目次

  1. 1. 成年後見制度とは
    1. 1-1. 成年後見制度を利用する目的:判断能力が低下した人の権利と利益を守る
    2. 1-2. 成年後見制度を利用するきっかけ:認知症が多数
  2. 2. 法定後見制度の概要と手続き
    1. 2-1. 法定後見の3つの類型と後見人等の権限
    2. 2-2. 法定後見人になれる人
    3. 2-3. 法定後見人を選任する手続きの流れ
    4. 2-4. 法定後見の申立権者、必要書類、費用
    5. 2-5. 法定後見開始後、判断能力がさらに低下した場合の取り扱い
    6. 2-6. 後見監督人、保佐監督人、補助監督人について
  3. 3. 任意後見制度の概要と手続き
    1. 3-1. 任意後見は「任意後見契約」に基づいて開始される
    2. 3-2. 任意後見人になれる人
    3. 3-3. 任意後見監督人の選任によって任意後見が開始される
    4. 3-4. 任意後見を開始する際の手続きの流れ
    5. 3-5. 任意後見の必要書類と費用
  4. 4. 成年後見制度に関する相談先
  5. 5. 成年後見制度に関する注意点やよくあるトラブル
    1. 5-1. 本人が単独で契約を締結できなくなる
    2. 5-2. 後見人等による横領のリスクがある
  6. 6. まとめ

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「成年後見制度」とは、判断能力が低下した本人のために、契約などの法律行為についてサポート役を選任する制度です。法定後見である成年後見、保佐、補助に、任意後見を加えた計4種類があります(詳しくは後述します)。

日本全体における高齢化の進展に伴い、成年後見制度の利用件数は年々増え続けている状況です。

成年後見制度の利用者数の推移。成年後見制度を利用する人の数は年々増えています 【引用元】厚生労働省「成年後見制度の利用者数の推移(平成28年~令和3年)」
成年後見制度の利用者数の推移。成年後見制度を利用する人の数は年々増えています 【引用元】厚生労働省「成年後見制度の利用者数の推移(平成28年~令和3年)」

成年後見制度の目的は、判断能力が低下した本人の権利と利益を守ることにあります。

成年後見制度を利用する場合、家庭裁判所によって契約締結などの法律行為に関するサポート役を選任され、さらに本人だけで法律行為をなすことが制限されます。

サポート役が本人の法律行為に関与することにより、詐欺などの被害に遭いにくくなるほか、介護施設への入居契約などをスムーズに締結できるようになることが期待できます。

申立ての動機別件数。預貯金等の管理・解約が約33%と最も多くなっています 【引用元】厚生労働省「申立ての動機別件数(令和3年)​​」
申立ての動機別件数。預貯金等の管理・解約が約33%と最も多くなっています 【引用元】厚生労働省「申立ての動機別件数(令和3年)​​」

成年後見制度の利用は、本人が認知症になったことをきっかけに検討するケースが多数となっています。高齢化に伴い認知症を発症した場合に、家族が主導して成年後見の申立てを行うケースが非常に多いです。

それ以外には、知的障害、統合失調症、高次脳機能障害などをきっかけとして、成年後見制度を利用するケースもよく見られます。

成年後見制度は、法定後見と任意後見の2つに大別されます。

まずは「法定後見」(成年後見、保佐、補助)について、制度概要と手続きを解説します。

法定後見は、民法所定の要件に基づいて開始され、サポート役の権限も民法のルールに従って決定されます。

法定後見には、「後見」「保佐」「補助」の3類型があります。

それぞれ開始要件が異なっており、判断能力の低下がもっとも顕著であるのが「後見」、進行度が中間的であるのが「保佐」、もっとも軽度なのが「補助」です。

本人のサポート役として選任される人のことを、後見では「成年後見人」、保佐では「保佐人」、補助では「補助人」と言います。本人の判断能力低下の進行度に合わせて、成年後見人の権限は最も大きく、補助人の権限は最も小さく設定されています。

被保佐人と成年被後見人・被補助人の違いとサポート役の権限の違い。成年後見人の権限は最も大きく、補助人の権限は最も小さく設定されています
被保佐人と成年被後見人・被補助人の違いとサポート役の権限の違い。成年後見人の権限は最も大きく、補助人の権限は最も小さく設定されています

