目次

  1. 1. 遺産隠し(財産隠し)が疑われるケース
  2. 2. 遺産隠しについて調査する方法
    1. 2-1. 遺産隠しが疑われる相続人に確認する
    2. 2-2. 預貯金を調査する
    3. 2-3. 不動産を調査する
    4. 2-4. 裁判手続きを通じた方法をとる
  3. 3. 隠された遺産が見つかったらどうすべき?
    1. 3-1. 遺産分割協議を取り消す
    2. 3-2. 相続税の修正申告をする
    3. 3-3. 遺産がすでに使い込まれていた場合
    4. 3-4. 横領罪や窃盗罪で刑事告訴する
  4. 4. 遺産隠しの対応について弁護士に依頼するメリット
    1. 4-1. 弁護士会照会ができる
    2. 4-2. 遺産隠しの疑いがある相続人との交渉を任せられる
    3. 4-3. 調停や訴訟の対応を任せられる
    4. 4-4. 精神的な負担が軽減される
  5. 5. 遺産隠しの調査に関する弁護士費用はいくら?
  6. 6. 遺産隠しに関してよくある質問
  7. 7. まとめ|遺産隠しが疑われる場合は弁護士に相談を

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遺産隠しは、一部の相続人が被相続人(以下「亡くなった人」)の財産を隠す行為で、相続人の一人が亡くなった人と同居していて、財産管理などをしていた場合におきがちです。

遺産隠しが疑われるケースとして、たとえば、次のようなものがあります。

  • 亡くなった人が生前話していた財産と実際の遺産に大きな相違がある
  • 相続人の一人が亡くなった人名義の預貯金を無断で引き出した形跡がある
  • 亡くなった人の財産を管理していた相続人が遺産の詳細を明らかにしない

このような状況に気づいたら、財産の種類や金額を調べ、遺産を隠していた事実をつかむ必要があります。

遺産隠しについて調査する方法には、主に下記の4つが挙げられます

  • 遺産隠しが疑われる相続人に確認する
  • 預貯金を調査する
  • 不動産を調査する
  • 裁判手続きを通じた方法をとる

まずは、遺産隠しが疑われる相続人に確認してみることが考えられます。併せて、相続によって財産を取得した際に税務署に提出した相続税申告書の開示を求めてもよいでしょう。

ただし、相続人にはほかの相続人に対して遺産を開示すべき法律上の義務はありません。なお、相続人が遺言執行者に就任した場合には、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、ほかの相続人に交付しなければならないこととされています(民法1011条1項)。

相続人は、金融機関に対し、亡くなった人の預貯金口座の残高証明書や取引履歴の交付を請求することが可能です。

ただし、亡くなった人が保有していた預貯金口座を一括して把握する手続きはなく、各金融機関に個別に請求をかける必要があります。

亡くなった人の使っていた金融機関がわからない場合には、その人の生活圏内の金融機関やメガバンクなど、金融機関のあたりをつけて照会をかけることになります。

照会をかける金融機関が決まったら、まずは亡くなった日の残高証明書の交付を請求しましょう。残高証明書とは、特定の日付における預貯金口座の残高を証明する書面のことです。

また、ほかの相続人が亡くなった人の預貯金を引き出したことが疑われる場合は、取引履歴の交付を請求するとよいでしょう。取引履歴とは、預貯金口座の過去の入出金の履歴が記載された書面のことです。

残高証明書や取引履歴の交付請求をする際には、「亡くなった人の戸籍謄本」、「請求をする人が相続人であることがわかる戸籍謄本」、「請求をする人の印鑑登録証明書」などが必要となります。

また、金融機関に手数料を支払う必要がありますが、その額は金融機関ごとに異なります。残高証明書や取引履歴の交付請求をする場合には、当該金融機関に事前に問い合わせたり、ホームページを確認したりして、必要書類や手数料などを確認しましょう。

不動産の所在地などに心当たりがある場合には、その不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することで所有者を確認することができます。

登記事項証明書は法務局の窓口や郵送などで請求することができ、インターネットを通じて登記情報を確認できる登記情報提供サービスもあります。

また、不動産がありそうな市区町村役場で「名寄帳(なよせちょう)」を取得する方法もあります。名寄帳とは、個人が市区町村内に所有している不動産をまとめた一覧表のことです。市区町村単位で作成されるため、市区町村ごとに確認する必要があります。

そのほか、亡くなった人宛てに郵送された固定資産税納税通知書を確認する方法もあります。

訴訟を提起して裁判所に文書送付嘱託などの申し立てを行うといった裁判手続きを通じた方法もあります。文書送付嘱託とは、裁判所を通じて、文書を所持している人に対して、その文書を送付するよう依頼する手続きのことです。たとえば、金融機関に対して、遺産隠しが疑われる相手の預貯金口座の取引履歴を送付するよう依頼することが考えられます。

遺産隠しなどの相続トラブルに見舞われたとき、頼りになるのは弁護士です。ただし、弁護士なら誰でもよいわけではなく、「相続に詳しい弁護士」を探す必要があります。

調査の結果、隠された遺産が見つかった場合の対処法を解説します。

遺産分割協議成立後に隠された遺産が見つかった場合、「当該遺産が存在することを知っていれば、そのような分割協議をしなかったであろう」と言えるときは、勘違いによる遺産分割協議であるとして、錯誤による取り消し(民法95条1項)を主張することができます。

また、当該遺産は存在しないと騙されたような場合には、詐欺による遺産分割協議の取り消し(民法96条1項)を主張する余地もあります。遺産分割協議の取り消しが認められた場合、分割協議をやり直すことになります。

