目次

  1. 1. 遺産分割協議書は無効になる場合や取り消せる場合がある
    1. 1-1. 無効と取り消しの違い
  2. 2. 遺産分割協議書が無効になるケース
    1. 2-1. 相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合
    2. 2-2. 一部の相続人が意思能力を欠いていた場合
    3. 2-3. 特別代理人の選任を怠った場合
    4. 2-4. 遺産分割の内容が公序良俗に反する場合
  3. 3. 遺産分割協議書を取り消せるケース
    1. 3-1. 重要な勘違いをしたまま同意した場合
    2. 3-2. 騙されて同意した場合
    3. 3-3. 脅されて同意した場合
  4. 4. 遺産分割協議書の無効や取り消しを主張する手続き
    1. 4-1. 再度の遺産分割協議
    2. 4-2. 遺産分割調停
    3. 4-3. 遺産分割の無効確認請求訴訟
  5. 5. 遺産分割協議書の無効や取り消しを主張する場合の時効
  6. 6. まとめ

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遺産分割協議書は原則として、当事者であるすべての相続人が合意したものとして変更はできません。しかし、無効事由や取消事由がある場合は、遺産分割協議書の無効や取り消しを主張できます。

遺産分割協議書の無効や取り消しが可能かどうかを相談できるのは、相続トラブルを取り扱うことができる弁護士のみです。不本意に遺産分割協議書を締結してしまった場合は、弁護士へ相談することをお勧めします。

無効になる事由がある場合、特に当事者による意思表示は必要なく、遺産分割協議書は当然に無効です。当事者による無効主張は、あくまでも遺産分割協議書そのものが無効であることの確認を求める趣旨に過ぎません。

これに対して取り消しできる事由がある場合、遺産分割協議書は取り消されるまでは有効です。取消権者(取り消しできる人)による取り消しの意思表示があって初めて、遺産分割協議書が当初にさかのぼり無効となります。

このように「無効」と「取り消し」の間には、当事者(取消権者)による意思表示が必要かどうかに違いがあります。しかし、最終的に遺産分割協議書が無効になる点は同じです。

遺産分割協議書が無効になる場合としては、以下の例が挙げられます。

  • 相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合
  • 一部の相続人が意思能力を欠いていた場合
  • 特別代理人の選任を怠った場合
  • 遺産分割の内容が公序良俗に反する場合
遺産分割協議書が無効になるケースを4つ紹介。相続人が1人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議は、原則として無効とみなされます
遺産分割協議書が無効になるケースを4つ紹介。相続人が1人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議は、原則として無効とみなされます

遺産分割協議には、相続人全員の参加が必須です。相続人が1人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議は、原則として無効となります。

ただし、行方不明の相続人については、家庭裁判所が選任する不在者財産管理人を代わりに参加させれば、遺産分割を行うことができる場合があります(民法25条1項、28条)。

相続人が「意思能力」を欠いている場合、遺産分割について有効に同意を与えることができません(民法3条の2)。

「意思能力」とは、自分の行為の結果を認識や判断できるだけの精神的な能力です。たとえば、認知症が深刻化した場合には、契約などの意味を正しく理解できなくなることがあります。これが「意思能力を欠いた」状態です。

参加した相続人のうち、1人でも意思能力を欠く者が含まれていた場合、遺産分割は無効です。この場合、有効に遺産分割を行うためには、意思能力を欠く相続人について後見開始の審判(民法7条)を申し立てたあと、選任された成年後見人を遺産分割協議に参加させなければなりません。

未成年の子と、その親がともに相続人である場合、親は子について、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません(民法826条1項)。相続人である親と子は、互いに遺産を取り合う関係(=利益相反関係)にあるためです。

特別代理人の選任を怠って、親が子の法定代理人として遺産分割に同意した場合は、遺産分割協議書が無効となります。

遺産分割協議書の条項が公序良俗に反する場合、その条項は無効となります(民法90条)。

(例)覚せい剤などの違法ドラッグを転売したうえで、代金を分割する旨の内容を盛り込んだ条項

公序良俗に違反する条項が存在する場合、無効となるのは、原則としてその条項のみです。ただし、当該無効が遺産分割の結果に大きな影響を与える場合、遺産分割協議書全体が無効になることもあります。

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遺産分割協議書を取り消せる場合としては、以下の例が挙げられます。

  • 重要な勘違いをしたまま同意した場合
  • 騙されて同意した場合
  • 脅されて同意した場合
遺産分割協議書を取り消せるケースを3つ紹介。重要な勘違いをしていた場合、遺産分割協議書を錯誤により取り消すことができます
遺産分割協議書を取り消せるケースを3つ紹介。重要な勘違いをしていた場合、遺産分割協議書を錯誤により取り消すことができます

【関連】遺産分割協議書の作成後に「騙された」と気づいたら取り消せる? 対処法や要件、期限を解説

遺産分割の内容について重要な勘違いをしていた場合、遺産分割協議書を錯誤により取り消すことができます(民法95条1項)。

(例)東京23区内の不動産を相続できると思って遺産分割に同意したのに、実際に相続したのは、他県に所在する別の不動産だった

ただし、遺産分割に同意した際に基礎とした事情(=動機)について勘違いがあった場合、遺産分割協議書を認識違いである錯誤により取り消すには、ほかの相続人に対して動機をあらかじめ表示していたことが必要です(同条2項)。