【関連】被保佐人とは 一人でできないこと・できること、被後見人や被補助人との違いを解

成年後見人、保佐人、補助人になるためには、特別な資格は必要なく、家庭裁判所の判断によって選任されます。

ただし、以下の欠格事由(民法847条、876条の2第2項、876条の7第2項)のいずれかに該当する人は、成年後見人、保佐人、補助人になることができません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
  • 破産者
  • 本人に対して訴訟をしている者、またはした者、およびその配偶者、直系血族
  • 行方の知れない者

成年後見人、保佐人、補助人は、以下の流れで選任されます。

(1)家庭裁判所に対する申立て
本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立書類を提出します。

(2)家庭裁判所による調査と検討
家庭裁判所調査官による面談調査、鑑定、関係者への事情聴取などが行われます。

(3)家庭裁判所による審判(法定後見人の選任)
調査と検討の結果を踏まえて、家庭裁判所が法定後見を開始すべきか否かを判断します。開始の判断がなされた場合は、成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。

法定後見で後見人を選任する流れ。家庭裁判所による審査と面談、審判を経て成年後見人が決まります
法定後見で後見人を選任する流れ。家庭裁判所による審査と面談、審判を経て成年後見人が決まります

【関連】成年後見人を決めるには 申し立てから選任までの手続きの流れを解説

後見、保佐、補助を申し立てることができるのは、以下のいずれかに該当する人です(民法7条、11条、15条)。ただし補助に限り、本人以外が申し立てる場合は本人の同意を要します(民法15条2項)。

<申立権者>

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 後見人(成年後見の場合は未成年後見人)
  • 後見監督人(成年後見の場合は未成年後見監督人)
  • 保佐人(成年後見、補助のみ)
  • 保佐監督人(成年後見、補助のみ)
  • 補助人(成年後見、保佐のみ)
  • 補助監督人(成年後見、保佐のみ)
  • 検察官
  • 任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見契約が登記されている場合のみ)

後見、保佐、補助の申立ての必要書類は以下のとおりです。

<必要書類>

  • 申立書
  • 郵便切手
  • 戸籍謄本、住民票
  • 成年後見に関する登記事項証明書
  • 医師の診断書

後見、保佐、補助の申立てにあたっては、申立手数料800円と登記手数料2600円がかかります。そのほか、裁判所に納付する郵便切手(数千円分)、医師が作成する診断書の取得費用などが必要です。

認知症などで本人の判断能力低下がさらに進んだとしても、法定後見の種類が自動的に切り替わるわけではありません。切り替えるには、別途家庭裁判所に対する申立てが必要となります。

認知症などの進行に伴い、保佐や補助では本人の保護が不十分になるケースも想定されるため、病状に合わせた制度への切り替え(補助→後見または保佐、保佐→後見)をご検討ください。

成年後見人、保佐人、補助人の職務を監督するため、本人や親族の請求などによって、後見監督人、保佐監督人、補助監督人が選任されることがあります。成年後見人、保佐人、補助人が公正に職務を行うかどうか不安な場合は、各監督人の選任を申し立てることも考えられます。

後見監督人、保佐監督人、補助監督人は家庭裁判所が選任しますが、弁護士などの専門家が選任されるのが一般的です。

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法定後見と並ぶもう一つの成年後見制度である「任意後見」について、制度概要と手続きを解説します。

任意後見の大きな特徴は、民法のルールに基づいて開始される法定後見とは異なり、事前に締結された「任意後見契約」に基づいて開始される点です。

本人が信頼できる人を任意後見受任者として、あらかじめ任意後見契約を締結します。任意後見契約は、本人に十分な判断能力が残った状態で締結しなければなりません。

任意後見人の権限内容は任意後見契約によって決まるため、法定後見とは異なり、権限内容を自由に設定できるのが特徴です。

【関連】任意後見制度は家族や信頼できる人を自分で代理人にできる 気になる費用も解説

法定後見の場合と同じく、任意後見人になるために特別な資格は不要です。ただし、以下の欠格事由に該当する人は任意後見人になれません(任意後見契約に関する法律4条1項3号)。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
  • 破産者
  • 行方の知れない者
  • 本人に対して訴訟をしている者、またはした者、およびその配偶者、直系血族
  • 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

