成年後見人の費用はいくら? かかるお金すべて解説

成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれますが、この記事では、「法定後見」を利用するにあたり、気になるお金について解説します。
成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれますが、この記事では、「法定後見」を利用するにあたり、気になるお金について解説します。
目次
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法定後見は、本人の判断能力低下後、家庭裁判所に「後見等開始の申立て」し、後見人・保佐人・補助人の「後見人等」が選任されてから、後見業務がスタートします。
それぞれの場面において、費用が発生します。
(1)申立てから後見人等が選任されるまで一時的に発生
(2)後見人等が選任されて法定後見がスタートして終了するまで通常、制度利用中は毎年発生
法定後見を申し立てるために、申立書類を作成します。
この申立書類を揃えるための費用と、実際に申立書を裁判所に提出するときに納める手数料などがかかります。
その後、後見人等が選任されると、後見等の報酬が必要です。
申立時に、家庭裁判所に対して、申立手数料を支払います。申立手数料は、収入印紙で支払います。
前記申立手数料と併せて、裁判所に切手「予納郵券」を納めます。裁判所が、申立人等に対して審判書などを郵送することに使用する切手です。
用意する切手の種類と枚数には指定があります。各裁判所のホームページにも掲載されていますが、裁判所ごとに異なる場合もあります。事前に申立てを行う裁判所に確認すると良いでしょう。
●後見申立て:3270円分 内訳:500円×3100円×5、84円×10、 63円×4、20円×5、10円×6、5円×2、1円×8
●保佐・補助申立て:4210円分 内訳:500円×4、100円×5、84円×15、63円×4、20円×5、10円×7、5円×4、1円×8
※東京家庭裁判所のホームページより引用(※2020年8月現在)
裁判所は、後見人等の開始の申立てがあると、本人の精神上の障害の程度を判断するために、鑑定をしなければなりません。
鑑定は通常、裁判所から申立時に添付する診断書を作成した医師に対して直接依頼します。この鑑定費用は、医療機関ごとに異なります。10万円以下の場合が多いようですが、それ以上かかる場合もあるようです。
この鑑定は、裁判官が明らかに必要でないと判断した場合には行われません。鑑定が行われない場合は、鑑定費用もかかりません。
申立書類には、本人の状態を示すために医師の診断書を添付します。通常、申立人又は親族が本人の主治医に対して依頼します。
この診断書は、成年後見制度用に家庭裁判所が定めた特別な書式を使います。診断書作成費用も、医療機関ごとに異なりますが、概ね数千円程度のところが多いようです。
申立書類には、本人・申立人等の戸籍謄本・住民票が必要です。
発行手数料は、市町村ごとに異なりますが、1通あたりの手数料は概ね以下のとおりです。
●戸籍謄本 450円/通(本人・成年後見人等の候補者)
●住民票 300円/通(本人・成年後見人等の候補者)
なお、申立ての動機が遺産分割協議などの場合は、上記のほかに、相続関係を証する戸籍謄本等を一式提出します。
法定後見・任意後見を問わず、既に後見制度を利用しているのであれば、法務局で登録されます。これを登記と言います。
後見等の申立てをするにあたり、本人が他に後見制度を利用していないことを証明するため、「登記されていないことの証明書」を添付します。
この証明書は、法務局で取得します。
この発行手数料は、300円/通です。
ただし、これはすべての法務局で取り扱っているわけではありません。郵送の場合は、東京法務局後見登録課のみ利用可能です。
東京法務局後見登録課
全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課
成年後見の申立てには、多くの書類が必要です。
上記に挙げた診断書、戸籍謄本・住民票、登記されていないことの証明書の他に、費用がかかるものとして、主に以下の書類が必要です。
1.残高証明書
発行手数料は銀行ごとに異なる。ただし多くの場合、通帳の写しで対応可能。
2.不動産の登記事項全部証明書(登記簿謄本)
発行手数料 600円/通:財産に不動産がある場合に必要。法務局で取得できる。
3.固定資産評価証明書又は課税証明書
手数料は市区町村によって異なる。1不動産あたり300円程度。ただし、固定資産税・都市計画税納税通知書で対応可能な場合が多い。
その他に、各裁判所によって、他の書類を要求される場合があります。
後見人等の報酬額は、家庭裁判所の裁判官が決めますが、統一された明確な基準が示されているわけではありません。
平成25年1月1日付で、東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部が「成年後見人等の報酬額のめやす」(以下「めやす」といいます。)を出しています。
これを参考にすると、本人の財産額により、基本報酬は月額2~6万円程度とされています。
通常は、1年分の報酬額を本人の財産から支払うことになります。
上記「めやす」では、基本報酬のほかに、付加報酬として後見人等の仕事が特別困難な事情があった場合には、上記基本報酬額に50%の範囲内で相当額の報酬を付加する、とされています。
特別困難な事情とは、たとえば、本人の代わりに遺産分割協議を行った場合や不動産を売却した場合などが該当します。
裁判所からは、上記基本報酬額の決定と併せた額が決定されます。
法律家が、後見人等に選任されたとしても、上記「めやす」の基本報酬額と異なることはないでしょう。親族が後見人等になった場合でも、本人の財産から報酬を受領することができます。しかし、親族の場合には、報酬を辞退することが多いと思われます。
