成年後見人の費用はいくら? 申立て費から毎月の報酬まで かかるお金すべて解説
認知症などによって判断能力が低下した人を支援する成年後見制度は、「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。この記事では「法定後見」を利用するにあたって、気になるお金について司法書士が解説します。
認知症などによって判断能力が低下した人を支援する成年後見制度は、「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。この記事では「法定後見」を利用するにあたって、気になるお金について司法書士が解説します。
目次
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法定後見は、本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所に「後見等開始の申立て」し、後見人・保佐人・補助人の「後見人等」が選任されてから、後見業務がスタートします。
費用は、それぞれの場面において発生します。
詳しく見ていきましょう。
まず、申立てから後見人等選任までの費用について解説します。これは一時的な費用と言えます。
法定後見を利用するには、申立書類の作成が必要です。この申立書類を揃えるための費用と、実際に申立書を裁判所に提出するときに納める手数料などがかかります。
申立時に、家庭裁判所に対して、申立手数料として800円分の収入印紙が必要です。後見人の登記を行うため登記手数料2600円分もあわせて収入印紙で支払います。保佐・補助の場合で、代理権や同意権付与の申立を行う場合には、さらにそれぞれ800円分の収入印紙が必要となります。
申立手数料と併せて、裁判所に「予納郵券(切手)」を納めます。裁判所が、申立人等に対して審判書などを郵送することに使用する切手です。
用意する切手の種類と枚数には指定があります。各裁判所のホームページにも掲載されていますが、裁判所ごとに異なる場合もあります。事前に申立てを行う裁判所に確認すると良いでしょう。以下は、東京家庭裁判所の金額です(※2023年9月15日現在)。
【後見申立の郵便切手代】
3720円分(内訳:500円×3枚、100円×7枚、84円×15枚、 20円×10枚、10円×5枚、2円×5枚)
【保佐・補助申立の郵便切手代】
4920円分(内訳:500円×5枚、100円×9枚、84円×15枚、20円×10枚、10円×5枚、2円×5枚)
申立書類には、本人の状態を示すために医師の診断書を添付します。通常、申立人又は親族が本人の主治医に対して依頼します。
この診断書は、成年後見制度用に家庭裁判所が定めた特別な書式を使います。診断書作成費用も、医療機関ごとに異なりますが、おおむね数千円程度のところが多いようです。
申立書類には、本人・申立人等の戸籍謄本・住民票が必要です。
発行手数料は、市町村ごとに異なりますが、1通あたりの手数料はおおむね以下のとおりです。
なお、申立ての動機が遺産分割協議などの場合は、上記のほかに、相続関係を証する戸籍謄本等一式を提出します。
法定後見・任意後見を問わず、既に後見制度を利用しているのであれば、法務局で登録されます。これを登記と言います。
後見等の申し立てをするにあたり、本人が他に後見制度を利用していないことを証明するため、「登記されていないことの証明書」を添付します。この証明書は、法務局で取得します。
この発行手数料は、証明書1通につき300円で、収入印紙を申請書に添付して納めます。
提出先は、東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課で、支局・出張所では取り扱っていません。郵送の場合は、東京法務局後見登録課のみ利用可能です。
裁判所は、後見人等の開始の申立てがあると、本人の精神上の障害の程度を判断するために、鑑定をしなければなりません。
鑑定は通常、裁判所から申立時に添付する診断書を作成した医師に対して直接依頼します。この鑑定費用は、医療機関ごとに異なります。10万円以下の場合が多いようですが、それ以上かかる場合もあるようです。
この鑑定は、裁判官が明らかに必要でないと判断した場合には、鑑定は行われません。鑑定が行われない場合は、鑑定費用もかかりません。
成年後見の申立てには、多くの書類が必要です。上記に挙げた診断書、戸籍謄本・住民票、登記されていないことの証明書の他に、費用がかかるものとして、主に以下の書類が必要です。