任意後見は、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時点で開始されます。任意後見監督人は、任意後見人の職務を監督する役割を担います。

任意後見監督人についても特別な資格は必要ありませんが、以下の欠格事由に該当する者は任意後見監督人になれません(任意後見契約に関する法律5条)。

  • 任意後見受任者または任意後見人と以下の続柄にある者
  • 配偶者
  • 直系血族
  • 兄弟姉妹

任意後見は、以下の流れで開始されます。

(1)任意後見契約の締結
本人と任意後見受任者の間で、任意後見契約を締結します。公正証書による締結が必須です(任意後見に関する法律3条)。

(2)任意後見監督人の選任申立て
本人の住所地の家庭裁判所に対して、任意後見監督人の選任を申し立てます。

(3)家庭裁判所による調査と検討
本人の事理弁識能力が不十分となったか否か(=「補助」と同等の開始要件)につき、家庭裁判所が調査と検討を行います。

(4)家庭裁判所による審判(任意後見監督人の選任)
家庭裁判所によって、任意後見監督人が選任され、任意後見が始まります。任意後見人は、任意後見監督人による監督の下、任意後見契約に従って職務を行います。

任意後見制度を利用するにあたっては、以下の書類と費用が必要になります。

<任意後見契約の締結時>
(a)必要書類

  • 本人の印鑑登録証明書(または顔写真付き身分証明書)
  • 本人の戸籍全部事項証明書
  • 本人の住民票
  • 任意後見受任者の印鑑登録証明書(または顔写真付き身分証明書)
  • 任意後見受任者の戸籍全部事項証明書

(b)費用

  • 公証役場の手数料(1契約につき1万1000円、4枚を超える場合は超過1枚あたり250円加算
  • 法務局に納める印紙代(2600円)
  • 法務局への登記嘱託料(1400円)
  • 書留郵便料(約540円)
  • 正本謄本の作成手数料(1枚当たり250円)
  • 公的書類の取得費用、など

<任意後見監督人の選任申立て時>
(a)必要書類

  • 本人の戸籍全部事項証明書
  • 任意後見契約公正証書の写し
  • 本人の成年後見等に関する登記事項証明書
  • 本人の診断書
  • 本人の財産に関する資料
  • 任意後見監督人の候補者がある場合は、その住民票または戸籍附票、など

(b)費用

  • 申立手数料800円分
  • 登記手数料1400円分
  • 公的書類の取得費用、など

成年後見制度の利用については、地域の社会福祉協議会や市区町村の高齢者福祉課、地域包括支援センターなどに相談できます。

また、弁護士や司法書士などの専門家にも相談可能です。実際の申立てを行うにあたっては、専門家へのご相談をお勧めします。

成年後見制度については、以下の注意点やトラブルのリスクにご留意ください。

  • 本人が単独で契約を締結できなくなる
  • 後見人等による横領のリスクがある

成年後見の場合は法律行為全般、保佐、補助、任意後見の場合は、サポート役の同意権の対象となる法律行為のため、本人は単独で行うことができなくなります。

サポート役による代理または同意が必要となることに伴い、契約締結などに手間がかかるほか、相続対策などを柔軟に行うことができなくなるので注意が必要です。

後見人等が権限を悪用して、本人の財産を横領してしまう事例が少なくありません。

親族が後見人等になると横領のリスクが高まるため、不安であれば弁護士や司法書士などの専門家を後見人等に推薦(任意後見の場合は選任)することが望ましいです。

成年後見制度を利用すれば、認知症などにより判断能力が低下した本人の権利や財産を守ることができます。ただし、後見人等による横領のリスクがあるため、信頼できる人を後見人等として推薦したり選任したりすることが大切です。

成年後見制度の利用についてわからないことがあれば、弁護士や司法書士にご相談ください。

(記事は2023年3月1日時点の情報に基づいています)

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