目次

  1. 1. 認知症になると資産を処分することが難しくなる
  2. 2. 任意後見は自分自身の意思で代理人を選ぶことができる
  3. 3. 任意後見とセットで結んでおいたほうがいい契約もある
  4. 4. 本人の判断力が低下したら任意後見監督人の選任申し立てを
  5. 5. 任意後見人を家族にするか専門職へ依頼するかで費用は大きく違う
  6. 6. 「任意後見」のメリット・デメリット
  7. 7. まとめ|利用の際は専門家に相談を

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内閣府の出している高齢社会白書によると、男性の平均寿命は80.98歳で健康寿命は72.14歳。女性の平均寿命は87.14歳で健康寿命は74.79歳となっています(平成28年時点)。平均寿命と健康寿命の差は男性で8.84年、女性で12.35年で、この期間は自宅または施設において介護を受けながら生活することになる人も多いでしょう。

健康寿命と平均寿命の推移 令和2年版高齢社会白書(概要版) 第1章第2節高齢期の暮らしの動向(出典)内閣府

また、身体の健康状態の低下のみならず、認知症になることへの不安を感じている方やご家族もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、認知症になると、資産を処分することが難しくなります。認知症になった親に代わって銀行の窓口へ行っても、口座を凍結されてしまいお金が下ろせないというのはよく聞く話です。

今回は、認知症になっても資産を適切に管理するための制度のうち、「任意後見制度」について検討のタイミングやメリット・デメリットについて解説します。

加齢や病気、事故などを原因として判断能力が低下し、長期にわたる療養が見込まれる、または回復が難しい場合に本人をサポートする制度のことを「成年後見制度」と言います。「成年後見制度」には大きく2つがあり、既に判断能力が衰えてしまった状態で利用される「法定後見」と、判断能力が衰える前にあらかじめ契約により代理人を決めておく「任意後見」に分かれます。

「法定後見」は、医師の診断書をもとに管轄の家庭裁判所へ申し立てることで裁判所が代理人を選任します。誰が代理人となるかは裁判所が決定するため、場合によっては家族や信頼する人が代理人になれないことがあります。しかし、「任意後見」は、家族や信頼できる人を自分自身の意思で代理人として選任することができ、公正証書により契約を結ぶことで成立するものです。もし身寄りがいない人でも弁護士や司法書士などの専門職を代理人とすることができます。

「任意後見」を利用するには、将来、本人にどのような事柄が必要になるかを、代理権として契約書に記載する必要があります。本人の判断能力がしっかりしているうちに準備ができるため、希望に適った内容にすることができるというメリットがあります。後見制度は財産を管理することが主なので、資産運用については原則認められません。しかし「任意後見」では、代理人の代理権の範囲に資産運用を入れることで認められる可能性があります。最終的には裁判所と監督人の判断によりますが、検討する余地はあると思います。

「任意後見」は、単体では本人の状況変化を確認するには十分ではないため、本人の様子を確認するために定期連絡や面談をする「見守り契約」や、判断能力はしっかりしているが入院してしまって身動きが取れない場合に代わって手続きを行える「任意代理契約」とセットで結んでおくといいでしょう。

また、本人が亡くなった後の葬儀や支払い、役所手続きなどのため「死後事務委任契約」が必要な場合もあります。最近では、家族がいても迷惑をかけたくないからという理由で、死後事務委任契約を結ぶ人も増えてきました。

「任意後見」は、公正証書により契約を結ばなければ効力を生じませんが、そのほかの契約については、適宜の方法でも認められることになっています。しかし、後のトラブルを避けるためにも、できるだけ公正証書で作成することをお勧めします。

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「任意後見」は契約を結んだ後、時間が経ってから始まることが多い傾向にあります。そのため、前述した「見守り契約」や「任意代理契約」を段階的に挟みながら、本人の判断能力の低下を見極めることになります。しかし、同居の家族であれば日々の変化に気づくことができますが、遠距離だと十分に確認できず不安が残ります。このような場合は、地域包括支援センターやケアマネージャー、介護ヘルパーと連携を図り、ネットワークを構築しておくことで本人の変化を見落とさないようにしましょう。

本人の判断能力が補助相当(判断能力が不十分であること)まで低下した時点で、家庭裁判所に任意後見監督人(任意後見人が任意後見契約の内容どおり適正に仕事をしているかを監督する人)の選任申し立てをしますが、現状では弁護士又は司法書士から選ばれることになります。なお、申し立てをすることができる人は、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人(受任者)です。

「任意後見」に関する費用は、任意後見人を家族にするか専門職へ依頼するかどうかにより大きく違いますが、今回は契約書作成を専門職へ依頼し、家族が任意後見人になるというケースでお話しします。任意後見契約は公正証書で作成するため、報酬と実費で分けると以下の通りです。なお、報酬額は平均的な司法書士事務所の金額を参考にしています。

【契約時】
報酬     8~15万円(税別)
実費  
公証人手数料
 基本手数料  1万1000円
 登記嘱託手数料 1400円
 収入印紙代   2600円
 雑費       数千円
合計     10~17万円(税別)

【申立時】
 申立手数料   800円
 登記嘱託手数料 1400円
 郵便切手   約4000円
 雑費      数千円
 ※任意後見監督人選任申立を依頼した場合、約10~15万円程度。

【任意後見開始時】
 任意後見監督人報酬   1〜3万円/月
 ※専門職を任意後見人に選ぶ場合は、3~5万円/月程度(本人の資産状況により変動あり)。

「任意後見」のメリットとしては、前述したように「法定後見」よりも本人の意思を反映しやすいという点が挙げられます。また、「法定後見」であれば認められない資産運用についても、任意後見であれば認められる可能性があります。

事業や会社経営をしている人の中には、創業株主として自社株を多く保有している方もいるでしょう。この場合、「法定後見」により裁判所が後見人を選ぶことになれば、事業が立ち行かなくなってしまう怖れがあります。家族信託により株式の権利を家族に預けたり、事業承継税制により株式を先に贈与してしまうという手法もありますが、任意後見の契約も併せて検討しておく必要があるでしょう。

「任意後見」のデメリットは、親族が任意後見人とならない場合は、費用が「法定後見」より高くなるという点が挙げられます。そのため、専門職が任意後見人となる場合は条件を保有資産3000万円以上などとしているケースもあるようです。これは、任意後見人報酬と任意後見監督人報酬が発生するうえ、本人の生活費もかかるからです。

「任意後見」が実際に始まった後は、契約内容の変更ができない可能性があります。そのため、できる限り早く取り組み、制度を利用する中で契約内容を変更する余地を残しておくことが重要です。

また、任意後見人が亡くなってしまった時のことも考えておかなければなりません。そのため、家族を含め、サポートしてくれそうな人が少ない場合は「任意後見」の利用が適していないこともあります。

今回は自分自身で財産管理や介護サービス等の契約を結ぶのが難しくなる場合に備えるための「成年後見制度」のうち、「任意後見制度」について説明してきました。実際には様々なケースが考えられるため、利用に当たっては専門家へ相談の上、早めに判断するのがいいでしょう。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)

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