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1. 父の遺産を母が独り占めできるケース
父母と子がいる家族で父が死亡した場合、父の遺産を母が独り占めできるかどうかは、状況によって結論が異なります。以下、状況を分けて解説します。
1-1.母に全財産を相続させる内容の遺言書がある場合
父が「全財産を妻(母)に相続させる」という内容の遺言書を残していた場合、原則として母が父の遺産を独り占めすることが可能です。相続では亡くなった人(被相続人)の意思が尊重されるため、遺言に書かれた内容は法で定められた相続分(法定相続分)よりも優先されるためです。
ただし、子は、母に対して、遺留分侵害額請求をすることが可能です。「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に法律で保障された最低限の遺産の取り分です。この権利は遺言であっても奪えません。
そのため、「全財産を妻(母)に相続させる」という内容の遺言書があったとしても、子は母に対して、侵害された遺留分に相当する金銭を支払うよう請求することは可能です。
1-2. 相続人全員が合意した場合
父の遺言書がない場合、相続人全員(このケースの場合、母と子)で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めることになります。遺産の分け方は自由ですので、「父の遺産は母がすべて相続する」と合意することもでき、その場合、母が父の遺産を独り占めすることができます。
なお、遺言書があったとしても、相続人全員の合意で遺言書の内容と異なる遺産の分け方をすることもできます。たとえば、「遺産の2分の1を妻(母)に、2分の1を子に相続させる」という内容の遺言書があっても、母と子で「父の遺産は母がすべて相続する」と合意することもできます。
2. 母が父の遺産を独り占めできないケース
遺言書も相続人全員の合意もない場合、父の遺産は原則として法定相続人が法定相続分に沿って相続します。具体的には、母と子がいる場合、母と子が2分の1ずつの割合で相続します。つまり、このような場合、子にも父の遺産を相続する権利がありますので、母は父の遺産を独り占めすることができません。
それにもかかわらず、母が父の預貯金から勝手にお金を引き出して使ってしまった場合、子は母に対して、民法上の「不当利得」や「不法行為」といった根拠に基づいて自分の法定相続分を返すように請求できる可能性があります。
3. 父の遺産を母が独り占めしたことに納得できないときの対処法
父の遺産を母が独り占めしていることに子が納得できない場合にどのように対処したらよいか、遺言書の有無や遺言書の有効性を争うかなどの事情に応じて、代表的な対処法を解説します。
ただし、実際のどのような対処法が望ましいかは個別的な事情にもよりますので、弁護士に相談した上で対処することをおすすめします。
3-1. 全財産を母に相続させる内容の遺言書の有効性を争う場合|遺言無効の主張
よくあるのは、父が遺言書を作成した当時、認知症などで遺言書を作成できるだけの判断能力(遺言能力)がなかったため遺言は無効であると主張するケースです。
交渉から開始するのが一般的ですが、遺言能力の有無の判断は微妙になることが多いうえ、相続人間で感情的な対立があることから、話し合いで決着しない事例が多いです。その場合は、裁判所に遺言無効確認請求訴訟を提起して解決を図ることになります。
ただし、遺言能力を否定するハードルは一般的に高く、やみくもに訴訟を提起しても敗訴してしまう可能性が高いです。そのため、遺言書が作成された当時の病院のカルテや介護事業者のサービス提供記録などの資料を事前に収集することが大切です。これらの資料の内容を検討し、無効主張をして交渉や訴訟を進めていくか、または無効主張を断念して遺留分侵害額請求をするにとどめるかなどの方針を決定することが一般的です。
遺言が無効となった場合、遺言はなかったことになりますので、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めることになります。
なお、遺言の無効を争うとしても、予備的に遺留分侵害額請求権を行使しておくことが大切です。遺留分侵害額請求権には行使できる期限(時効)があるため、遺言の無効が認められなかった場合に、遺留分すら請求できないといった事態が生じてしまうおそれがあるからです。
3-2. 全財産を母に相続させる内容の遺言書の有効性を争わない場合|遺留分侵害額請求
「全財産を妻(母)に相続させる」という遺言書があり、その有効性を争わない場合、母に対して遺留分侵害額請求をするのが一般的です。