(例)時価1億円程度の不動産を相続できると思って遺産分割に同意したのに、実際には、その不動産の時価は2000万円程度だった→「相続できる不動産の時価が1億円程度だから、遺産分割に同意する」という動機の表示が必要

また、表意者に重大な過失がある場合には、遺産分割協議書の錯誤取り消しを主張できません(同条3項)。

(例)時価2000万円程度の不動産を、時価1億円程度であると勘違いしていたが、不動産相場を少し調べれば、それが勘違いであることは簡単にわかったはず→重大な過失があるため、錯誤の取り消しは認められない可能性が高い

さらに、錯誤の取り消しが認められる場合であっても、完全に落ち度がなく、注意を払っていたにもかかわらず、知らなかったという善意無過失の第三者には対抗できない点に注意が必要です(同条4項)。

(例)遺産分割協議書に基づいて相続人Aが取得した不動産を、Aが第三者Cに譲渡したあと、相続人Bが遺産分割協議書を錯誤により取り消した場合→Cが善意無過失であれば、Bは錯誤取り消しをCに対抗できず、Cが確定的に不動産の所有権を取得する

騙されて遺産分割に同意した場合は、遺産分割協議書を詐欺により取り消すことができます(民法96条1項)。

(例)ほかの相続人が、重要な遺産の存在を隠していた

(例)ほかの相続人が、特別受益として持ち戻すべき生前贈与を受けていたことを隠していた

ただし、相続人以外の者により騙されていた場合は、ほかの相続人が詐欺の事実を知り、または知ることができた場合に限り、遺産分割協議書の詐欺取り消しが認められます(同条2項)。

また、錯誤と同様に、詐欺取り消しについても、完全に落ち度がなく、注意を払っていたにもかかわらず、知らなかった善意無過失の第三者には対抗できない点を覚えておきましょう(同条3項)。

ほかの相続人に、同意しなければ家族に危害を加えるなどと脅されて遺産分割に同意した場合は、遺産分割協議書を強迫により取り消すことができます(民法96条1項)。

ただし、錯誤や詐欺と同様に、強迫取り消しも善意無過失の第三者には対抗できません(同条3項)。

なお、強迫の場合は詐欺と異なり、相続人以外の者により脅されていた際には、ほかの相続人が強迫の事実を知らず、かつ知ることができなかった場合でも、遺産分割協議書の取り消しが認められます(同条2項)。

遺産分割協議書の無効や取り消しは、以下の手続きによって主張します。

  • 再度の遺産分割協議
  • 遺産分割調停
  • 遺産分割の無効確認請求訴訟

相続人全員が合意すれば、あらためて遺産を分け直すことも可能です。

したがって、遺産分割の無効事由または取消事由があることを主張して、ほかの相続人に遺産分割のやり直しを求めることが考えられます。

相続人の間で協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。

遺産分割調停では、調停委員が各相続人の主張を公平に聞き取ったうえで、遺産分割トラブルに関する和解(調停)の成立をめざして調整を行います。調停委員に対し、無効事由または取消事由があることを伝えて、遺産分割のやり直しを促してもらいましょう。

遺産分割調停が不成立となった場合は、裁判所に遺産分割の無効確認請求訴訟を提起します。

遺産分割を取り消す場合も、取消権を行使したうえで遺産分割の無効を主張するので、当初から無効の場合と同様に、無効確認請求訴訟を提起することになります。

■遺産分割の無効確認請求訴訟の流れ■

(1)裁判所への訴状の提出
※期日間で答弁書、準備書面や証拠書類を提出

(2)口頭弁論期日(無効事由・取消事由の存在を出張・立証)
※口頭弁論の期日間において、争点整理のために弁論準備手続が行われることが多い

(3)判決

(4)控訴・上告
※判決書正本の送達日から2週間以内

(5)判決の確定

遺産分割協議書の無効事由が存在する場合、無効を行うにあたって、特に時効は設けられていません。

これに対して、遺産分割協議書の取消事由が存在する場合、取消権は以下のいずれかの期間が経過すると時効消滅します(民法126条)。

(1)追認できるときから5年間
(2)遺産分割のときから20年間

取消権の時効完成は、内容証明郵便を送付して取り消しの意思表示をすることや、遺産分割調停の申立てや無効確認請求訴訟の提起を行うことなどによって阻止できます。遺産分割の完了後、時間が経ってから取消事由が判明した場合には、速やかに弁護士に相談することが大切です。

相続人全員が遺産分割協議に参加していない、一部の相続人が意思能力を欠いていた、重要な勘違いをしたまま同意したなど、不本意に締結した遺産分割協議書を無効にするには、無効事由または取消事由が必要です。

遺産分割協議書の内容に納得できず、無効または取り消しを主張したい場合は、どの程度実現の見込みがあるのかについて、まずは弁護士に相談してみましょう。

(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)

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