目次

  1. 1. 遺言書が無効になる場合とは|事例や判例を紹介
    1. 1-1. 方式に不備がある場合
    2. 1-2. 内容が不明確な場合
    3. 1-3. 内容が公序良俗に違反している場合
    4. 1-4. 認知症など遺言能力がない状態で作成された場合
    5. 1-5. 錯誤、詐欺、強迫により遺言がなされた
    6. 1-6. 偽造された場合
  2. 2. 遺言書を勝手に開封したら無効になるのか?
  3. 3. 遺言書を無効にしたい場合に取るべき手続き
    1. 3-1. 交渉(遺産分割協議)
    2. 3-2. 調停
    3. 3-3. 訴訟
  4. 4. 遺言無効確認に時効はない
  5. 5. 遺言書の無効を申し立てる場合の費用
    1. 5-1. 裁判所に納める費用
    2. 5-2. 弁護士費用
  6. 6. 遺言無効と合わせて遺留分侵害額請求の意思表示をしておくべき
  7. 7. まとめ
遺言書が無効になる場合
遺言書が無効になる場合は主に6つ。方式に不備がある、内容が不明確、内容が公序良俗に違反しているといったケースでは無効と見なされます。

民法上の方式と異なる方式で作成された遺言は無効です(民法960条)。特に自筆証書遺言は、方式不備が原因で無効になってしまうことが少なくありません。自筆証書遺言の方式は下記のとおりです(民法968条1項)。

  • 全文の自書
  • 日付や氏名の自書
  • 押印

なお、平成31年1月13日施行の改正法によって、「全文の自書」の例外として、相続財産の全部または一部の目録(財産目録)を添付するときは、その目録は自書しなくても良いことになりました(民法968条2項)。なお、目録の毎葉に署名と押印が必要です。

遺言書には自筆証書遺言のほかに、公証人が作成し、原本は公証役場で保管される「公正証書遺言」、本人が署名・押印して作成した遺言書を封筒に入れてを封印して公証人及び証人2名の前に提出し、内容を誰にも知られないように作成する「秘密証書遺言」があります。

遺言書の3つの形式
遺言書の3つの形式を紹介。遺言書を作成すると、遺産の分け方を遺言をする本人が決められます

遺言書の内容が確定できない遺言は無効です。もっとも、遺言者の最終的な意思を尊重するため、できる限り有効となるように解釈がなされます。そのため、一見すると内容が不明確であっても、諸般の事情から遺言者の真意を解釈して内容を確定し、遺言を有効と判断する裁判例が少なくなりません。

公序良俗に反する内容の遺言は無効です(民法90条)。公序良俗違反として争われる代表例は不貞相手に遺贈する事例です。遺贈が不倫関係の維持や継続を目的としているといえるか、遺贈が相続人の与える影響などの諸事情を考慮して違反の有無が判断されます。

ただし、不倫相手へ遺贈する内容の遺言だからといって必ずしも無効と見なされるわけではなりません。ある裁判例(最高裁昭和61年11月20日判決)は、遺産の三分の一を包括遺贈する内容の遺言について、不倫な関係の維持継続を目的とせず、もっぱら生計を遺言者に頼っていた不貞相手の生活を保全するためにされたものというべきであり、また、遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえないとして、公序良俗に違反しないと判断しました。

遺言能力がない状態で作成された場合も無効です。代表例は、遺言当時に認知症であったことを理由に遺言能力を争うケースです。ただし、認知症であるからといって当然に遺言が無効になるわけではありません。認知症といっても症状の程度はさまざまですので、「認知症=遺言能力なし」とは断言できないからです。

遺言能力について民法上明確な定義は存在しませんが、抽象的には「遺言当時、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足る能力」などと言われるケースが多いです。遺言能力の有無は、遺言者の年齢や病状を含めた心身の状況、遺言時及びその前後の言動、遺言者と受贈者との関係、遺言の内容などの諸事情を総合的に考慮して判断されます。

錯誤、詐欺、強迫による遺言は取り消すことが可能です(民法95条、96条)。

実際の裁判例において問題となることが多いのは要素の認識違いなどによる錯誤ですが、認められるケースは非常に少ない印象です。錯誤を認めた珍しい裁判例としては、いわゆる付言事項には法的効力がないにもかかわらず、これを法的効力があるものと誤信していたことなどが錯誤にあたるとして、遺言の効力を否定したもの(さいたま地裁熊谷支部平成27年3月23日判決)があります。

詐欺や強迫は、すでに遺言者が亡くなっている以上、主張と立証が極めて困難であるため、問題となることは少ないと言えます。

偽造された遺言書は、当然「自書」ではないので、無効です。また、遺言書を偽造した人は、相続人となることができません(民法891条5号)。

封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができません(民法1004条3項)。ただし、勝手に開封しても無効になるわけではなく、5万円以下の過料に処されるにとどまります(同法1005条)。

遺言書の無効を主張する手続きは、交渉(遺産分割協議)、調停、訴訟の3つです。遺言書の方式による違いはなく、自筆証書、公正証書、秘密証書のいずれであっても同様です。