子には「遺留分」という最低限の遺産を受け取る権利が法律で保障されているので、遺言書によって遺留分が侵害されている(遺留分より少ない額の遺産を相続するよう記載されている)場合、子は母に対して遺留分に相当する金銭を支払うよう請求できます。
たとえば、相続人が母、子2人(長男・長女)の場合、子はそれぞれ8分の1ずつの遺留分があります。そのため、遺産が8000万円の場合、基本的に長男と長女は遺留分としてそれぞれ母に対して1000万円ずつ請求することができます。ただし、具体的に遺留分としてどれだけ請求できるかは生前に父から子に贈与がされていたかなどの事情により異なります。
話し合いで解決しない場合は、裁判所に遺留分侵害額請求調停や訴訟を提起して解決を図ることになります。
注意点は、遺留分侵害額請求権は、相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを知ってから1年の間に行使しないと時効により消滅してしまうことです。そのため、時効で権利が消滅しないように、配達証明付内容証明郵便などで、母に対して下記の事項を記載した通知書を送りましょう。
- 請求をする本人と相手方
- 請求の対象となる遺贈、贈与、遺言の特定
- 遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する旨
- 請求の日時
配達証明付内容証明郵便にする理由は、後に「そもそも通知書なんて届いていない」「遺留分侵害額請求を行使するなど書いてなかった」などと争いとなった場合に証拠として使えるからです。配達証明を付けることで、通知書が母に届いたことを証明できます。また、内容証明を付けることで、通知書が遺留分侵害額請求権を行使する内容であったことを証明できます。
3-3. 遺言書がない場合|不当利得や不法行為に基づく請求・遺産分割
遺言書がない場合、父の遺産は母と子の共有になりますので、母が勝手に預貯金を使い込んでいる場合は、民法上の「不当利得」や「不法行為」を根拠にして返還を求めます。
話し合いで解決しない場合は、裁判所に不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起して解決を図ることになります。
また、近年相続法が改正され、被相続人の死後、遺産分割前に預貯金が使い込まれた場合であっても、共同相続人全員の同意がある場合には、使い込まれた預貯金も遺産分割の対象にできるようになりました(民法906条の2)。そのため、遺産分割の問題として解決を図ることも考えられます。
いずれにしても、返還を求めるにあたっては、まずお金の動きを証拠に基づいて明らかにすることが大切です。具体的には、金融機関から口座の取引履歴の開示を受け、その情報をもとに出金した日時や金額、振込先などの情報を整理します。その結果、母による使い込みが疑われる場合、その分を返還するように請求します。
3-4. 弁護士のサポートを受ける
相続争いを当事者だけで解決することは困難なことが多いです。一人で抱え込んでしまうと、思い悩んでしまいがちですので、早めに専門性のある弁護士に相談して、解決を依頼することが望ましいでしょう。
弁護士は、専門的な知識や経験に基づいて、依頼者の言い分を法律や裁判例に沿う形で説得的にまとめてくれますし、主張の裏づけに必要な証拠集めもサポートしてくれます。また、ほかの相続人にどういった提案をすべきか、どこまで妥協すべきかなど、状況に応じて適切な助言もしてくれます。
また、弁護士が窓口になることによって心理的なストレスから解放されることも大きなメリットでしょう。私が依頼を受ける際も「直接ほかの相続人とやり取りをせずに済むようになるだけでも気が楽になってありがたい」と言っていただくことは多いです。
4. 母による父の遺産の使い込みを防ぐための事前対策
父の預貯金を独り占めしようとした母が、子にバレないように預貯金を使い込んでしまうケースがあります。遺産の使い込みがあった場合、法律上は、返還を求める権利があります。しかし、実際にそれを取り戻すためには証拠集めや訴訟対応などで多大な労力を要するうえ、証拠が不十分であったり既に母に資金がなかったりして取り戻すことができないという事態もあり得ます。そのため、そもそも使い込みができないように事前に対策しておくことが大切です。
たとえば、預貯金であれば、金融機関に対して名義人である父の死亡を届け出ることで口座を凍結することが可能です。凍結された口座からは出金することができませんので、使い込みを防止することができます。また、口座の存在を隠されることもありますので、口座隠しが疑われる場合はしっかり調査することが大切です。
5. 父の遺産を一旦母がすべて相続する場合の注意点
5-1. 二次相続とは?