なお、遺産分割協議の取り消しを主張せずに、見つかった遺産を対象に分割協議をすることも可能です。

【関連】遺産分割協議書を無効にしたい 無効や取り消しが主張できる具体例と手続き

隠された遺産が見つかり相続税の額が増加する場合、修正申告が必要です。放置してしまうと、過少申告加算税が課されるといったリスクがあるため注意しましょう。

遺産分割は、遺産分割時に存在する財産を分割する手続きであると考えられています。

したがって、遺産分割前に遺産がすでに使い込まれていた場合には、原則として、使い込まれてしまった遺産は分割の対象となりません。

ただし、遺産の使い込みをした相続人がその事実を認めている場合などには、使い込まれた遺産が存在するものとみなして、遺産分割を行うことができます(民法906条の2)。

また、遺産を不当に使い込んだ相手に対して、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を行うことも考えられます。

【関連】不当利得返還請求とは 使い込みの事例や請求できる要件、時効を解説

遺産の使い込みは、横領罪(刑法252条1項)や窃盗罪(刑法235条)といった犯罪に該当する可能性があります。ただし、一定の親族間における横領罪や窃盗罪は、刑が免除されます(刑法244条1項、255条)。

遺産隠しの対応について弁護士に依頼するメリットとしては、主に以下の4点があります。

  • 弁護士会照会ができる
  • 遺産隠しの疑いがある相続人との交渉を任せられる
  • 調停や訴訟の対応を任せられる
  • 精神的な負担が軽減される

弁護士は、弁護士会を通じて、官公庁や企業に照会して必要な事項の報告を求めることができます(弁護士法23条の2)。どのような事項の報告を求めるかはケースバイケースです。弁護士会照会を用いることによって、自分だけでは見つけられなかった遺産を発見できる可能性があります。

遺産隠しの疑いがある相続人との交渉を弁護士に任せることができます。弁護士であれば、法的な観点から相手を説得することが可能です。弁護士を立てることで相手に本気度も伝わり、相手が遺産隠しを認めるなど紛争が解決する可能性があります。

遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるのが一般的です。

調停とは、裁判所に間に入ってもらって、話し合いにより紛争の解決を図る手続きのことです。弁護士に依頼すれば、調停手続きへの対応も任せることができます。

また、遺産を不当に使い込んだ相手に対して、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟などを行う場合にも、弁護士に対応を任せることができます。

法的なトラブルへの対応は大きな精神的負担になるものです。相続に関するトラブルの場合、親族と交渉を行わなければならないことが多く、特に負担が大きいと考えられます。

弁護士に依頼することで、このような精神的負担の軽減が期待できます。実際に、「親族とのやり取りが精神的に辛い」といった理由で法律相談に来られる方も多いです。

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遺産調査のみの依頼であれば10万円〜20万円程度が弁護士費用の相場と思われます。ただし、弁護士ごとに料金設定が異なるため、依頼する場合は事前に費用を確認しておきましょう。

また、遺産調査とほかの相続手続きとを併せて依頼することも可能です。相続手続きを依頼する場合、遺産の金額によって弁護士費用が変動することがあります。

遺産隠しについてよくある質問と回答を紹介します。

Q. 遺産の隠し場所がわからない場合はどうすべきですか?

預貯金については、金融機関から取引履歴を取り寄せて内容を精査すべきです。

遺品に手掛かりがある場合もあるので調査してみるとよいでしょう。たとえば、金融機関からの郵便物が遺品として出てくれば、亡くなった人が当該金融機関を使っていた可能性があります。

また、亡くなった人のPCやスマホに、金融機関からのメールや金融機関のアプリなどが残っているケースがあります。

不動産については、登記事項証明書や名寄帳を調査するとよいでしょう。

Q. 遺産隠しに期間制限はある?

錯誤や詐欺を理由に遺産分割協議を取り消す場合、取消権は、追認することができるときから5年、または遺産分割のときから20年が経過することにより消滅します(民法126条)。

遺産を使い込んだ相手に対する不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求についても、それぞれの消滅時効の規定(民法166条、724条)が適用されます。

なお、遺産分割自体には期間制限はありません。ただし、相続開始のときから10年経過後に行う遺産分割については、原則として、特別受益及び寄与分は考慮されません(民法904条の3)。

Q. 遺産隠しを防止する方法はありますか?

遺産隠しを防止するためには、その人の遺産に何があるのか把握しておく必要があります。

被相続人が生きているうちに、相続人となる人は財産の具体的な内容について確認しておきましょう。遺言書や、万が一のことがあった際の「引き継ぎノート」とも言えるエンディングノートなどに、遺産について記載しておいてもらう方法も考えられます。

亡くなったあとの遺産の管理についても、特定の相続人に任せきりにしないほうがよいでしょう。

Q. 遺産隠しを疑われないようにするには?

亡くなった人の遺産を管理する場合、遺産隠しを疑われないように、管理の状況を記録に残しておいたり、ほかの相続人とこまめに情報を共有したりするなどの対策をすることが大切です。

なんらかの理由で遺産の現金を使う必要がある場合、事前にほかの相続人全員から了承を得るようにし、使った際の領収証も残しておきましょう。

遺産隠しへの対応にはさまざまなものがあります。自分たちだけで対応するのが難しいと感じた場合は弁護士への相談を検討するとよいでしょう。弁護士には、遺産隠しの疑いがある相続人との交渉はもちろん、調停や訴訟の対応も任せることができます。

(記事は2023年11月1日時点の情報に基づいています)

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