一人にしては多すぎる。叔父にとって母は姉であり、近所に住んでいるから面倒を見るのは当然。母の生活以外に使ったお金はすべて返却してほしい。

要約するとそのような内容でした。
口数が少ない叔父とはあまり話をしたことがなく、母が実質的に介護されている間も、連絡を取ることはなかったそうです。

使い込みがあるように見えないこと、女性の母が自分の意志で支払った可能性もあることを説明しましたが、女性は納得しません。
女性は徐々に興奮して早口になり、ついに、「裁判をする、話にならない」と言い残して席を立ちました。

これは、私が経験した事例などを大幅に改変し、脚色したものです。ですが、類似の相談は年に数回あります。

善意で行動しても、結果としてトラブルに巻き込まれることもあります。
コミュニケーションが不足すると、あらぬ疑いをかけられてしまうこともあるかもしれかません。

状況に応じて、成年後見制度の利用を検討したり、家族信託契約を結んだりするなど、各種法制度の利用を検討してもよいでしょう。

(記事は2020年3月1日時点の情報に基づいています)

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