【残高証明書】
発行手数料は銀行ごとに異なる。ただし多くの場合、通帳の写しで対応可能。
【不動産の登記事項全部証明書(登記簿謄本)】
発行手数料600円/通。財産に不動産がある場合に必要。法務局で取得できる。
【固定資産評価証明書または課税証明書】
手数料は市区町村によって異なる。1不動産あたり300円程度。ただし、固定資産税・都市計画税納税通知書で対応可能な場合が多い。
その他に、各裁判所によって、他の書類を要求される場合があります。
司法書士に成年後見人の選任申立を依頼すると10万円程度、弁護士に依頼すると20万円程度かかります。
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相続の相談が出来る司法書士を探す次に、法定後見がスタートしてから毎月発生する報酬する成年後見人への報酬について解説します。
後見人等の報酬額は、家庭裁判所の裁判官が決めますが、統一された明確な基準が示されているわけではありません。
東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部が2013年1月1日付で示した「成年後見人等の報酬額のめやす」(以下「めやす」)によると、本人の財産額に応じ、基本報酬は月額2~6万円程度とされています。
具体的な成年後見人の報酬の「めやす」は以下の通りです。
通常は、毎年、後見人等が家庭裁判所への定期報告時に報酬付与の申立を行い、報告期間1年分の報酬として、家庭裁判所が決定した報酬額を本人の財産から支払うことになります。
上記「めやす」では、基本報酬のほかに、付加報酬として後見人等の仕事が特別困難な事情があった場合には、上記基本報酬額に50%の範囲内で相当額の報酬を付加する、とされています。
特別困難な事情とは、たとえば、本人の代わりに遺産分割協議を行った場合や不動産を売却した場合などが該当します。家庭裁判所からは、上記基本報酬額の決定とあわせた額が決定されます。
弁護士や司法書士などの法律専門職が、後見人等に選任されたとしても、上記「めやす」の基本報酬額と異なることはないでしょう。
親族が後見人等になった場合でも、本人の財産から報酬を受領することができます。しかし、親族の場合には、報酬を辞退することが多いと思われます。この場合は、下記の成年後見監督人の報酬を除き、後見人等の報酬は発生しません。
成年後見監督人(以下「監督人」といいます。)とは、家庭裁判所に代わって、後見人等の事務を監督する立場の者です。親族が後見人等に選任された場合に、監督人が選任されることがあります。監督人には、弁護士・司法書士などの法律専門職が就くことが多いと思われます。
監督人が選任された場合には、上記「めやす」では、月額1~3万円程度とされています。
申立手数料等が支払えない場合には、申立てをしても裁判所は申立てを却下するか、または申立てを取り下げるように促します。
経済的な事情で成年後見制度が利用できない場合には、下記の助成制度の利用を検討しましょう。
生活保護受給者など、経済的に困窮している人向けに、費用助成を行う制度が用意されています。
【市区町村】
「成年後見制度利用支援事業」などの名称で、申立書作成や後見人等に支払う報酬に対する支援事業を行っています。詳しくは、本人の住まいのある市区町村に問い合わせてください。
【法テラス】
法テラスは、弁護士・司法書士に支払う申立書作成の報酬や実費の費用立替制度を行っています。費用立替制度なので、原則は、分割して返済しなければなりません。
制度ごとに利用できる要件が定められていますので、利用できるかどうか、また利用できたとして何を助成してもらえるのかなど、各種条件を事前に問い合わせてみることをおすすめします。
認知症などにより、判断能力が低下した場合に、日常の買い物に不自由が生じたり、銀行での手続きができなくなるなど、様々な場面で不都合が生じる可能性があります。
成年後見制度を利用することで、後見人等が通常どおり生活できるように支援します。
判断能力が低下した人(以下、本人)の状態に応じて、家庭裁判所によって後見人、保佐人、補助人のいずれかが選任され、権限が付与されます。後見人などは、付与された権限を通じて、収入や支出の管理、介護施設との契約や代金の支払いなど、本人が生活を維持・向上できるように、本人を支援します。
【後見人】
すべての法律行為を代わって契約できる。日常生活に関することを除き、本人がした契約を取り消すこともできる。
【保佐人】