一般的に、ある人が亡くなった際の相続を「一次相続」、一次相続での相続人が亡くなった際の相続を「二次相続」といいます。たとえば、父、母、長男、長女という4人家族において父→母の順番で亡くなった場合、父の遺産を相続することを一次相続、母の遺産を相続することを二次相続といいます。
5-2. 二次相続における相続税に要注意
一次相続では、残された配偶者の生活を保障するために、配偶者が遺産の多くを相続するケースが散見されます。
しかし、一次相続の段階で配偶者に遺産の多くを相続させると、その配偶者が亡くなった際の二次相続での相続税が高額となり、トータルでの税負担が増えてしまうことがありますので注意が必要です。二次相続においては、下記のような理由で相続税の課税対象額が増え、子の相続税の負担が大きくなりがちです。
【相続税の基礎控除額が減る】
相続税の基礎控除額とは、すべての相続において適用できる控除のことで、3000万円+(法定相続人の数×600万円)で計算します。二次相続では一次相続よりも法定相続人の数が1人減りますので、この相続税の基礎控除額が600万円減ります。その結果、相続税の課税対象額が増えてしまいます。
【配偶者自身の財産が加算される】
二次相続では、一次相続で配偶者が取得した財産に、元々配偶者自身が保有していた財産が加算されます。そのため、二次相続における相続税の課税対象額は一次相続よりも増えてしまう可能性が高いです。
【相続税の配偶者控除が適用できない】
相続税の配偶者控除とは、配偶者が相続した遺産のうち課税対象額が「1億6000万円」または「法定相続分」のどちらか多い方まで相続税がかからないという税額控除のことです。そのため、一次相続において配偶者に多くの遺産を相続させた場合、相続税がかからないことも少なくありません。
しかし、二次相続では子のみが相続人であり、この配偶者控除を適用できませんので、一次相続に比べて相続税が高くなりやすいといえます。
5-3. 父の遺産を相続した母が認知症にかかるリスクにも要注意
母が認知症などになってしまい、預貯金の解約・払戻しや不動産売却ができなくなるケースも想定されます。このような場合、成年後見制度の利用を検討することになります。成年後見制度の利用に伴うデメリットがいくつかありますので、その辺りも考慮してどのように遺産を分けるかを決めるとよいでしょう。
6. 母による父の遺産の独り占めについて、弁護士に相談するメリット
6-1. 親子間の直接対立を避けられる
親子という近い関係だからこそ、お金の話は感情的になりがちです。
そこで、弁護士が代理人として間に入ることで、冷静な話し合いをすることができるようになります。依頼者の気持ちを汲み取りつつ、法律や裁判例に基づいた客観的な視点で交渉を進めてくれるため、感情的な衝突を最小限に抑えられます。
弁護士として私が担当したケースでも「当事者間では感情的になって冷静な話し合いができない」といった理由で依頼を受け、私が窓口となることで各相続人がお互いに冷静になって言い分を伝え合うことができ、譲歩し合って解決に至ることができたケースがよくあります。
6-2. 使い込みの証拠確保についてアドバイスを受けられる
「母が父の預金を使い込んでいるかもしれない」と疑いがあっても、それを証明する証拠がなければ、法的に追及するのは困難です。
弁護士に相談すれば、どのような証拠が必要か、その証拠をどうやって集めればよいかなど具体的なアドバイスを受けられます。そして、集めた証拠をもとに方針を立てたうえで、返還請求などの次のステップに進むことができます。
6-3. 法的手続きの対応を任せられる
話し合いで解決しない場合、裁判所での法的手続きが必要です。裁判期日は平日に行われますので、仕事などで出席する時間がとれない方も少なくありません。
また、特に訴訟では法律的にきちんとした主張や立証が求められます。そのため、法律や裁判例に関する十分な知識がなければ、対応が困難です
弁護士に依頼すれば、申立書や訴状などの裁判所に提出する書面の作成から裁判所への出廷など一連の手続きを任せることが可能です。専門的な知識や経験に基づいて依頼者の主張を法律や裁判例に沿う形で書面にまとめてくれます。
6-4. 税理士との連携で相続税・申告に対応
相続問題においては、相続税の申告という税金の問題も密接に関わってくるため、税理士との連携も重要です。相続に力を入れている弁護士は税理士と連携していることも多いので、税金面も含めてワンストップでの対応も期待できるでしょう。
7. 父の遺産を母が独り占めすることに関するよくある質問
Q. 母だけに預貯金などの管理を任せるのは危険?
父の口座から生活費を支出しているなどの理由で管理を任せざるを得ないこともありますが、特定の相続人に遺産管理を任せると遺産隠しや使い込みなどのリスクがありますので、できれば預貯金口座は凍結しておくことが望ましいでしょう。
Q. 父の遺産がどれくらいあるか分からない。調べる方法は?
遺産を調べる方法としては、各金融機関に預貯金額を照会する、市区町村役場から「名寄帳」を取得して不動産を確認する、有価証券について各証券会社に照会または証券保管振替機構(通称:ほふり)に開示請求する、信用情報機関(JICC・CIC・全銀協)に開示請求して借金を確認する、などがあります。弁護士に調査の代行を依頼することも可能です。
Q. 父の遺産を母がすべて相続することについて、子どもの間で意見が異なる場合はどうすべき?
直接の話し合いで解決が見込めない場合、弁護士に依頼するか、または家庭裁判所に遺産分割調停などを申し立てることが考えられます。
8. まとめ 母による遺産独り占めに納得いかない場合は弁護士に相談を
母が遺産を独り占めにしていることに納得がいかない場合の対処法は状況に応じてさまざまです。母が勝手に遺産を独り占めしているような場合、子自身から話し合いを持ちかけても上手くいかないケースがあるでしょう。
そのような場合、弁護士に依頼することで冷静に話し合いができ解決に至ることもありますし、解決に至らない場合も訴訟や調停といった法的手続きにスムーズに移行することができます。
当事者同士での解決が難しいと感じた場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
(記事は2025年11月1日時点の情報に基づいています)
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