この場合は、下記の成年後見監督人の報酬を除き、後見人等の報酬はかかりません。
成年後見監督人(以下「監督人」といいます。)とは、家庭裁判所に代わって、後見人等の事務を監督する立場の者です。親族が後見人等に選任された場合に、監督人が選任されることがあります。監督人には、弁護士・司法書士などの法律の専門家が就くことが多いと思われます。
監督人が選任された場合には、上記「めやす」では、月額1~3万円程度とされています。
申立手数料等が支払えない場合には、申立てをしても裁判所は申立てを却下するか、または申立てを取り下げるように促します。
経済的な事情で成年後見制度が利用できない場合には、下記の助成制度の利用を検討しましょう。
生活保護受給者など、経済的に困窮している人向けに、費用助成を行う制度が用意されています。
1.市区町村
「成年後見制度利用支援事業」などの名称で、申立書作成や後見人等に支払う報酬に対する支援事業を行っています。詳しくは、住まいのある市区町村に問合せてください。
2.法テラス
弁護士・司法書士に支払う申立書作成の報酬や実費の費用立替制度。費用立替制度なので、原則は、分割して返済しなければなりません。
制度ごとに利用できる要件が定められていますので、利用できるかどうか、また利用できたとして何を助成してもらえるのかなど、各種条件を事前に問い合わせてみることをおすすめします。
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相続の相談が出来る司法書士を探す認知症などにより、判断能力が低下した場合に、日常の買い物に不自由が生じたり、銀行での手続きができなくなるなど、様々な場面で不都合が生じる可能性があります。
成年後見制度を利用することで、後見人等が通常どおり生活できるように支援します。
本人の状態に応じて、後見人などには家庭裁判所より権限が付与されます。後見人などは、付与された権限を通じて、収入や支出の管理、介護施設との契約や代金の支払いなど、本人が生活を維持・向上できるように、本人を支援します。
1.後見人
すべての法律行為を代わって契約できる。日常生活に関することを除き、本人がした契約を取り消すこともできる。
2.保佐人
借金や遺産分割をするなどの重要な法律行為に対する同意権を持つ。必要に応じて、特定の法律行為の代理権を追加し、又は同意権の範囲を拡大することができる。
3.補助人
必要に応じて、特定の法律行為の代理権又は同意権を付与することができる。
ただし、後見人等が行うの法律行為であるため、以下のような行為は権限外又は後見人等の職務ではありません。
1.医療行為や介護施設への入所を強制
2.手術などの医療行為に対する同意
3.入浴・食事等の介護などを現実に行うこと
4.婚姻、養子縁組など身分行為に関すること
成年後見制度を利用することで、それまで懸案だったことが解決できるようになります。
しかし、制度の特性上、利用することで本人と家族の環境が変化することで、一定のデメリットも生じます。
たとえば、専門職が後見人等に選任された場合、毎年報酬が発生します。
親族が予想以上に費用がかかったことを理由に、後見人等を解任したいと考えたとしても、勝手に解任させることはできません。
なぜなら、後見人等の選任又は解任できるのは家庭裁判所だけです。
後見人などを解任させるためには、後見人などに「不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由」が必要です。報酬が高いという理由だけでは解任事由にあたりません。
また、相性の悪い後見人等が就いた場合はどうでしょうか?上記の基準に当てはめた場合、相性が悪いという理由は解任事由になりません。
なお、仮に、家庭裁判所が後見人の解任を決定したとしても、後見制度自体が終了するわけではないので、次の後見人が選任されることになります。
後見人等は、生前贈与などの積極的な節税対策や資産運用はできません。
たとえば、本人から子に対して相続税対策として生前贈与することが家族にとってはメリットであったとしても、本人にとっては財産を減少することになり本人の利益にはつながりません。後見人等は、本人のために事務を行いますので、本人にとってデメリットとなることはできません。後見人は、本人の意思を尊重して後見人の職務を行う必要があります。しかし、判断能力が低下した状態で、本人の明確な意思を確認すること困難です。
そのため、成年後見が開始した場合には、後見人は積極的な資産運用ではなく、保全(現状維持)に重きをおいた運用となっています。
成年被後見人又は被保佐人となった場合には、医師や会社役員などの一定の資格・職種・業務等に就くことができなくなっていました。
しかし、令和元年に成立した「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」により、成年被後見人等というだけで一律に排除する規定を設けていた各制度を、個別的・実質的に審査し、各制度に必要な能力の有無を判断する規定へと、順次、各種法律に改正が加えられています。
成年後見制度の利用にあたっては、本人の職業・資格ごとに制限を加えられるかどうか、制限があった場合の本人への影響、について考慮する必要があるでしょう。
成年後見制度の中でも「法定後見」は、家族信託などの対策をしていなかった人でも法的な支援が受けられる最後の砦です。
ほとんどの場合、一度利用を開始したら本人が死亡するまで続きます。
数日で終了する場合もあれば、数十年続く可能性もあります。申立て時だけではなく、毎年、後見人等の報酬などで費用もかかります。みなさんの置かれている状況により、メリットにもなり、デメリットにもなる制度です。いろいろな制度の内容を知ったうえで、戦略的に成年後見制度を活用しましょう。
(記事は2020年8月1日現在の情報に基づきます)
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