借金や遺産分割をするなどの重要な法律行為に対する同意権を持つ。必要に応じて、特定の法律行為の代理権を追加し、又は同意権の範囲を拡大することができる。
【補助人】
必要に応じて、特定の法律行為の代理権又は同意権を付与することができる。
ただし、後見人等が行うのは法律行為であるため、以下のような行為は権限外又は後見人等の職務ではありません。
なお、後見人、保佐人、補助人は権限こそ違いますが、申立てにかかる費用や報酬額に違いはありません。
成年後見制度を利用することで、それまで懸案だったことが解決できるようになります。
しかし、制度の特性上、利用することで本人と家族の環境が変化することで、一定のデメリットも生じます。
たとえば、専門職が後見人等に選任された場合、毎年報酬が発生します。親族が予想以上に費用がかかったことを理由に、後見人等を解任したいと考えたとしても、勝手に解任させることはできません。
なぜなら、後見人等の選任又は解任できるのは家庭裁判所だけです。後見人等を解任させるためには、後見人等に「不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由」が必要です。報酬が高いという理由だけでは解任事由にあたりません。
また、相性の悪い後見人等が就いた場合はどうでしょうか?上記の基準に当てはめた場合、相性が悪いという理由は解任事由になりません。
なお、仮に、家庭裁判所が後見人等の解任を決定したとしても、後見制度自体が終了するわけではないので、次の後見人等が選任されることになります。
後見人等は、生前贈与などの積極的な節税対策や資産運用はできません。
たとえば、本人から子に対して相続税対策として生前贈与することが家族にとってはメリットであったとしても、本人にとっては財産を減少することになり本人の利益にはつながりません。後見人等は、本人のために事務を行いますので、本人にとってデメリットとなることはできません。後見人等は、本人の意思を尊重して後見人等の職務を行う必要があります。しかし、判断能力が低下した状態で、本人の明確な意思を確認することは困難です。
そのため、成年後見が開始した場合には、後見人等は積極的な資産運用ではなく、保全(現状維持)に重きをおいた運用となっています。
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相続の相談が出来る司法書士を探す成年後見の申立てにかかる手続き費用については、申立人が支払うことが原則です。ただし、申立書に手続費用を本人負担とすることを希望する旨の上申をし、家庭裁判所がこの希望を認めた場合には、印紙代(申立手数料、登記手数料)、予納郵券、鑑定費用の全部又は一部については、本人の負担とすることができる場合があります。
一方で、選任された成年後見人や成年後見監督人に支払う報酬については、支援を受ける本人の財産から支払うことになります。
成年後見人が選任され、成年後見制度がスタートしたら、本人が死亡するなどの終了事由が発生するまで支払いが続きます。
報酬の支払いがきつくなったなど親族の都合で制度の利用を中止することはできません。制度の利用には慎重な判断が必要です。なお、成年後見人には守秘義務があり、たとえ親族に対してであっても本人の財産額を開示することはありません。通常、親族が本人の財産額を正確に知ることは難しいでしょう。
司法書士に成年後見申立ての手続きの代行を依頼すると、10万円前後の費用がかかります。また、司法書士に成年後見人になってもらった場合は、本人の財産額や業務に応じ、月2~6万円程度となります。なお報酬額には、東京家庭裁判所が示した「めやす」があり、後見人を務める司法書士や弁護士が自由に決めることはできません。
成年後見制度の中でも「法定後見」は、家族信託などの対策をしていなかった人でも法的な支援が受けられる最後の砦です。
ほとんどの場合、一度利用を開始したら本人が死亡するまで続きます。数日で終了する場合もあれば、数十年続く可能性もあります。申立て時だけではなく、毎年、後見人等の報酬などで費用もかかります。みなさんの置かれている状況により、メリットにもなり、デメリットにもなる制度です。いろいろな制度の内容を知ったうえで、戦略的に成年後見制度を活用しましょう。
わからないことがあれば、成年後見に力を入れている司法書士や弁護士に相談することも検討してみましょう。
(記事は2023年11月1日現在の情報に基づきます)
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