遺言書を無効にしたい場合に取るべき手続き
遺言書を無効にしたい場合に取るべき手続きの流れ。相続人や受遺者全員の合意があれば、交渉によって遺言と異なる方法で遺産分割を成立させることが可能です

相続人や受遺者全員の合意があれば、遺言と異なる方法で遺産分割を成立させることが可能です。裁判所での遺言無効確認請求調停や訴訟は時間や労力、費用がかかるため、まずは交渉から開始するのが良いでしょう。

交渉で合意ができなければ、調停や訴訟を検討します。調停や訴訟で争われることが多いのは遺言能力の有無です。相続人同士で「遺言能力に問題はない」「いや、認知症で遺言能力はなかった」などと争われます。

遺言無効確認事件については、裁判や訴訟を提起する前に調停を経る必要がある調停前置主義が採用されているため(家事事件手続法257条1項)、原則として訴訟よりも先に調停を申し立てなければなりません。調停では、調停委員が仲介者となって、相続人間での合意を模索します。ただし、合意成立の見込みがない場合には、最初から訴訟を提起することも認められます。

交渉や調停で合意ができなければ、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起します。調停は家庭裁判所ですが、訴訟は地方裁判所ですので注意してください。

訴訟では、原告と被告がお互いに主張や立証を重ねていき、これらが出揃った段階で、裁判官による判断がなされることになります。なお、訴訟の中で、お互いに譲歩し、和解という形で終了することもあります。

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遺言無効確認の調停申立てや訴訟提起には、特に時効は設けられていません。もっとも、遺産の散逸などを防ぐため、早めに対応すべきです。

調停や訴訟で遺言書の無効を申し立てる場合の費用は、大きく分けて、裁判所に納める費用と弁護士費用です。それぞれ解説します。

調停にかかる費用は、収入印紙1200円と郵便切手です。

訴訟にかかる費用は、収入印紙と郵便切手です。収入印紙の金額は遺言の内容や遺産の価額などの諸事情によって変わります。遺言が無効になることで増える遺産の金額を裁判所による手数料額早見表に当てはめることで大体の金額は算出できます。たとえば、遺言が無効になることで、取得できる遺産が2000万円増えるのであれば、8万円の収入印紙が必要ということです。ただし、実際は法律に基づく計算式に沿って算定する必要がありますので、事前に弁護士に相談しておくと良いでしょう。

なお、郵便切手は裁判所によって異なりますので、管轄の裁判所のホームページなどを確認してください。

調停や訴訟を依頼する場合にかかる弁護士費用は弁護士によって異なりますが、「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」に従い、遺言が無効とされた場合に得られる経済的利益(遺産)を基準にすることが多いと言えます。他方、同基準に従うと、弁護士費用が高額になることも多いため、着手金を固定金額にするなど異なる費用体系を採用する弁護士もいます。

たとえば、同基準に従うと、得られる遺産が1500万円の場合、着手金は84万円、報酬金は168万円になります。控訴審や上告審、遺産分割調停や審判と手続きが移行した場合には、その都度、追加で費用が発生します。

弁護士費用の着手金の目安
弁護士費用の着手金の目安の一覧。具体的な費用は弁護士によって異なりますので、事前に見積りを取得することをお勧めします
弁護士費用の成功報酬の目安
弁護士費用の成功報酬の目安の一覧。調停や審判が終了した時点で成果に応じて発生するのが報酬金です

遺留分侵害額請求とは、被相続人(亡くなった人)が「一定範囲の相続人に認められる最低限度の遺産取得割合」である遺留分を侵害するような遺贈などをした場合に、財産をもらった人に対して自己の遺留分に相当する金銭の支払いを請求することです。

この権利は、相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを遺留分権利者が知ってから1年の間に行使しないと時効により消滅してしまいます。

そのため、遺言によって遺留分が侵害されている場合は、遺留分侵害額請求権の時効を止めるため、遺言の無効を主張しつつも、予備的に遺言の有効性を認めたうえで遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが大切です。こうしておくことで、仮に訴訟で遺言の無効が認められなかった場合でも、その後に遺留分に相当する金銭の支払いを請求することが可能です。

なお、少し複雑なのですが、遺留分侵害額請求権を行使したことで発生する金銭支払請求権は、遺留分侵害額請求権とは別の権利として、5年で時効にかかってしまうので、注意してください。

遺言の無効を主張する場合、当事者間に感情的な対立があることが多く、お互い譲らずに調停や訴訟に至るケースは少なくありません。調停や訴訟に至る場合、遺言能力に関する資料収集など事前の準備が非常に重要になってきます。また、遺言の有効性に決着がついても、その後には遺産分割や遺留分侵害額請求の問題を解決しなければなりません。

このように、最終的な解決までには相当な時間や労力、費用を要しますので、早めに弁護士に相談することをお勧めします。もし遺言書を無効にしたい状況になった場合、「相続会議」の弁護士検索サービスをぜひご活用ください。無料相談対応事務所も多数掲載しています。

(記事は2023年1月1日時点の情報に基づいています)